講座 単元を創る
講座 単元を創る[第1回]子供と単元
授業づくりと評価
2019.08.05
講座 単元を創る
[第1回]子供と単元
■summary■
資質・能力ベイスの授業づくりには、教育的価値と子供にとって意味ある学習活動の両面から学びの在り方を分析して、これまでの「教材単元」と「経験単元」のよさを互恵的に活かした単元づくりが期待されている。
「教材単元」と「経験単元」をつなぐ
今回の学習指導要領の改訂では、学習の内容と方法の両方を重視し、子供たちの学びの過程を質的に高めていくことが重視された。単元などのまとまりの中で、子供たちが「何ができるようになるか」を明確にしながら、「何を学ぶか」という学習内容と、「どのように学ぶか」という学びの過程を大切にし、その質を保障するためにカリキュラム・マネジメントの充実が期待されている。子供が各教科等における見方・考え方を働かせて、価値ある学習活動を展開し、それを連続していくことで三つの柱の資質・能力を育成していく資質・能力ベイスの授業づくりには、単元や題材のまとまりでいかに学びを描いていくかが重要であり、これまで以上に単元をいかに創るのかが問われている。
改めて、単元とは何かを確認しておきたい。歴史的には単元という概念とは、ドイツのヘルバルト学派のツィラーによって子供の学習活動の形式的段階をもとに教材を組織することから考え出され、20世紀になると経験主義の立場からデューイやキルパトリックによって問題解決活動や目的的活動などのまとまりによって単元が考えられるようになった。このような流れを経て、科学・学問の基礎を子供の認識過程を踏まえて体系的に教材のまとまりをもとにする「教材単元」と、子供の学習活動を踏まえて実生活に起こる問題を解決する経験のまとまりをもとにする「経験単元」という二つの学習指導の単位としての単元という考え方が提起されてきた。
子供の学習を基盤にして授業のまとまりを考えていこうとする点では両者の考え方は一致していたが、その後の授業づくりの歴史の中では、双方のそれぞれのよさを互恵的に十分に活かしきれなかった。しかし、資質・能力ベイスの授業づくりにおいては、各教科等の系統的な内容(「何を学ぶか」「どのように学ぶか」)を扱いつつ、その中での学習のまとまりを子供にとって価値のある学び(「何ができるようになるか」)にすることが必要とされており、両者の価値を最大限生かした単元づくりの在り方を追究していくことが期待されている。
戦後の昭和26年の学習指導要領(試案)では、「教材単元」と「経験単元」の双方に関する記述が明確に示されている。「教材単元」においては、「系統的に配列された教材の一区分であって、例えば教科書の第一課、第二課といったまとまり」と説明され、単元名も「3つのかずのけいさん」などと教材の内容で示されている。教材の教育的価値から学習活動を構成していく考え方である。一方、「経験単元」については「児童の当面している問題を中心にして、その解決に必要な価値ある学習活動のまとまり」と子供にとって意味のあることからスタートして問題解決活動のまとまりの中で教育的価値を学ぶとしている。両者は逆のプロセスで学びを描いていくことになっているものの、教育的価値を獲得するために学習活動を組織するという点では変わらない。双方の価値を確認しつつ、子供が実感的に学ぶために、いずれの方法で、またはそれらをいかに融合して単元を描くのかが重要であることを確認することができる。
教科書単元といかに付き合うか
例えば、これまでの算数・数学や理科の教科書の「教材単元」の多くは、先輩諸氏の実践から選ばれ、どの学級でも実践し易いように磨き上げられたものである。それらは学習指導要領(指導内容)が、子供へ丁寧に実践指導された履歴(学習活動)としての結果であり、そこには先達の知恵と工夫が詰まっている。多くの教師が、「単元をどのように展開するか」という問いに対して、「教科書どおりに教える」と躊躇せず答え、授業研究においては学習指導案の単元計画に教科書教材の計画が掲載される。教科書単元の存在の大きさを改めて確認することになる。つまり、単元は創るのではなく、教科書の単元をなぞることが一般的である。
しかし、その単元は、ある教師の教材解釈と授業実践の結果であり、どの学級の子供にとっても適した単元であるとは言い難い。本来は、各学校の教育課程に基づき教師一人一人が学習指導要領に示された内容を適切に解釈し、その主旨の内容理解をした上で、目の前の子供の興味・関心等によって、最適な学習活動を単元として創らなければならない。教科書という良質の参考書を有効活用しながら、子供が教育的価値を獲得するために最適な単元を創ることは教師にとって大切な仕事なのである。
子供から単元を創る
では、単元づくりは何からとりかかればよいのであろうか。そのスタートラインは、学習指導要領(および解説書)の解釈である。これによって指導内容の系統や教科等の見方・考え方の成長等の関連を確認した上で、子供の学習の連続性を担保していく必要がある。そして、子供が教育的価値を獲得していくためにどのような教材・教具を用意すべきなのかなど、学習活動の具体をイメージしていくことが大切になる。
しかし、単元づくりに大きく影響するのは教師の実践経験である。それまでの教材解釈と実践履歴から教師がもつ単元展開イメージの大半は教科書の単元に基づくものであり、それに基づいて単元を再生産していることが多い。教科書を繰り返し使用するうちに、それが単元の土台となり、いつの間にか最適な展開というレッテルを自ら貼るようになってしまう。せっかく学習指導要領を丁寧に読み込んだとしても、目の前の子供から単元を創るという基本から離れてしまっては意味がない。その手続きでは不十分であることは明らかである。まずは、目の前の子供と単元を創るという姿勢が欠かせない。
[参考文献]
・齊藤一弥編著『新しい学びの潮流4 しっかり教える授業・本気で任せる授業』ぎょうせい、2014年
・齊藤一弥「単元づくりの基本を確認する」『リーダーズ・ライブラリ』(Vol.6)ぎょうせい、2018年
Profile
島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
さいとう・かずや 横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。