解説から読む「特別の教科道徳」の実践課題と授業構想

トピック教育課題

2019.09.14

明確な指導観に基づく授業の構想

(1)価値観を明確にする
 価値観とは、学習指導要領に基づき、明確な考えをもつことである。ねらいとする道徳的価値に関わる見方・考え方であり、授業の成否だけでなく、子供一人一人の道徳性の発達にも影響を与えている。道徳科は、子供一人一人が特定の道徳的価値に基づくねらいとの関わりで、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める、道徳的価値の自覚を深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度といった内面的資質を主体的に育むことを目指している。そのため、授業者が授業を構想する際には、授業のねらいとそこで取り扱う道徳的価値に対して明確な考えをもつことが求められる。価値観は、道徳科の授業を構想する際にはとても重要なものであり、「児童(生徒)観」の基盤となる。授業者が子供の実態を的確にとらえ授業に生かすためにも、授業者が明確な価値観をもつことは欠かせない。その根拠となるものが、学習指導要領に示されている内容項目である。道徳の内容項目は、子供が人間としてよりよく生きていく上で必要な道徳的価値を、認識能力や社会認識の広がり、発達の段階などを考慮して、学年段階ごとに精選し重点的に示したものである。授業を行う際には、解説に示されている内容項目の具体を参照するとともに、常に全体の構成や発展性を考慮して指導していくことが大切である。

(2)児童(生徒)観を明確にする
 同じ教材を使っても、子供が異なれば授業の視点や内容は違ってくる。道徳科の授業構想のためには、ねらいとする道徳的価値を視点とした子供の実態を明らかにすることが重要となる。ねらいとする道徳的価値に関わって、子供の状況を明らかにすることが求められる。児童(生徒)観とは、言い換えれば学習指導案に示す子供の実態であり、一単位時間のねらいとする道徳的価値に関わって子供がどのような実態なのか、価値観を基に見たときに子供がどのような状態なのかを明確にすることが、効果的な学習指導過程の構想にもつながる。子供の実態を明確にするためには、本時に至るまでの道徳的価値に関わって行われた指導の機会や程度についても明らかにする必要がある。

(3)教材観を明確にする
 様々な背景をもち、多様な感じ方や考え方の子供たちに、考え、議論する集団思考を促すためには、共通の教材を基に学習を展開し、主体的・協働的に学び合えるようにする必要がある。価値観や児童(生徒)観に基づいて、ねらいとする道徳的価値に関して最も考えさせたい教材中の場面を明らかにし、中心発問を設定する。もちろん、教材の山場と中心発問の場面とが一致するとは限らない。授業者が、ねらいとする道徳的価値に関わって子供たちに最も考えさせたい内容を明らかにし、道徳性を育むために、道徳的価値の理解の道筋を明らかにすることである。その上で、問題解決的学習等の効果的な指導方法を選択したり組み合わせたりすることが重要となる。

 

Profile
秋田公立美術大学副学長
毛内嘉威
もうない・よしたけ 青森県公立学校教員を経て鳴門教育大学大学院に内地留学。弘前大学大学院後期博士課程修了。博士(学術)。弘前大学教育学部附属小学校主幹教諭、青森県教育委員会総合学校教育センター指導主事を経て、2013年より秋田公立美術大学教授。日本道徳教育学会理事、日本道徳教育方法学会評議員、文部科学省「小学習指導要領解説道徳編」作成協力者委員、文部科学省「小学習指導要領解説 特別の教科道徳編」作成協力者委員、文部科学省「中学校道徳教育に係る教師用指導資料」作成協力者委員などを歴任。

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