地方公共団体と民間企業の人事管理の比較・考察(『月刊 地方自治』2024年2月号)
ぎょうせいの本
2024.03.26
地方公共団体と民間企業の人事管理の比較・考察
株式会社SHIFTプリンシパル(元総務省自治行政局審議官) 篠原俊博
(『月刊 地方自治』2024年2月号)※2024年1月時点の内容です。
はじめに
地域を取り巻く情勢が急激に変化する中にあって、各地方公共団体には、今後ますます住民ニーズに沿った行政の展開が求められている。これを実現するためには、その地方を支え、地域の実情に沿った行政の経営を可能とする有為な人材が、どの地方公共団体にも求められていることは言うまでもない。
しかしながら、全国の地方公共団体の間で地方公務員のなり手が減少し、日本経済新聞社の調べによれば、都道府県と指定都市の「大卒程度の一般行政職」の採用試験の競争率は、二〇二二年度の競争率が二〇一八年度を下回った地方公共団体は七割を占めたとされている(注1)。その原因として、「国や市区町村だけでなく、民間企業とも競合するように」なったとされており、優秀な人材をめぐっては、新しい競合相手としての民間企業との競争がし烈になっていることが伺える。
(注1)日経グローカル「なり手不足の地方公務員七割で競争倍率低下、活路探る」二〇二三年六月一七日配信
筆者は、総務省を二〇二二年六月に退職後、同年一一月にソフトウェアの品質保証を強みに全IT領域のサービスを展開する株式会社SHIFTに再就職した。本稿では、その筆者の経験から、特に人事管理について、地方公共団体と民間企業の比較・考察を試みたい。
一 雇用形態と採用プロセス
地方公務員法(昭和二五年法律第二六一号)第一五条では、職員の任用は、受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づいて行わなければならず、厳格な成績主義に基づいて行われている。これは、地方行政の職務の公平性・公正性から求められる当然の要請と考えられる。
もっとも、近年においては、地方公務員の採用状況の厳しさを反映し、職員の採用試験を多様化し、選考採用の活用も図られているところであるが、この際には、上記地方公務員法第一五条のほか、平等取扱いの原則(同法第一三条)、採用する職に求められる標準職務遂行能力及び適性を有することの判定(同法第二一条の二第一項)等の規定に基づき、国家公務員と同様に採用昇任等基本方針において示されている点に十分留意することが必要であることとされている(注2)。
(注2)「地方公務員の職員採用方法の多様化について」(令和三年一二月二四日付総行公第一五二号総務省自治行政局公務員課長通知)
一方、民間企業の採用については、公正な職業選択の実現を目的とする職業安定法(昭和二二年法律第一四一号)のほか、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四一