[第2特集]ゼロから始めるプログラミング授業 ここはおさえたい 小学校プログラミング教育の授業づくり

トピック教育課題

2020.07.29

[第2特集]ゼロから始めるプログラミング授業
ここはおさえたい 小学校プログラミング教育の授業づくり

放送大学教授 
中川一史

『新教育ライブラリ Premier』Vol.1 2020年5月

 文部科学省(2020)小学校プログラミング教育の手引第三版(以下、「手引」とする)では、小学校プログラミング教育のねらいとして、「『プログラミング的思考』を育むこと」「プログラムの働きやよさ、情報社会がコンピュータをはじめとする情報技術によって支えられていることなどに気付くことや、身近な問題の解決に主体的に取り組む態度やコンピュータ等を上手に活用してよりよい社会を築いていこうとする態度などを育むこと」「各教科等の内容を指導する中で実施する場合には、教科等での学びをより確実なものとすること」の3点が示されている。

 また、「手引」では、小学校段階のプログラミング教育に関する学習活動の分類(例)として、6分類に整理している(図1)。もちろん、C分類やD分類もいろいろな場面で想定できるが、教科・領域にプログラミング教育に関する学習活動をどのように埋め込んでいけばよいのか(主にA分類およびB分類)は多くの学校で検討が必要になる(四角囲み:筆者)。では、A分類について、学習指導要領上の表記はどうなっているのだろうか。

 例えば、理科は、「〔第6学年〕の「A物質・エネルギー」の(4)における電気の性質や働きを利用した道具があることを捉える学習など、与えた条件に応じて動作していることを考察し、更に条件を変えることにより、動作が変化することについて考える場面で取り扱うものとする」となっていて、算数は、「〔第5学年〕の「B図形」の(1)における正多角形の作図を行う学習に関連して、正確な繰り返し作業を行う必要があり、更に一部を変えることでいろいろな正多角形を同様に考えることができる場面などで取り扱うこと」と示されている。

 これら理科と算数については、教科書(全社)にも掲載されており、ある程度、進めるイメージももてるであろう。しかし、B分類は、まさに各学校で創出していくものである。「プログラミング的思考」と「教科・領域のねらい」が重なる部分について、授業の内容をこの部分に落とし込むことになる。

プログラミング的思考とは

 では、「プログラミング的思考」とは、どんなものなのか。「手引」では、「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」としている。

 例えば、「手引」では、前出の学習指導要領でも例示されている5年・算数「図形」の例として、コンピュータソフトを使って正三角形をプログラムする活動が載っている。プログラミングでは、「長さ100進む→右に120度曲がる」というコマンドを3回繰り返す。これが図2の「想定」の部分だ。そのあと、プログラムを実施して確かにそうなるか試してみる。これが「動作」だ。さらに、変数を変えるなどの処理で四角形や多角形に応用できることに気付き、それを適用することになる。これは「実際」だ。想定通りにいかなかった場合は、修正・改善する。この一連のサイクルを論理的に考えていくことが、プログラミング的思考の一例だと言える。

 ここで重要なのは、プログラム体験だけ(「想定」→「動作」のプロセス)で満足しないことだ。プログラミング的思考とは「想定から実際を見通せること」を意味する。このような力を磨くためには、「動作」で得た結果を適用し、一般化・抽象化したり、組み合わせを変えたりしながら、「動作→実際」まで論理的に導くことが重要なのだ。ある中学校の理科で生徒がグループで話し合い、実験の適切な手順を考え実際に課題が解決するか確認する授業があった。これなど、まさに「想定」から「動作」を通し、「実際」まで到達させた例だろう。

教科・領域横断的な見通し

 「手引」には、カリキュラム・マネジメントの重要性についても、「プログラミング教育のねらいを実現するためには、各学校において、プログラミングによってどのような力を育てたいのかを明らかにし、必要な指導内容を教科等横断的に配列して、計画的、組織的に取り組むこと、さらに、その実施状況を評価し改善を図り、育てたい力や指導内容の配列などを見直していくこと(カリキュラム・マネジメントを通じて取り組むこと)が重要(略)」としている。教科書に出てくるA分類の5年・算数、6年・理科を含めながら、どの学年のどの教科・領域またはC分類で示すような学校裁量を含め、学習活動を実施し、さらにプログラミング教育だけではなく、どのような情報活用能力を育てることになるのか、全校的に教科・領域横断的に進めていくことが重要である。そして、学習指導要領において、情報活用能力にプログラミング的思考が含まれるとされていることから、中学校においても、技術・家庭科だけでなく、全教科で意識し、埋め込んでいくことが重要である。

 

Profile
中川一史(なかがわ・ひとし) 横浜市の小学校教師、教育委員会、金沢大学教育学部教育実践総合センター助教授、独立政法人メディア教育開発センター教授を経て2009年より現職。文部科学省:「デジタル教科書」の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン検討会議(座長代理)、学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議(副座長)他、教育の情報化に係る多数の委員を歴任。

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