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山口 利恵

第9回 カフェ発 家電も被害にあう? ランサムウェアとIoT

ICT

2019.04.26

IoTで生活は便利に。でも安全性は?

 マスターが冷蔵庫から材料を出しランチの準備を始めながら、会話を続けた。

「ランサムウェアに限らず、無造作にインターネットに直接繋がっているPCは危険ですからねぇ。」

「いやぁ、加藤くん、最近はPCだけには限らないよ。」

 竹見が言った。

「インターネットに直接つながる家庭用Webカメラだけじゃなくて、テレビや冷蔵庫もネットワークに繋がる時代だからねぇ。」

「家庭用カメラの映像を勝手にアクセスされた事例、たくさんありましたね。特に、保育園や公共施設に設置されたカメラの映像が大した対策をせずに流出していた事例もありましたね。」

 的場が口をはさんだ。

「IoT時代(***)とかって言われていますが、なかなか使いこなせてないですね。」

「だいぶ前からそういう前兆はありましたよね。ゲーム機が直接つながるようになって、ネットゲームなんかが流行りました。そのあとは、テレビとかですかね。」

 マスターは、冷蔵庫からサラダを出しドレッシングをかけると、二人の前に出した。

「そうだねぇ。今後は家庭内の全ての電子機器がつながるだろうね。」

 竹見は、マスターの手元を何となく見ながら、話を続けた。

「便利にはなりますね。帰宅する前に、お風呂を沸かすとか、エアコンを事前にいれておくとか、そういうこともできるでしょうし。」

 マスターは、二人分のパスタをお湯にいれると、フライパンにバターをいれ、刻まれていたベーコンやキノコをいれた。

「いわゆるスマートハウスだね。今はそれだけじゃなくて、カーテンにもつけておいて、人が無理なく起きられるように明るくしたり、ヘルスケア用品と結びつけて、健康管理をしてもらえたりするようなことなんかもできるだろうね。実際、血圧計なんかがインターネットに直接繋がって病院にデータを送るようなことは既に利用されているからねぇ。」

「 そういうのって、安全なんですかねぇ。」

 的場は、前々から疑問に思っていた様子で尋ねた。

「確かに問題になっているね。既にテレビのような家電を攻撃するようなマルウェアもあるようだしね。ゲーム機にも攻撃が広がっているようだしね。」

 竹見が答えた。

「テレビがインターネットに繋がるのって、今、PCが繋がっているのと同じような機能ですかね。ブラウザの代わりになるぐらいしか、どうも利用シーンが思いつかなくて。」

「そういうのもあるね。よく言われているのは、映画などはインターネットを通じて見ることが出来るようになってきたね。今までのテレビのように、一方的に番組を配信する時代でもなくなってきたから、テレビがインターネットをうつすツールってことが中心になるんだろうね。」

「それって、今のPCの代わりのような気がしますが。」

 的場が納得していないような様子で会話を続けた。

「色々なことをツールとして単純化することで、普及するようなケースはたくさんあるよ。今普及しているタブレットもPCを単純にしただけともいえるけれど、PCのほうが色々できる。でも、PCに抵抗があった層が、タッチパネルをつかって使いやすくなっているしね。」

「まぁ、確かにそういうことはたくさんありますね。」

 的場も納得したようだった。

「テレビのマルウェアって怖いですね。突然、『日本が侵略されました、お金を払った人だけが逃げられます』とか、画面に出てきたら恐怖ですよね。」

 マスターは、あまり手元をみなくても、慣れた様子でソースを作りつつ、会話を続けている。的場が再び尋ねた。

「お金だとすると信じない人がいるかもしれないですけれど、単純にこのマンションから逃げましょう、とか、っていう単なるいたずら的な話であれば、すぐに反応してしまうかもしれないとか、考えちゃいますね。他の情報源があればいいでしょうが、自宅でつながっているようなPCやスマートフォンなどの端末全てがマルウェアに犯されていると考えるべきでしょうし。他の情報源がない場合って、どうしても左右されますね。変なニュースとかをつくられて流されて、それを信じちゃうかもしれないなぁ。」

***IoTとは
IoTとは、Internet of Things(モノのインターネット)の略で、従来インターネットに繋がっていたPCやプリンター等のIT関連機器だけでなく、ありとあらゆる“ モノ”も繋がっていることを意味している。今回の章は、家電が繋がっていることに対する話だが、家庭内であれば電気や湯沸かし器などにも応用があるし、企業が利用している機材をつなぐことによって、従来、人が手間をかけてデータを集めなければならなかったような内容も、インターネットを通じて自動的にデータを収集することが可能となる。

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山口 利恵

山口 利恵

東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター特任准教授

2003年津田塾大学理学研究科数学専攻修士課程修了。2006年東京大学大学院情報理工学系研究科博士後期課程修了 博士(情報理工学)、独立行政法人 産業技術総合研究所 研究員。内閣官房情報セキリュティセンター員兼務を経て2013年から現職。主な研究テーマである「ライフスタイル認証・解析」に関する各種講演やセミナーの登壇者として、また、「Society5.0を見据えた個人認証基盤のあり方懇談会」構成員を務めるなど、多方面で活躍中。

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