徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第59話 餅は餅屋

NEW地方税・財政

2020.02.19

徴収の智慧

第59話 餅は餅屋

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2019年5月号

後手に回る対策

 児童虐待に関して児童相談所や学校、そして教育委員会などの怠慢や連携不足といった不手際や失や態が止まない。その背景には人手不足や人材育成が追い付かないことなどがあると言われて久しい。そのような厳しい現状が全くないとまでは言わないが、ではそうした状況が一体どれだけ続いているというのか。この間にも虐待に苦しみ、命を落としている幼い命が後を絶たないというのに。虐待に対する関係者の問題意識や真剣さに疑問を抱かずにはいられない。この問題に関しては、国民の誰しもがその背景には数々の根深い課題が潜んでいることは分かっていよう。それなのに一向に改善の兆しが見えないどころか、事態は一層深刻な方向へと進んでいるように思われてならない。

 つい先頃もある市の教育委員会が、虐待の当事者である父親から児童相談所の一時保護に対して激しい抗議があり、その「威圧的な態度に恐怖を感じ、屈してしまった」との報道があった。そして、そのことがきっかけとなって父親による虐待が一層激しくなり、遂に女児の死亡という最悪の結末を迎えてしまったというのであるから、当該市教委のあまりにも使命感と責任感の欠落した対応に呆れるとともに愕然とする。

地方税の滞納整理は大丈夫か

 以上はいずれも役所の「ふがいない」対応や「使命感と責任感のなさ」などが、結果として事態を最悪の方向へと向かわせてしまった反面教師的な例であるが、それでは税の滞納整理ではどうだろうか。滞納整理でも「逆ギレする滞納者」の勢いに押されて、減免事由がないにも拘わらず延滞金を減免してしまったり、解除事由がないにも拘わらず差押えを解除してしまったりなどといった誠に情けない〝事件〟に関する報道に接することが珍しくないのは悲しいことである。報道されているだけでも少なくないのだから、類似の事例が仮にも実際はその何倍もあるのだとしたら背筋が寒くなる。地方税の滞納整理は大丈夫なのか。杞憂であることを祈るばかりである。

慣行にどっぷりと浸かっていないか

 常軌を逸した一部の無法者によって行政の正常な運営が阻害されているのだとしたら、その被害者は行政サービスの享受者である納税者、国民である。だから改めて言うまでもないことだが、公務員は、住民福祉の向上に向けて高い志とともに厳正な遵法精神に則って公務に精励する必要がある。税務事務は法治行政の最たるものであるから、租税法律主義(憲法第84条)の原則の下、法律に基づいた滞納整理を徹底させることこそが納税者、国民の期待に応えることに外ならず、それが徴収職員の使命でもある。では現状はどうか。情にほだされて(差押債権の)取立てを留保したり、(給与債権の)取立可能額を勝手に減額したりしていないだろうか。仮にそのような取扱いをしているとしたら、そうしたことが法律上根拠のない実務上の運用でやっているということに気づいているのか。知らずにやっているということが一番怖いのである。職場の慣行にどっぷりと浸かって「以前から当然のようにやっている」から気づかないのである。

プロフェッショナルの配置を

 勿論、そのような徴収職員だって最初からそうしたやり方をしているわけではなく、一部の「常軌を逸した逆ギレ滞納者」の不当な圧力をきっかけとしてやってしまっているのだろうから、それへの抜本的な対策なくして「法令遵守」をいくら叫んでもなかなか改善しないように思われる。そこで、前述の児童虐待への対策としても一部で検討されている弁護士や警察官OBの活用をヒントに、必要であれば滞納整理の部署でも弁護士や警察官OBを嘱託や期限付き職員として雇用したらどうか。いくら「怖がるな」「毅然としていろ」と言っても気弱な職員にとってはモンスター滞納者への対応は苦痛であり、トラウマにもなりかねない。そこで、そうしたモンスター滞納者への対策の切り札としてプロフェッショナルを雇用して配置することも必要ではないかと思う。徴収職員は税のプロフェッショナルではあっても、暴力に対するプロフェッショナルではないのだから、餅は餅屋に任せるということも必要なのではないだろうか。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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