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山口 利恵

第3回 カフェ発 スマホは危険がいっぱい?  PINってそんなに大事なの?

ICT

2019.03.26

LINEの会話では、相手をよく確かめる

 マスターは、里中の気分を害さないように、丁寧に諭すように聞いた。

「だって、ほら見て。画面に戸塚さんのワンちゃんが出ているから間違いないわ。このポメラニアン、可愛いでしょ。」

 里中が差し出したスマートフォンには、LINEの会話が表示されている。その会話をしている当人を表すプロフィール画像に、確かに白いポメラニアンが出ている。どうやら、里中は、この絵を指しているらしかった。絵美は、里中の向かい側からスマホを触ると、LINEの会話画面から友だち一覧画面を出しながら言った。

「あれ? そのポメラニアン、戸塚さんのアカウントとは違うポメラニアンじゃないですか?」

 画面内に二匹のポメラニアンがいることに気がついた絵美が言った。

「同じ犬の種類ですけど、違う犬じゃないですか。ほら、一覧をみると、ポメラニアンの絵の人が二人います。片方は戸塚みちこって書いてあるけど、もう一つは、djdndbって書いてありますよ。」

 里中はハンドバッグからメガネを出し、そそくさとかけると、再度画面を覗いた。確かに里中のスマホに記載されている友だち一覧に、白いポメラニアンの画像をプロフィールに利用している人が二人いた。

「あら、本当。これ、戸塚さんじゃないの?」

「はい、同じポメラニアンですけど、たぶん、違う人ですよ。」

 里中は、メガネを両手で固定しながら凝視するようにスマホを覗いた。

「あらー、もう一人ポメラニアンの絵の人がいたんだ。てっきり戸塚さんだと思っていたから、早く返事しなきゃって思ってたの。でも、知らない人からメッセージが来ることって、本当にあるのねぇ。」

「里中さんの場合、友だちの設定が自動追加になっているので、相手が勝手に里中さんのアカウントに追加したんです。自動追加の方が使いやすいと思ったんですが、失敗だったのかなぁ」

 絵美は、頭をかかえるような仕草をしながら言った。

オレオレ詐欺やなりすましはスマホでも起きている

「でも、なんで知らない人が電話番号やPINを聞いてくるの?」

 里中は、意味がわからないという顔をしながら、マスターに聞いた。

「 たぶん、詐欺なんだと思います。」

 マスターは、再びお湯を入れようと、ポットに手をかけながら言った。

「ええっ、それって詐欺なの?」

 里中は、びっくりしたような顔をしてマスターに聞いた。

「私、振り込め詐欺には、絶対にひっかからないと思っていたのに。この前も息子ですっていう変な電話がかかってきたから、警察に電話したのよ。私、娘しかいないもの。」

「警察に電話するというのは、事件の拡大を防ぐという意味でも良い対応だったですね。でも、実はスマホでも同じような事件が頻発しているんです。とにかく普通は、だれもPINなんて聞いてこないはずです。というか、聞かれても答えてはいけないんです。例えば銀行の暗証番号、僕が聞いたら里中さんは教えてくれますか?」

 マスターは、膨らんだコーヒー粉にお湯をまわしながらかけると、ポットを置き、コーヒーカップとソーサーの準備を始めた。

「いくらマスターでも、暗証番号を教えるわけにはいかないわ。スマホのPINっていうのは、そんなに大事なものなの?」

「はい、今は、まだ被害は小さいかもしれませんが、スマホを利用して様々な商品を買ったりできるじゃないですか。そういうことに悪用されると、金銭的に大きな被害を被る危険があるわけです。今回のようなケースでは、アカウントを乗っ取られる危険性があったと言えるかもしれませんね。」

「乗っ取り?」

「はい、里中さんのふりができるっていうことなんです。」

「別に、私のふりをされても、大した被害は受けないと思うんだけど。」

 里中は、“大きな問題ではないのになんでそんなに大げさにしなければいけないのか”と言いたげな口ぶりで、マスターに言った。

「確かに大した被害は受けそうにないと考えがちですが、現実に振り込め詐欺の犯人が、里中さんのアカウントを悪用して詐欺をしたりする可能性もあるんです。つまり、様々な場面で、里中さんのアカウントを悪用した詐欺が発生する危険性があるということです。」

 マスターは、里中の前にコーヒーカップを置きながら慎重に答えた。

「私が詐欺に荷担することもあるということなのね。それは絶対にイヤだわ。でも、そんなに大事なことを、どうして誰も教えてくれなかったのかしら?」

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山口 利恵

山口 利恵

東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター特任准教授

2003年津田塾大学理学研究科数学専攻修士課程修了。2006年東京大学大学院情報理工学系研究科博士後期課程修了 博士(情報理工学)、独立行政法人 産業技術総合研究所 研究員。内閣官房情報セキリュティセンター員兼務を経て2013年から現職。主な研究テーマである「ライフスタイル認証・解析」に関する各種講演やセミナーの登壇者として、また、「Society5.0を見据えた個人認証基盤のあり方懇談会」構成員を務めるなど、多方面で活躍中。

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