教師のためのメンタルケア入門
リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第1回]セルフケア力が一番の基本
トピック教育課題
2020.05.06
新型コロナウイルス感染症対策に伴う急激な環境の変化や病気への不安により、いわゆる自宅でコロナ鬱(うつ)に悩む方が増えています。ご自身やご家族に問題がなくとも、一緒に働く方の心の健康は大丈夫でしょうか。ここでは、精神科医・産業医として活躍する奥田弘美先生が学校の管理職層向けにメンタルヘルスを親しみやすく解説した「リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門」(『学校教育・実践ライブラリ』連載)を12回にわたってご紹介いたします。(編集部)
リーダーから始めよう!
元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第1回]
セルフケア力(りょく)が一番の基本
精神科医(精神保健指定医)・産業医(労働衛生コンサルタント)
奥田弘美
メンタルケアの基本
読者の皆様、はじめまして。
今回より連載を担当することになりました精神科医&産業医の奥田弘美と申します。本連載では、リーダー的立場にある皆様自身が実践しつつ職場でも広げていただきたいメンタルケアの基本をお伝えしたいと思います。
さて現在は未曾有のストレス社会です。平成29年の厚生労働省調査では、仕事や職業生活に関することで強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は58.3%という結果が出ています。また学校教育現場でも教員の過重労働が問題となり、うつ病など心の病を患う人が増えています。
うつ病に代表される心の病はもはや人ごとではありません。うつ病は15人に1人が、一生のうちに経験するというデータもあり、非常にポピュラーな病気です。この記事を読まれている、あなた自身も、あなたの周りの同僚も、家族も友人も、心の病気になる可能性があるのです。まずは念のために、次の〈心の簡易セルフチェック〉をやってご自身のメンタル状態をチェックしてみてください。もしどれかの症状に当てはまり、2週間以上それが継続し、日常生活に影響が出ている場合は、心療内科や精神科、もしくは該当する症状の専門科の受診をお考えください。この表はご自身だけではなく、周りの方の心のチェックにもご活用くださいね。
セルフケアとは
では、心の病気にならないで元気に仕事を続けるには、どうしたらいいのでしょうか?
その最も大切な基本は「セルフケア」にあります。セルフケアとは「自分自身のストレスに気づき対処すること」。このセルフケアを実践するには、心身の健康を守っていくための正しい知識を持つことが不可欠です。
ちなみに厚生労働省は、職場におけるメンタルヘルスケアの具体的な方法について、次のような「4つのケア」という考え方を提示しています。
①労働者自身のセルフケア
②管理監督者や同僚といったラインによるケア
③安全衛生委員会や産業医などの事業内産業保健スタッフによるケア
④クリニックやカウンセラーなどの事業所外資源によるケア
リーダー職にある皆様は、②のラインケアと呼ばれる職務を担うこととなり、部下のメンタルヘルスケアを行わなければならない立場です。しかしこのラインケアを行うためには、まず自分自身の心身を健康に保つための①のセルフケアの知識を持ち、かつ実践できていることが不可欠なのです。自分が理解して実践できていないことを、他人に教え実践させることがいかに困難であるかは、教育者である皆さまがよくご存じのことと思います。本連載を通じて、まずはご自身のセルフケア能力を高めていただきつつ、並行して周りの同僚の方々へのラインケアにもお役立ていただければと幸いです。
《心の簡易セルフチェック》
□朝起きても全身の倦怠感が取れず、仕事や家事をする気力が湧かない。
□なかなか寝付けない。夜中や早朝に目覚めてしまうなど不眠症状が週に2~3日以上出現している。
□食欲が低下し、食べ物が美味しいと感じられない。
□物事への興味や楽しみが低下して、何をするのもめんどうくさく感じる。
□集中力が低下している。ミスが増えたり、業務効率が低下したりしている。
□感情が不安定。些細なことに怒ったり、イライラしたり、涙が出たりする。
□自分が悪いから、能力がないからと自分を頻繁に責めて落ち込んでしまう。
□腹痛、吐き気などの胃腸症状、頭痛、めまい、動悸や息苦しさなどの原因不明の身体症状に悩まされている。
Profile
おくだ・ひろみ
平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。