Leader’s Opinion〜令和時代の経営課題〜 [今月のテーマ]働き方改革のリアル 妹尾昌俊+高野敬三
トピック教育課題
2020.08.12
Leader’s Opinion〜令和時代の経営課題〜
[今月のテーマ]働き方改革のリアル 妹尾昌俊+高野敬三
働き方改革で必須となる考え方
休校が長引くなかで、優先順位と劣後順位を見極める
教育研究家
妹尾昌俊
(『新教育ライブラリ Premier』Vol.1 2020年5月)
休校のなかで見えてきたこと
休校(臨時休業)が長引いている。本稿執筆時点では、5月末までの休校措置をとる地域も多い。今後の見通しも不透明だ。学校に登校する、授業を受ける、部活動に励むといった日常が失われてしまった。
こうしたなか、改めて、多くの人が(教職員も、保護者も、そして児童生徒も、社会も)考えたのは、学校の役割、機能ではないだろうか。
学校にはさまざまな役割、機能があるが、大きく分けると、ひとつは福祉的な役割だ。子どもたちにとって、学校は安全安心な場所であり、保護者としては安心して預けておける(仕事に出かけられる)という意味で。
3月の急な全国一斉休校では、多くの人がまずこの部分に注目した。共働き家庭やひとり親家庭にとって、「子どもたち(とりわけ小学校低学年)がずっと家にいるのは、困る、不安だ」と。あるいは「給食が栄養、健康を支えている子もいるので、休校になって心配」という声も聞かれた。
学校は保育所、託児所、あるいは児童館ではなく、教育機関であるとはいえ、子どもたちの安心できる居場所としての機能は重要だ。
第二に、教育の場であること、児童生徒の学習権を保障する役割だ。こちらは教師にとっては本業中の本業とはいえ、休校が長期化するなかで、心もとない状況になりつつあるのではないか。まさか、先生方は、学習プリントを配って「やっておくように。後日テストします」だけで本当に子どもたちの学びが豊かになると思っているのだろうか?
いわゆる5教科のことだけでなく、子どもたちの運動や芸術・文化的な活動が乏しくなっていることも気がかりだ。「ステイホーム」とはいえ、自宅にひきこもってばかりでは、子どもたちの感受性や五感はどうなるだろうか。
休校中の業務も見つめ直してみよう
さて、本稿の主題は学校の働き方改革だが、学校の役割、機能で何を重視するかという話と働き方改革は密接に関連する。
たとえば、一例をあげると、休校中に教員が地域のパトロールをした地域はけっこうある。わたしが3月の休校中に実施した調査によると、巡回したという回答は小中学校の3〜4割に上った。愛媛県では、小中高の教職員が地域の方と連携してショッピングモールやゲームセンターを休校中、毎日見回ったそうだが、ここまではやりすぎではないだろうか?
福祉と教育と両面での効果があるかもしれないが、学校の管理外のことに、教職員を借り出す(あるいは教職員が駆けつける)というのは、日本の学校が丁寧にやりすぎてきたことのひとつだと思う。また、学校がでしゃばることで、「それが普通だ、学校がやってくれるものだ」と保護者や地域は勘違いしてしまう。
また、地域によっては、休校中の子どもたちの様子を確認するべく、全児童生徒に週に1度は電話しろ、という指令が教育委員会(または校長)から飛んでいると聞いた。電話は2回線しかないのに、電話をかけるだけで疲弊してしまうという先生たちの声に、教育委員会や校長は耳を傾けているのだろうか。
優先順位と劣後順位を考えよ
新型コロナウイルスのような危機のときだからこそ、限られた人員の時間とエネルギーは、優先順位を付けて、真に重要なところに投下していくべきだ。この発想に慣れていくと、平時のときにも役立つ。
たとえば、学校の福祉的な役割について言えば、ウェブでつながれる子どもたちとは、ウェブ会議アプリでちょっとした雑談や交流ができるといいだろう。Zoomなどを使って、オンライン保健室やオンライン面談を実施している学校もある。
インターネット環境のない子には、Wi‒Fiの貸し出しや学校等の設備の一部を利用可能にしたりする支援が必要だろうし、一部は電話などを組み合わせてもいいだろう。
「みんな同じようにしないといけない」という発想では、前に進まず、結局全員にとって支援、働きかけがゼロになってしまう。これでは結果的に、家庭の教育力等による格差を広げることになってしまう。
学校の教育的な役割について見ても、授業動画をせっせと作っている学校も多いが、まずは授業よりも、子どもたちと先生たち、そして子ども同士がつながることが先決ではないだろうか。いくら動画コンテンツなどがいっぱいあっても、見ない子は見な
いし、学習が続かない子も少なくない。プリントや参考書等、オフラインでも教材はたくさんある。動画づくりを否定するわけではないが、各校にとって優先的な課題は、子どもたちを励ましたり、進ちょくを確認してアドバイスしたりすることのほうだ。
また、たとえば、国語や社会の一環として、作文を集めて文集づくりをするとか、図工・美術の一環として作品を持ち寄って展示会をする(時間はバラバラに登校してもらい、密を避ける)など、ICTを使わなくてもできることはけっこうある。
大事なのは、優先的にやるべきことと、そこに時間とエネルギーを割くために、あえて手を抜くところや、やらないことを決めることだ。こうした劣後順位を決めて行動することの重要性は、P・ドラッカーも提唱している。
大変でストレスの溜まりがちな日々が続いているが、こういうときこそ、時間という最大の資源を大切にしたい。
※本稿の関連することや論じきれなかったことは、下記の拙著やヤフーニュース解説記事などもご参照ください。
•『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』
•『「先生が忙しすぎる」をあきらめない』
•『教師崩壊』
Profile
妹尾昌俊(せのお・まさとし) 野村総合研究所を経て、2016年から独立し、教職員向け研修などを手がけている。著書に『変わる学校、変わらない学校』『学校をおもしろくする思考法―卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』『教師崩壊』など。学校業務改善アドバイザー(文科省委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員なども務めた。