【新刊紹介】思わずハッとする、子どもの「音感受」の豊かさ。保育・子育てのヒントが満載の『イラストBOOK たのしい保育 「音」からひろがる子どもの世界』
トピック教育課題
2021.07.05
新刊紹介
風や雨が奏でる音、人の声、歌、音楽、絵本の中にあるふしぎな音。子どもたちは身の回りの音をどのように聴き、何を感じているのでしょうか。遊びや園生活の中で、音をどのように表現しているのでしょうか。新刊『イラストBOOK たのしい保育 「音」からひろがる子どもの世界』(吉永早苗[東京家政学院大学教授]/著)を開いて、“おさな子の耳”で「音」の世界に足を踏み出してみましょう。(編集部)
音を感じ、音に遊ぶ、子どもの世界への入り口
夏の川辺の風景です。この写真から、どんな音が聞こえますか? 風に揺れる草や葉っぱの音、水辺の音、木の向こうから人の声もかすかに聞こえてきそうですね。これらは、この写真の中に見える音です。では、もっと想像してみてください。この場所にたたずんでいる自分を。すると、聞こえてきませんか? 鳥の啼き声、人の足音、虫の蠢き、土手を走るバイクの音、魚が飛び跳ねる音、もしかしたら背面でキャッチボールをしているかもしれないし、鉄橋があれば電車の音も聞こえるでしょう。自分の深呼吸や足音も耳に届きます。世界は音にあふれています。いのちあるところには音が存在していて、それらは私たちと共にあり、時間と共にその姿を変えていきます。
そんな世界を、子どもはどんなふうに聞いているのでしょうか。
きっと、この紫陽花の中に今にも入り込みそうな女の子のように(実際に潜り込んで蜘蛛の巣だらけになったそうです)、好奇心にあふれた耳で、環境と対話しているに違いありません。本書では、子どもがどんなふうに音を聞き、それがどのように表現につながっていくのか、表現する自分の音をどのようにとらえ、新たな表現を創り出していくのかといった「『音』からひろがる子どもの世界」について皆さまと共に考えます。
(「はじめに」より)
「音」からアプローチする子どもの育ち
ある幼稚園で、音の軌跡を追いかける3歳児に出会ったことがあります。
トーンチャイムという楽器をご存じでしょうか。筒状の金属を振ると、付属しているハンマーが筒を刺激して、柔らかな美しい音を響かせる楽器です。その筒からは一つの音高しか鳴りませんので、複数人で協力して曲を奏でます。
幼稚園の自由遊びの時間、輪になって、そのトーンチャイムを用いた音送りの遊びをしました。音送りの遊びとは、音を順に鳴らしていくルールなのですが、音を送る相手は隣の人とは限りません。誰かに向かって音を鳴らし、音を受け取ったと感じた人が次の人に音を送ります。遊戯室に集まった3〜5歳児は、まるでテニスのラリーが続くように、柔らかな音には柔らかな音で、突然のスマッシュには素早い反応で、音送りのコミュニケーションを楽しんでいました。
そんな中、5歳の女児がポーンと向かい側の3歳児に送った音。その動きは、確かに宙に音が打ち上げられたかのように見えたのですが、音を送られたはずの3歳男児はトーンチャイムを鳴らそうとはせずに、宙を見上げ、その見えない音の玉を見送るかのように首を回したのです。
この本では、こうした子どもの『音感受(おとかんじゅ)』の様子、音に遊び、音を遊ぶ子どもの世界をご紹介します。事例に重なる保育の中の子どもの姿を思い浮かべて、読み進んでください。
(pp.3-5「音を見たことはありますか?」より)