時事問題の税法学
時事問題の税法学 第48回 ポイント還元
地方自治
2020.02.18
時事問題の税法学 第48回
ポイント還元
(『税』2019年10月号)
クレジットカード納税
20歳の頃だから45年以上も前の話だ。「いざというとき必要だから」とかいい両親を説得し、クレジットカードを持った。父の銀行口座で決済される親子カードのうちの子カードだから、利用額の上限は低額だった。しかし実際に持ってみると、使い勝手が悪かった。
学生も利用できるような飲食店では、必ずクレジットカード利用の場合は、事前に申し出るように掲示されており、カードを提示すると代金の1割が上乗せされ請求された。つまりクレジット会社に支払う手数料を客に負担させていた。確かにすぐ現金が入るにもかかわらず、回収に費用と時間がかかることは、お店にとっては痛し痒しだったはずだった。当時は、ある意味、阿漕な商売が横行していた。
周知のように、このカード利用者が手数料を負担するという方法を、国税、地方税を問わずクレジットカード納税も採用している。その理由について、例えば国税庁は、HPで、以下のように説明しているが、改めて読んでみると興味深い。結局、課税の公平ということだろう。
クレジットカード納付は、国税庁長官が指定した民間の納付受託者が、利用者から納付の委託を受けて、立替払いにより国に納付する仕組みとなっています。このため、納付受託者が国へ納付した後、利用者から代金が支払われるまでの間、一定のタイムラグが生じることとなり、納付受託者は貸倒リスクを負う一方、利用者は納付繰り延べなどの利益を得ることとなります。
決済手数料は、このような納付受託者のリスクや利用者自身が享受する利益に対して納付受託者が決定しているものであることから、利用者自身がご負担していただく必要があります。なお、決済手数料は、国の収入になるものではありません。
ポイント還元
このクレジットカード納税導入当初、この制度は、カード利用によりポイントが貯まることは、カードの所持者と不所持者で不公平ではないかという趣旨の電話インタビューを受けたことがあった。しかし、収入や資産の状況で納税するような立場の人なら、クレジットカードを保有しているはずであり、それを納税に使うか使わないかは個人の自由であるから、不公平ではないと答えた。その回答に女性記者は納得できなかったのか掲載されたコメントは短かった(朝日新聞平成19年8月20日)。
ところがクレジットカードによる不公平な新たな税負担が出て来た。ポイント還元の制度だ。本稿が読者の目に触れる頃には、消費税の税率アップが施行されている。おそらく混乱するのは軽減税率とポイント還元だろう。軽減税率については、本連載で基本的な疑問について考えたので(平成28年6月号)、今後の経過を見たいが、ポイント還元は、来年6月までの期間限定とはいえ、いささか気になる。
この制度は、消費税率アップに対する景気対策とキャッシュレス化の推進策とされる。そのメリット・デメリットはさておき、そもそも電子マネーやクレジットカード利用が大前提となる。電子決済について、高齢者はスマホを持っていないと同情されるが(京都新聞社説9月3日電子版)、昨今、話題のガラケー女ではなく、ガラケー爺婆だってクレジットカードや鉄道系電子マネーを持っているからそれはいい。問題は、本連載7月号で指摘したが、電子マネーの利用と普及の地域間格差である。クレジットカードや電子マネーは、老若、地域に関係なく容易に準備できる。今後、メリットを理解すれば利用者側の関心は高まる。しかし設備や機器など受け入れ側の態勢、いわば経営規模がもたらす弊害が拡大する懸念は、地方の方が大きい。
この夏、埼玉県のJR武蔵野線、越谷レイクタウン駅に掲示された「きっぷってなに?」というポスターが話題となった。テレビのインタビューで、若者たちが、「生まれてから一度も券売機で切符を買ったことがない」という。夏の終わり、静岡県熱海駅前で、著名な美術館行きのバスの運転手が、何度も「電子マネーが使えない」と詫びた。乗車口で高齢者の不満が漂った。キャッシュレス乗車の恩恵を一番受けているのは、複雑な路線を乗りこなす都会の元気なお年寄りかもしれない。