『スマート防災』のススメ

山村武彦

【リスク管理】「感染拡大への備え」と「新 咳エチケット」 山村 武彦〔防災システム研究所 所長〕

NEW地方自治

2020.02.17

中国武漢発の新型コロナウイルス――日本における感染者数は時々刻々と変化しており、今なお予断を許さない状況にあります。『災害に強いまちづくりは互近助(ごきんじょ)の力~隣人と仲良くする勇気~』(ぎょうせい、2019年)の著者で、防災システム研究所 所長の山村 武彦氏は、感染弱者を考慮した感染拡大への備えと、咳・くしゃみの飛沫が床へ落ちるリスクを防ぐ「新 咳エチケット」が大切だと説きます。ここでは、第一人者からみた感染症リスクを下げる対策や、官民挙げて取り組むべき課題について紹介いただきます。

1.悲観的に準備すれば、楽観的に行動できる

 この10日間で事態が一変した。2月17日午前9時現在、新型コロナウイルスの死者は10日間で3倍以上の1,772人(国内1人)、感染者数は約2.5倍の70,635人(国内411人)に急増と報じられている。国内感染者は約10倍(411人)になったが、うち355人はダイヤモンド・プリンセス号の乗客と乗組員である。にしても、中国以外で感染者が最も多いのが日本だ。2月14日、日本環境感染学会の緊急セミナーが横浜で開かれ、世界保健機構(WHO)シニアアドバイザーの進藤奈那子氏は「中国ではすでに新たな感染者症例が減少しつつある。今、世界中が一番心配しているのは日本。ここで踏ん張って食い止めてほしい」と呼びかけた。
 厚生労働省の感染者情報によれば、濃厚接触のない経路不明感染者も増え、頼みの病院で院内感染が発生している。もはやいつ、どこで、誰が発症しても不思議ではない。日本への旅行自粛を促す国も出てきた。東京五輪を目前にして日本の信頼を揺るがしかねない感染症災害である。このまま収束してくれることを望むが、ウイルスが変異せず、この先感染拡大にならないという保証はない。今からでも遅くはない。公衆衛生マターに留めず、防災・危機管理視点での準備・対策が急務である。
 例えば、フェーズごとに一定規模以上の病院を含めた広域医療・非常診療計画、感染トリアージ計画、軽症者の在宅待機計画、道路緊急封鎖計画、公共交通機関の運行縮減計画、時間差出退勤・登下校計画、業務縮減計画、在宅勤務(リモートワーク)シフト計画、在宅自習計画など。警戒態勢と共に、リスクが高まった時には迅速冷静にタスク対応できるよう、官民挙げてパンデミック対策・行動マニュアルを作成・共有する万全の備えが必要である。備えあれば患いなし、備えるのは意識が高まっている今である。

2.密閉空間でのエアロゾル感染

 2月8日、上海市民生局からの「エアロゾル感染の可能性がある」と専門家の意見が伝えられた。エアロゾルとは、気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子をいう。ウイルスの感染経路は「飛沫感染」「空気感染」「接触感染」「経口感染」の4つに大別される。接触感染と経口感染は文字通りだが、飛沫感染はウイルスが唾液や気道分泌物に含まれた状態で飛散し他の人に付着したり吸引されたりして感染させる。季節性インフルエンザの感染経路はこの飛沫感染が一般的。
 空気感染は、空気中にウイルスの微粒子が浮遊し感染させること。たとえば麻疹(はしか)のように、すれ違うだけでも感染するのが空気感染。中国が発表したエアロゾル感染は完全な空気感染と飛沫感染の中間とされるが、空気中に排出された飛沫微粒子は、すぐに地上に落下せずウイルスが空気中を漂うことになる。飛沫感染であれば1~2m程度離れ、マスクと手洗いで、ある程度防げる。しかし、クルーズ船内、屋形船、車中、診察室のような密閉空間で排出されたウイルスは狭い空間を浮遊する可能性がある。その結果、市販マスクを透過する危険性は否定できない。
 厚生労働省は新型コロナウイルスについてのQ&Aで「上海市民政局の説明では、『飛沫が空気中で混ざり合ってエアロゾルを形成し、これを吸引して感染する』というもので、空気感染ではなく、飛沫感染に相当すると考えられます。国内の感染状況を見ても空気感染に特徴的な現象は確認されていません」と否定している(2月17日厚生労働省HP)。
 しかし、マスク常用の医師や救急隊員でさえ感染している。環境によっては咳エチケットやマスク装着だけでは防げないのかもしれない。念のため、不特定多数と密閉空間などで業務にあたる人、濃厚接触する人、感染すると重篤になりやすい感染弱者は、エアロゾル感染をも視野に入れた警戒防護と「新 咳エチケット」をお勧めする。

3.持ち物を床に置かない「新 咳エチケット」

 厚生労働省によると咳エチケットとは「感染症の感染を防ぐため個人が咳・くしゃみをする際に、マスクやティッシュ、ハンカチ、袖を使って、口や鼻をおさえること」と定義し、特に電車や職場、学校など人が集まるところで実践することが重要としている。しかし、それだけで感染予防になるのだろうか。
 防災・危機管理視点で私が提唱する「新 咳エチケット」は、咳をするときティッシュ、ハンカチ、マスク、袖で押さえるとこと、手指消毒、手洗い徹底励行に加えて、
(1) 咳・くしゃみをするとき、1m以上離れ、できたらしゃがむか、下を向いてする
(2) 出入り口の靴底消毒、ドアノブ等の定期消毒、室内の換気、加湿の励行
(3) 持ち物を床に置かない、室内に入るときは持ち物も清拭する
 咳・くしゃみを立ったままするのと比べると、しゃがんで下を向いてした場合、飛沫の飛散範囲は劇的に縮小する。そしてもう一つのポイントは「手荷物やバッグなどの持ち物を床や地面に置かない」ことである。
 咳やくしゃみで空間に排出された飛沫やウイルスは、最終的には床に落下する。床に付着したウイルスは、靴などに付着してさらに拡散していく。素材や気温・湿度により異なるが、付着したウイルスは最長9日、平均数時間~4日間は感染能力を保持するという。汚染された床に持ち物を置けば、持ち物の底などに付着したウイルスは、そのまま会社、学校、家の中に易々と入り込んでしまう。いくら出入り口で手指消毒を徹底しても、これでは「頭隠して尻隠さず」である。出入り口の靴底消毒と、室内に入るときは持ち物(ケータイ・スマホを含む)をアルコールティッシュなどで清拭することが大切。感染拡大懸念があり意識の高まっている今こそ、日本の衛生文化としても「新 咳エチケット」の周知普及を進めてほしいものである。

4.互近助(ごきんじょ)の力

 ハイリスク患者など、罹患すると合併症などを発症し重篤に陥る危険性のある人を感染弱者と呼んでいる。一般的にいうハイリスク患者とは次に該当する人である。

 ・年齢を問わず介護・医療施設に入っている病気にかかっている人
 ・慢性肺疾患(気管支喘息、満船気管支炎、肺結核などの患者)
 ・心疾患(僧帽弁膜症、鬱血性心不全症などの患者)
 ・腎疾患(慢性腎不全、血液透析患者、腎移植患者など)
 ・代謝性異常(糖尿病、アジソン病などの患者)
 ・免疫不全状態の患者
 ・子供もしくは10代でアスピリンの長期投与を受けている患者
 ・妊産婦

加えて、乳幼児、後期高齢者、術後患者なども広義の感染弱者といえる。むろん老若男女すべての人が予防対策をしなければならない。その上で、ウイルスに弱く感染すると重篤になりやすい人ほど、正しい知識を得て外出時など適切な予防措置と行動が求められる。感染者が発覚したとき、行政防災無線で知らせる地域もあるし、テレビ・ラジオ・ネットなどで毎日繰り返し報道されてもいる。
 しかし、中には耳が遠かったり、ネット環境もなかったり、テレビをあまり見ない高齢者もいる。もし、隣人に情報にうとい方がいたら、ぜひ近くの人が声をかけて状況や知識を伝えてあげて欲しい。それが、私が提唱する「互近助の力」(災害に強いまちづくりは互近助(ごきんじょ)の力~隣人と仲良くする勇気~(ぎょうせい、2019年))である。防災・危機管理は「被害者にならず、加害者にならず、傍観者にならず」が基本。未知のウイルス感染拡大懸念という過去にない不安と不条理な災害に見舞われている日本。怯まず、正しく恐れ、「互近助」で助け合って、国難を克服しなければならない。

(本稿は2020年2月17日現在の知見・情報に基づく)

山村武彦氏近景
山村武彦(やまむら・たけひこ)
防災システム研究所 所長 1943年、東京都出身。新潟地震(1964)を契機に、防災・危機管理のシンクタンク「防災システム研究所」を設立。以来50年以上にわたり、世界中で発生する災害の現地調査を実施。報道番組での解説や日本各地での講演(3,000回以上)、執筆活動などを通じ、防災意識の啓発に取り組む。また、多くの企業や自治体の防災アドバイザーを歴任し、BCPマニュアルや防災マニュアルの策定など、災害に強い企業、社会、街づくりに携わる。著書は、『災害に強いまちづくりは 互近助の力 ~隣人と仲良くする勇気~』『南三陸町 屋上の円陣』『スマート防災 災害から命を守る準備と行動』(以上、ぎょうせい)、『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている』(宝島社)など多数。

この記事をシェアする

現実的で、泥臭く、背伸びせず、地域や自分たちの身の丈に合った対策をわかりやすく!

オススメ!

スマート防災 ―災害から命を守る準備と行動−

2016年3月 発売

本書のご購入はコチラ

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

  • facebook

山村武彦

山村武彦

防災システム研究所所長

1943年、東京都出身。新潟地震(1964)を契機に、防災・危機管理のシンクタンク「防災システム研究所」を設立。以来50年以上にわたり、世界中で発生する災害の現地調査を実施。報道番組での解説や日本各地での講演(3,000回以上)、執筆活動などを通じ、防災意識の啓発に取り組む。また、多くの企業や自治体の防災アドバイザーを歴任し、BCPマニュアルや防災マニュアルの策定など、災害に強い企業、社会、街づくりに携わる。著書は、『災害に強いまちづくりは 互近助の力 ~隣人と仲良くする勇気~』『南三陸町 屋上の円陣』『スマート防災 災害から命を守る準備と行動』(以上、ぎょうせい)、『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている』(宝島社)など多数。

閉じる