マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会

山口 利恵

第9回 カフェ発 家電も被害にあう? ランサムウェアとIoT

ICT

2019.04.26

ツールは上手に使えば時短につながり生活に余裕も

「日本中のテレビとかが乗っ取られることを想像すると怖いですね。」

 茹であがったパスタにソースを絡め、お皿を横に並べていた。

「そういうのは想像すると色々でてくるよ。テロ的なことであれば、冷蔵庫の中身が購入履歴と結びつくなんて事は想定されているじゃないか。便利な機能としては、『お肉の消費期限が明日切れます』とかってことが、テレビについているモニターに出てくることなんかもあるわけだよね。確かに便利だ。しかし、冷蔵庫の温度が急に変わったりするだけで怖いね。」

 竹見が続けた。

「エアコンとか電気とかの電源が突然入ったり消えたりとか、怖いですね。ホラー映画に出てきそうなシチュエーションだ。」

 竹見と的場が会話を続けた。

「ホラー映画で想像すると、冷蔵庫のモニターに、突然、『冷蔵庫の中に全て毒をいれました、食べられません。』とか出てきたら、とかね。」

「そういう単純なところでも怖いことができそうですね。」

「PCとかには攻撃がおこるという常識はだいぶ広がってきたと思いますが、テレビや冷蔵庫には、攻撃が起こらないと、思っているから、怖いんでしょうか。」

 的場は、色々と疑問に思っているようだった。

「いや、それだけじゃないだろう。インターネットに繋がった全てのシステムは、もちろんOSなどが入っている訳なのだから、攻撃を受ける可能性もあるということを感じないといけないねぇ。」

「色々と広がっていくと、PCと同じような常識が伝わっていくんですかねぇ。」

「そうじゃないと困るね。」

「今のセキュリティ対策は、まだまだ熟れているとはいえないからねぇ。」

「 やっぱり竹見先生でもそう思いますか。」

 的場が竹見に尋ねた。

「まぁ、インターネットが発明され広く普及してからまだ30年もたってないわけだよ。こういうのは社会全体が慣れていかなければならないね。」

「確かに。」

 マスターも的場も同調した。

「ところで、このカフェ内にある電子機器って何かあるんですかねぇ。」

 的場は、マスターに尋ねた。

「ここは、割とアナログだからねぇ。」

 マスターができあがったばかりのパスタを二人の前に並べながら言った。

「想像すると、竹見先生が近づいてくると、コーヒーを作りなさい、とか、指示がでるようなことがあると便利かもしれないですね。」

 的場が言った。

「いやぁ、僕は、店に着いてから加藤君がコーヒーをゆったり入れてくれる方がいいよ。そこまで時間に切羽詰まった生活をしてないからね。」

 竹見は、にっこりほほえみながら答えた。

「うちのカフェでは、そういう需要は確かにないでしょうが、最近のよくあるようなシアトルスタイルのカフェとかだと、急ぐ人はいると思いますよ。うちはのんびりとした喫茶店ですから。」

「そうだね、そういうテイクアウトメインの店であれば、常連が近づいたら教えてくれるような機能が便利かもね。店によっては、事前にコーヒーをつくっておけるだろうし。プライバシーの問題さえ解決すれば、いいツールだと思うよ。」

 竹見が答えた。

「注文が自動的にいくようなことはできますね。ただ、あんまりやりすぎると、気持ち悪いと思う人もいるような気がしますよ。」

 的場が言った。

「気持ち悪いって、コミュニケーション不足なんだよな。たいてい。今回のようなケースは、人とのコミュニケーションを大事にして、上手にそれを手助け出来るツールになればいいねぇ。」

「そうですね。今は、コミュニケーションを外すようなツールに見えますが、そのことで出来た人々の余裕が別の場で利用できると良いですね。」

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山口 利恵

山口 利恵

東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター特任准教授

2003年津田塾大学理学研究科数学専攻修士課程修了。2006年東京大学大学院情報理工学系研究科博士後期課程修了 博士(情報理工学)、独立行政法人 産業技術総合研究所 研究員。内閣官房情報セキリュティセンター員兼務を経て2013年から現職。主な研究テーマである「ライフスタイル認証・解析」に関する各種講演やセミナーの登壇者として、また、「Society5.0を見据えた個人認証基盤のあり方懇談会」構成員を務めるなど、多方面で活躍中。

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