解説から読む「特別の教科道徳」の実践課題と授業構想

トピック教育課題

2019.09.14

解説から読む「特別の教科 道徳」の実践課題と授業構想

秋田公立美術大学副学長 毛内嘉威

新教育課程ライブラリII Vol.8 2017年8月

改訂の背景

 今回の改正は、いじめの問題への対応の充実や発達の段階をより一層踏まえた体系的なものとする観点からの内容の改善、問題解決的な学習を取り入れるなどの指導方法の工夫を図ることである。また、発達の段階に応じ、答えが一つではない道徳的な課題を一人一人の児童が自分自身の問題と捉え、向き合う「考える道徳」「議論する道徳」へと質的転換を図るものである。

 道徳科の授業については、問題解決的な学習や体験的な学習を取り入れ、指導方法を工夫するとなっている。これは、単に問題解決的な学習や体験学習を取り入れるということではなく、子供が多様な価値観を前提にして、他者と対話したり協働したりしながら、主体的に考え、議論する道徳科への質的転換を意図している。

 ここでは、特別の教科である道徳(道徳科)の特質について踏まえ、それを生かした授業構想の基本的な考え方について論じていく。

道徳科の特質

 道徳科が目指すものは、学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の目標と同じく道徳性を養うことである。

 道徳科の特質は、道徳科以外における道徳教育と密接な関連を図りながら、計画的、発展的な指導によって、これまで通り、補充、深化、統合し、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を養うことである。

道徳科の目標と授業の構想

(「第3章 特別の教科道徳」の「第1目標」)

 第1章総則の第1の2の(2)に示す道徳教育の目標に基づき、よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる。


 道徳科では、上記の道徳科の目標に向かって授業を構想することが大切である。特に、次の事項を押さえることが大事になる。

(1)道徳教育の目標に基づいて行う
 道徳科も学校の教育活動であり、道徳科が目指すものは、主体的な判断に基づいて道徳的実践を行い、自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことである。授業の構想においても、このことを忘れてはならない。

(2)道徳的価値について理解する
 道徳的価値とは、人間としてよりよく生きるために必要とされるものであり、人間としての在り方や生き方の礎となるものである。学校教育においては、これらのうち発達の段階を考慮して、子供が道徳的価値観を形成する上で必要なものを内容項目として取り上げている。子供が将来、様々な問題場面に出合った際に、その状況に応じて自己の生き方を考え、主体的な判断に基づいて道徳的実践を行うためには、社会で共有されている道徳的価値の意義や大切さの理解が必要となる。

①価値理解
 道徳科の授業の構想で大切な一点目は、人間としてよりよく生きる上で大切な内容項目を理解させることである。例えば、実際の授業では、登場人物が道徳的価値の意義やよさを実感したときの考えや思いを発問することなどである。

②人間理解
 二点目は、道徳的価値は大切であってもなかなか実現することができない人間の弱さなどを理解させることである。例えば、実際の授業では、登場人物が道徳的価値の意義やよさをわかりながらも受け入れられない考えや思いを発問したり、実現できなかったときの思いを発問したりすることなどである。

③他者理解
 三点目は、道徳的価値を実現したり、実現できなかったりする場合の感じ方、考え方は一つではない、多様であるということを前提として理解させることである。登場人物の悩みや迷いを想像することで多様な感じ方、考え方が表れ、他者理解が深まっていく。例えば、実際の授業では、登場人物が道徳的価値の意義やよさ、実現することの難しさを総合的に考察する発問をすることである。

④道徳的価値を理解する学習
 道徳的価値は人間らしさを表すものである。そのため、授業の構想では、価値理解と同時に人間理解や他者理解を深めていくように展開する必要がある。道徳科の中で道徳的価値の理解をどのように行うのかは、授業者の意図や工夫によるが、自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うには、道徳的価値について理解する学習を欠かすことはできない。指導の際には、単に道徳的価値のよさや大切さを絶対的なものとして観念的に理解させる学習にならない配慮が必要になる。

(3)自己を見つめる
 道徳的価値の理解を図るには、子供一人一人がこれらの理解を自分との関わりでとらえることが大切となる。人間としてよりよく生きる上で大切な道徳的価値を、子供が自分のこととして感じたり考えたりすることである。自己を見つめるとは、これまでの自分の経験やそのときの感じ方、考え方と照らし合わせながら、自分との関わりで考えさせるようにすることである。このような道徳的価値を自覚する学習を通して、子供一人一人は、道徳的価値の理解と同時に自己理解を深めることになる。また、子供自ら道徳性を養う中で、自らを振り返って成長を実感したり、これからの課題や目標を見付けたりすることができるようにもなる。

 道徳科の授業においては、子供が道徳的価値に照らして自己を見つめることができるような学習を通して、道徳性を養うことの意義について、子供自らが考え、理解し、主体的に学習に取り組むことができる学習を構想することが大切である。

(4)物事を多面的・多角的に考える
 よりよく生きるための基盤となる道徳性を身に付けさせるためには、多様な価値観の存在を前提に授業を構想する必要がある。また、子供が他者や自己と対話しながら、物事を多方面からとらえたり、様々な角度から考えたりする機会を設定し、多様な感じ方や考え方に触れさせる授業を工夫することも大切である。そのためには、道徳的価値の多面性に着目させ、それを窓口にして考えさせることが求められる。

(5)自己の生き方についての考えを深める
 子供は道徳的価値の自覚を深める過程で、同時に自己の生き方についての考えを深めていく。特にそのことを強く意識させる授業の構想が重要である。子供が道徳的価値の理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考えることで、自己の中に形成された道徳的価値観を基盤として、自己の生き方についての考えを深めていくことができるようにすることが大切である。子供は、道徳的価値の理解を深めたり、自己を見つめたりする過程で同時に自己の生き方についての考えも深めている。その際、道徳的価値の理解を自分との関わりで深められるようにしたり、自分自身の体験やそれに伴う考え方や感じ方などを想起できるようにしたりするなど、特に自己の生き方についての考えを深めることを強く意識した授業の構想が求められている。

(6)道徳的判断力、心情、実践意欲と態度を育てる
 道徳科の目標は、よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことである。道徳性とは、人間としてよりよく生きようとする人格特性であり、その中核となっているのが道徳的判断力、道徳的心情、道徳的実践を主体的に行う意欲と態度を中心とした内面的資質と言える。

 道徳的判断力とは、それぞれの場面において善悪を判断する能力である。つまり、人間として生きるために道徳的価値が大切なことを理解し、様々な状況下において人間としてどのように対処することが望まれるかを判断する力である。

 道徳的心情とは、道徳的価値の大切さを感じ取り、善を行うことを喜び、悪を憎む感情のことである。人間としてのよりよい生き方や善を志向する感情であるとも言える。それは、道徳的行為への動機として強く作用するものである。

 道徳的実践意欲とは、道徳的心情や道徳的判断力によって価値があるとされた行動をとろうとする傾向性を意味する。道徳的実践意欲は、道徳的判断力や道徳的心情を基盤とし道徳的価値を実現しようとする意志の働きであり、道徳的態度は、それらに裏付けられた具体的な道徳的行為への身構えと言うことができる。

 これらの道徳性の諸様相は、相互に深く関連して全体を構成している。

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