「新・地方自治のミライ」 第48回 地域運営組織のミライ

時事ニュース

2023.12.22

本記事は、月刊『ガバナンス』2017年3月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

はじめに

 内閣官房におかれた「地域の課題解決のための地域運営組織に関する有識者会議」が、2016年12月13日に『地域の課題解決を目指す地域運営組織─その量的拡大と質的向上に向けて─最終報告』(以下、『最終報告』)をとりまとめた。

 設置文書によれば、「まち・ひと・しごと創生総合戦略2015改訂版」(15年12月24日閣議決定)に基づいて課題・論点を整理するという趣旨であり、いわゆる「地方創生」の一環をなしている。それゆえに、16年末の同総合戦略の改訂に反映することを求めている。それを受けて、2016改訂版には、法人化の促進に向けて、さらに具体的に検討を進めることが盛り込まれた。

 それとともに、「全国の地方公共団体やその首長に理解を普及させ、地域住民に対する意識啓発につなげていくことを要請したい」(『最終報告』27頁、下線筆者)と、国主導の提言を行っている。「地方創生」は全般的に集権的な色彩を帯びているが、地域運営組織についても、国が地域住民に対して、「量的拡大・質的向上を図る」(同27頁)ことを求めている。そこで、今回は地域運営組織のミライを検討してみたい。

『最終報告』の概要

 総合戦略によれば、「小さな拠点」を1000か所、地域運営組織を3000団体、2020年度までに形成することがKPIである。地域運営組織とは、「地域の生活や暮らしを守るため、地域で暮らす人々が中心となって形成され、地域課題の解決に向けた取組を持続的に実践する組織。具体的には、従来の自治・相互扶助活動から一歩踏み出した活動を行っている組織」である(『最終報告』2頁)。地域運営組織には協議機能と実行機能があり、両者を併せ持つ一体型と切り離されている分離型があるという。

 地域運営組織に関する『最終報告』の基本的な考えは、①私的組織、②経済活動を含む地域の共同事業を実行、③区域を基礎、である。地域運営組織の設立には、①地域住民の当事者意識を醸成し、②自治体のサポートのもと、③設立を促す財源・制度・人材等の条件整備を行政が進めるとする。そして、必要性が認識されるには、かなりの期間を要するから、普及活動を継続するという。

 そこで、地域運営組織の取組を推進する課題として、①法人化の推進、②人材の育成・確保、③資金の確保、④事業実施のノウハウ等、⑤行政の役割、中間支援組織や多様な組織との連携、⑥都市部における取組、を掲げている。

法人化論議

 『最終報告』の分量は、①法人化の推進が検討の大きな比重を占めている。経済活動など共同事業の実行機能を重視すれば、契約・受託や寄附金・交付金の受入には法人格が必要になるし、法人格があれば社会的信用も高まり、代表者の個人リスクになることも法人格によって回避できる。こうした法制論議を進めることにより、対策をしている国レベルの関係者の意識を醸成することには貢献するだろう。

 しかし、『最終報告』も検討しているように、共同事業の実行機能であれば、NPO法人でも営利法人でも可能である。

 そのうえで、地縁型組織の法人格が必要かという論点になるはずである。しかし、「更に具体的な検討を進めていく必要がある」と先送りされている(注1)。『最終報告』の示す主な方向性は、以下の通りである。①法人の設立目的は権利能力の取得である。②構成員は、外部の人間や各種団体が含まれるものの、地域住民の相当数が構成するとともに、議決権は地域住民に限る。③それは地域代表性に繋がり、一の地域に複数の地縁型組織は並立しない。④意思決定は、構成員全員でなくても、総代会類似でもよい。⑤財務情報に関する規律は必要である。

注1 2016年12月22日から、総務省において「地域自治組織のあり方に関する研究会」が開催されている。

 結局、この種の法人は、「基礎的地方公共団体」と同質である。住民は市町村に「強制加入」するから、ここで検討されている私的組織法人とは異なるように見えるが、実質的に自治体運営の協議・実行に参画・協働するかは任意である。地域運営組織を整備するのは、平成の大合併前の市町村と同数の法人を再建することである。一貫して市町村数を減らしてきた結果、地域で共同事業を実行する法人が欠けているとして、法制整備を議論するのは、国の法実務として二度手間である(注2)

注2 飯島淳子「『地域運営組織』」の法人化」本誌2017年1月号、28頁。

人材と財源という隘路

 地域住民に面倒な組織立ち上げと運営の人材を求める『最終報告』の発想は、要は、地域課題で困窮している地域に、当事者意識の醸成を国から求めて、あえて地域住民の労苦を増やすことである。そして、その労苦に耐えられない地域は、地域運営組織を設立できないだろう。加えて、設立への人材的な耐力のない地域は、当事者意識が欠落しているとレッテルを貼られ、あるいは、そもそも国・自治体から無視され、静かに消滅させられていく。

 国・自治体は、ただでさえ大きな課題を抱えて生活が厳しい地域において、労苦を負った一部の耐力のある地域住民の当事者意識を賞賛し、全国的な集落・地域の支援をしないことを「見えぬ化」する。困苦を抱えている人々にのみ労苦を求め、さらに深刻な状況ゆえに労苦を担えない人々を放置する。

 『最終報告』も指摘する通り、地域運営組織の継続的活動への課題は「活動資金の不足」である(19頁)。「平成の大合併」以前の市町村は財源保障をされていた。むしろ、「平成の大合併」は、国が地方財源保障を忌避した「地財ショック」から始まっている。それゆえ、国は地域運営組織に充分な財源確保をできる保障はない。財源保障のない地域運営組織にできることは微々たるものでしかない。

 そもそも、地域運営組織が人材難になるのは、財源が乏しいからである。旧町村時代には、曲がりなりにも首長・議員・役場職員という人材を確保できていたからである。

「平成の大合併」の尻拭い

 法人格を有する全国3000の地域運営組織とは、もし、『最終報告』の目指すように「量的拡大・質的向上」するならば、端的に言って「平成の大合併」以前の2800市町村とほぼ同数である。地域運営組織の地理的範囲が旧町村くらい広いならば、地域住民の当事者意識の醸成など、地域住民に余計な手間を掛けさせずに、制度的に破壊しなければ済んだだけである。その地理的範囲に地域運営組織が本当に必要ならば、旧町村を強制復活すればよい(注3)

注3 「平成の大合併」の「失敗」を認めることができないゆえに、『最終報告』では、地域運営組織を「私的組織」として整理せざるを得ない。

 地域運営組織が旧町村より狭い「集落生活圏」であるならば、旧町村に平均1か所の「籠城」的な「選択と集中」の整備となる。これは、旧町村周辺部の選択的な衰退を導く「平成の大合併」と整合的である。

 時間は不可逆的であり、失われた旧町村は、ミイラとは異なって、もはや復活しない。一部の耐力のある旧町村内の集落生活圏では、すでに先行実例があるように、地域運営組織を設立・継続できよう。とはいえ、このような「成功」事例は、全国・旧町村全域で展開できないからこそ、「成功」たり得ている(注4)。このような労苦を、地域課題に苦しむ多くの地域で実践することを求めるのは、過重負担であり不公平である。さらに、現在の「成功」事例ですら、現時点での地域資源の蓄積があるから運営できているので、中期的に人口減少が進むなかで、持続可能とは限らない。

注4 いわゆる「小さな自治」の先行市町村内でさえ、地域運営組織を張り巡らせることは至難の業である。

 『最終報告』は、地域運営組織の可能性に活路を見いだし、地域住民の当事者意識の醸成を期待する。こうして、ただでさえ「役目が多い」のに「一歩踏み出す」ことを外部から督励され(注5)、地域住民の疲弊は深まる。「過剰ともいえる義務を自ら課し」(注6)て疲弊した地域住民は、当事者意識があろうと、地域課題を解決できない(注7)。地域運営組織が、兵糧攻めされた「籠城」の「本丸」にならないことを祈念するばかりである(注8)

注5 平井太郎「『地域運営組織』をいかに立ち上げるか」本誌2017年1月号、21頁。
注6 岩崎恭典「将来を見据えた『地域運営組織』とは」本誌2017年1月号、20頁。
注7 作野広和氏によれば「地域運営の担い手が減り、既存の自治組織では課題解決に至らなくなってきた……その直接的きっかけとなったのは『平成の大合併』である」という。同「住民主体の『地域運営組織』と自治体の役割」本誌2017年1月号、24頁。
注8 「インタビュー・小田切徳美明治大学教授に聞く/『地域運営組織』は地方創生の『本丸』」本誌2017年1月号、14頁。

 

 

Profile
東京大学大学院法学政治学研究科/法学部・公共政策大学院教授
金井 利之 かない・としゆき
 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学助教授、東京大学助教授などを経て、2006年から同教授。94年から2年間オランダ国立ライデン大学社会科学部客員研究員。主な著書に『自治制度』(東京大学出版会、07年)、『分権改革の動態』(東京大学出版会、08年、共編著)、『実践自治体行政学』(第一法規、10年)、『原発と自治体』(岩波書店、12年)、『政策変容と制度設計』(ミネルヴァ、12年、共編著)、『地方創生の正体──なぜ地域政策は失敗するのか』(ちくま新書、15年、共著)、『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社、16年、編著)、『行政学講義』(ちくま新書、18年)、『縮減社会の合意形成』(第一法規、18年、編著)、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、19年)、『行政学概説』(放送大学教育振興会、20年)、『ホーンブック地方自治〔新版〕』(北樹出版、20年、共著)、『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、21年)、『原発事故被災自治体の再生と苦悩』(第一法規、21年、共編著)など。

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