月刊「ガバナンス」特集記事
月刊「ガバナンス」2020年11月号 特集:「誰一人取り残さない」地域共生社会へ
地方自治
2020.10.29
目次
●特集:「誰一人取り残さない」地域共生社会へ
新型コロナ禍で懸念されるのはいわゆる社会的な弱者ほど深刻な状況に陥りやすく、かつそれが見えにくいことだ。折しも6月の通常国会では改正社会福祉法が成立。地域の人々の抱える課題が複雑化・多様化する中で、制度や分野の縦割りを超えた「地域共生社会」の実現に向け、「断らない相談支援」の創設などが盛り込まれた。地域共生社会では、自助・互助・共助・公助が連携した重層的なセーフティネットの構築をめざしているが、withコロナ時代に求められるのは、SDGsも掲げる「誰一人取り残さない」ことではないだろうか。今月の特集では、今、地域の人々に何が起きているのかを踏まえたうえで、地域共生社会のあり方について考えてみたい。
宮本太郎(中央大学教授)
■地域共生社会への自治体ガバナンス/宮本太郎(中央大学教授)
2020年の通常国会で、地域共生社会に向けた社会福祉法の改正が行われた。地域共生社会とは、いささか曖昧な言葉であるが、これまでこのビジョンに関して積み重ねられてきた議論を振り返る限り、大きな可能性をもった考え方であると思う。どのように具体化されていくかは、これからの中央と地方の政治と行政に依っているが、ここでは地域共生社会が提起される背景を考え、このビジョンの可能性を検討したい。
■地域共生社会と自治体職員/田中 優(日本福祉大学社会福祉学部教授)
私たちがこのコロナ禍で体験した(している)ことは、孤独さを感じるようになった社会に生きざるを得なくなったということだ。いまこそ、地域社会でさまざまに引き起こされている問題について、他人事ではなく自分事として捉え・連携し、それらの解決に向かっていくように、SDGsのメッセージ─誰一人取り残さない─を具現化していく必要がある。そして、自治体職員には、その社会を実現するリーダーであってほしい。
■コロナ禍で進む高齢者の生活不活発を基盤とするフレイル化・健康二次被害/飯島勝矢(東京大学高齢社会総合研究機構機構長・未来ビジョン研究センター教授)
自治体での調査から「新型コロナウイルス感染症により地域在住高齢者に何が起きたのか」が見えてきた。感染リスクだけではなく、高齢者への自粛生活長期化による健康二次被害が明確なエビデンスとして見えてきたのである。あまりにも感染を恐れるばかりに、生活内容が極度の低活動・不活発に陥り、移動能力の低下だけではなく、認知機能の低下、次なる感染症への免疫力の低下、糖尿病管理の悪化など、様々な負の連鎖が起こってしまうのではないかと危惧される。
〈インタビュー〉
■生活困窮者支援の現場で今何が求められているのか/稲葉 剛(つくろい東京ファンド代表理事)
リーマンショックを上回るといわれる今回のコロナショック(新型コロナ感染症パンデミックに伴う景気の悪化)。緊急事態宣言解除後も経済はまだまだ回復途上で先は見通せず、この先、さらに企業の倒産や失業者が増大していく恐れもある。こうした状況の中で、失業者や路上生活者などの生活困窮者はどのような状況にあるのか。その支援に取り組む、一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事の稲葉剛さんに話を聞いた。
■障害者の就労支援をどう再構築するか/朝日雅也(埼玉県立大学副学長・教授)
コロナ禍によって、誰もが在宅勤務やリモート就労など従来とは異なった方法で仕事を進めせざるを得ない。働きづらさは個々の能力の問題ではなく環境によるものと多くの国民が実感したと思う。そうなると、コロナ禍を機に、障害者の就労を切り口とした多様な働き方を希求するためのリフレーミングは、誰をも取り残さない地域共生社会実現の原動力になり得るのである。
■子ども・子育ての現場に何が起きているか/榊原智子(読売新聞東京本社教育ネットワーク事務局 専門委員)
新型コロナウイルスが猛威を拡大させた今年前半、各国でさまざまな試行錯誤が展開された。残念ながら日本では、小さな命に対する社会的な関心や配慮が乏しいという現実が浮き彫りになり、そうではない国々との違いを知らされることとなった。コロナ危機で起きたことを振り返り、私たちの社会の弱点を克服しなければ、「誰一人取り残さない」という地域共生社会の実現は難しいのではないだろうか。
■ヤングケアラーの調査と支援/澁谷智子(成蹊大学文学部教授)
慢性的な病気や障害、精神的問題などを抱える家族の世話をしている18歳未満の子どもや若者を「ヤングケアラー」という。日本でも最近、関心が高まってきたが、まだ十分に可視化されているとはいえない。ここでは先駆的に取り組んでいるイギリスの調査なども踏まえながらコロナ禍でのヤングケアラーの状況を考えてみたい。
■困難を抱える子ども・女性に求められる支援/川口正義(独立型社会福祉士事務所 子どもと家族の相談室 寺子屋お~ぷん・どあ共同代表・認定社会福祉士)
「当事者の側に立つ」というスタンスを支援する側一人ひとりが堅持して「伴走型支援」が展開されなければ、当事者や社会問題に光をあて、その現実世界に近づくことなどできないし、「誰も孤立させない」という地域共生社会の実現は形骸化するであろう。当事者が求めているものは、制度・施策・システムの「箱」ではなく、それを担う「人の生き様(真の専門性)」に他ならない。
■コロナ禍と自治体の自殺対策/清水康之(NPO法人ライフリンク代表・いのち支える自殺対策推進センター代表理事)
自殺は点と点がつながって線で起きている。いかにその線にあわせる形で、さまざまな対策の連動性を高めていくか、プロセスにアプローチしていけるかが重要だ。そうした線の対策が進めば進むだけ、線が重なりあって面になっていく。その面はまさに地域のセーフティネットそのものといえる。地域の誰かに、あるいは地域のどこかにたどり着けば、さまざまな支援策につながる機能的なセーフティネットを自殺対策を通してつくれるのではないか。
【キャリアサポート面】
●キャリサポ特集
チャレンジ!オンライン職員研修
新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、自治体の職員研修にも及び、実施の中止や延期が相次ぎました。新規採用職員のみならず、学び研鑽する機会が少なくなってしまった多くの自治体職員。しかし、コロナとの付き合い方が徐々に分かって来るなか、一部の自治体や職員研修所では、オンラインを使った研修を開始するなど、新たな動きが出始めています。アフターコロナも視野に、自治体職員研修の今後のあり方を一緒に考えてみませんか。
■オンライン職員研修の現在地とこれから/高嶋直人(人事院公務員研修所客員教授)
人材育成は不急かもしれないが決して不要ではない。withコロナにあって、職員研修の中止、延期は根本的解決策でないばかりか、その対応があまりに長期間にわたると取り返しのつかないダメージを組織に与えかねない。オンライン研修等の代替措置を検討し、再開を図るのは研修担当者の当然の責務ではないか。研修は手段であり代替することは許されるとしても、人材育成は良質な行政サービスを提供するという自治体組織の使命に直結する目的そのものであるからである。
■“オンライン研究会”の創意と工夫/青木佑一(早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員/事務局次長)
早稲田大学マニフェスト研究所「人材マネジメント部会」は、“集合研修”型の組織変革の研究会である。15期目となる2020年の春、コロナ禍により従来の“リアル・対面開催”が不可能となり、「中止か、新しい道か」の選択を迫られた。そうした中で、自治体の「オンライン活用」の可能性に勇気をもらいながら、“オンライン研究会”を全国72自治体と開催している経験や知見を書いていきたい。
〈取材リポート〉
■コロナ禍で年度内の研修をオンライン化/長野県市町村職員研修センター
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、長野県市町村職員研修センターは2020年度の研修をオンラインに切り替えた。緊急事態宣言が発出された4~5月ごろは手探りの状況だったが、研修を重ねるとオンライン化の利点が徐々に見えてきたという。研修センター所長の林雅孝さんは、「不安を抱えながらオンライン研修を始めたが、グループワークなどオンラインでもかなりのことができると分かった」と話し、来年度以降の活用も視野に入れている。
■コロナ禍を受けて初のオンライン職員研修を実施/千葉県我孫子市
新型コロナウイルスの感染防止策を講じながら、自治体はいかにして職員研修を行っていけば良いのか。千葉県我孫子市は6月26日、オンライン会議システム「Zoom」を使った職員研修を実施した。緊急事態宣言の解除後も、いまだ外部講師による集合研修などを行うには予断を許さないなか、代替案の検討を重ねたうえでオンラインを活用した形だ。
●キャリサポ連載
■管理職って面白い! 融通無碍/定野 司
■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ 起きたことに意味を創る/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇
■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/上田淳子
■AI時代の自治体人事戦略/稲継裕昭
■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人
■未来志向で考える自治体職員のキャリアデザイン/堤 直規
■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫
■独立機動遊軍 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介
■We are ASAGOiNG ! 地域公務員ライフ/馬袋真紀
■ファシリテーションdeコミュニケーション/加留部貴行
■“三方よし”の職場づくり/棟方達郎
■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子
■地方分権改革と自治体実務──政策法務型思考のススメ/分権型政策法務研究会
■もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク/オンライン市役所
●巻頭グラビア
□シリーズ・自治の貌
神達岳志・茨城県常総市長 子どもたちが誇れる「防災先進都市」へ
5年前(2015年9月)の関東・東北豪雨災害で一級河川・鬼怒川の堤防が決壊し、市域の3分の1が浸水するなど甚大な被害を受けた茨城県常総市。その翌年に市長に就任した神達岳志氏は、支援を受けた方々への恩返し、そして子どもたちが誇りうる常総市にすべく「防災先進都市」の構築に全力を注ぐ。
神達岳志・茨城県常総市長(51)。子どもたちが体験学習に訪れる「水海道あすなろの里」にて。水害からの復興、防災学習の充実で「子どもたちが誇れる『防災先進都市』を目指す」と語る。
●連載
□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝 細川幽斎(八) 河口で生きる
●取材リポート
□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
「味」への挑戦あれば道あり【「福島醤油」日本一の情景(8)】
原発事故、続く模索
レモン、トウガラシ、燻製……。福島県伊達市には、こんな風味の醤油を開発した蔵がある。戦後出発の後発メーカーなので、伝統的な味よりも、「今、何が求められているか」の追求に力を注いできた。原発事故では、一部の顧客が避難で散り散りになり、深刻な風評被害にもさらされたが、「他にない味」への挑戦に魅せられた地元のファンが買い支えた。
□現場発!自治体の「政策開発」
官学産共同研究と庁内連携で道路陥没事故ゼロをめざす
──効率的な道路陥没防止対策(神奈川県藤沢市)
神奈川県藤沢市は、道路や下水道など都市基盤の強靭化・長寿命化の一環として、効率的な道路陥没防止対策を推進している。独自に主要道路の路面下空洞調査を行ったのち、空洞・陥没の発生メカニズムの解明と防止対策の仕組みづくりなどを目的にした大学・民間企業との共同研究で「陥没ポテンシャルマップ」を開発。庁内で共有し、事後対応から予防保全へ転換して市民の安全・安心な暮らしづくりを進めている。
□議会改革リポート【変わるか!地方議会】
「議会のあり方検討委員会」で検討方針を定め、改革を着実に実施
──神奈川県山北町議会
神奈川県山北町議会の「議会のあり方検討委員会」は今年4月、「見える化・見せる化」検討方針2020をまとめた。「検討又は実施内容」では「すぐに実行できる取り組み」として8項目を掲げ、町民と議員が気軽に話し合う「おしゃべりカフェ」や議会広報モニター制度、議員の通称名使用制度などを実現。議会改革の機運が高まっている同町議会を取材した。
●Governance Focus
□福島県漁連が震災から10年で本格操業へ
──政府は原発「処理水」を海洋放流の意向/葉上太郎(地方自治ジャーナリスト)
東日本大震災による原発事故で、最もダメージを受けたのは福島県の漁業だろう。休漁をよぎなくされ、試験操業を始めた後も、原発で何かあるたびに翻弄されてきた。このため、昨年の水揚げ量は震災前の14%程度に止まっており、活路が見えない。そこで福島県漁連は発災から10年の2021年4月を目途に本格操業を目指すと決めた。だが、政府は原発敷地内でたまり続ける「汚染処理水」の海洋放流を行いたい考えで、風評被害への懸念が高まっている。
●Governance Topics
□介護保険制度20年目の姿から「公共私連携」を考える/第35回自治総研セミナー
地方自治総合研究所は9月19日、第35回自治総研セミナーを開催した。今回のテーマは「『公共私連携』を考える――介護保険制度20年目の課題」。人口減少社会の進展などによって社会保険財政や地域社会の維持など「共」の持続可能性が揺らぎ始めている中、20年目を迎えた介護保険制度の現実なども踏まえて「公共私」のあり方を問い直そうというものだ。
□コロナ禍を乗り越えて高齢者の元気づくりを/元気なまちシンポジウム
一般社団法人元気づくり大学は10月8日、三重県伊勢市で「元気なまちシンポジウム」を開催した。同法人が推進する「元気づくりシステム」に取り組む自治体関係者などが集い、コロナ禍の影響を跳ね返し、再生を果たしつつある健康づくり活動の状況などについて話し合った。
□分権改革やコロナ禍をテーマに自治体の来し方行く末を議論/第34回自治体学会大会
自治体職員、研究者、市民などで構成する自治体学会は10月10日、第34回自治体学会大会をオンラインで開催した。当初は熊本市内で2日間にわたって行う予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてオンラインに切り替えた。当日の参加者は約240人。コロナ禍を踏まえつつ、分権改革から20年が経った自治体の来し方行く末について、活発な議論が交わされた。
□深まる気候変動と企業、自治体で加速する脱炭素化への動き
/気候変動アクション日本サミット2020
気候変動対策に取り組む企業や自治体、NGOなど国家政府以外の多様な主体(非政府アクター)のゆるやかなネットワークである気候変動イニシアティブ(JCI)は10月13日、「気候変動アクション日本サミット2020」を開催した。オンライン開催になった今年は、国内外から約1500人が参加。コロナ禍の中でも加速している脱炭素化への動きなどについて議論した。
●連載
□ザ・キーノート/清水真人
□自治・分権改革を追う/青山彰久
□新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
□自治体のダウンスケーリング戦略/大杉 覚
□市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照
□“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘
□自治体の防災マネジメント/鍵屋 一
□市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
□公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
□生きづらさの中で/玉木達也
□議会局「軍師」論のススメ/清水克士
□「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『コンビニは通える引きこもりたち』久世芽亜里]
●カラーグラビア
□技・匠/大西暢夫
見えない箇所へのこだわり──畳職人・荒川製畳所(山口県山陽小野田市)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ/兵庫県新温泉町
海・山・温泉、人が輝く夢と温もりの郷
□山・海・暮・人/芥川 仁
子どもの頃から愛着のある海でタイを獲る──広島県尾道市浦崎町
□土木写真部が行く~暮らしを支える土木構造物
廃墟の王「軍艦島」
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ/常のモロ(宮城県大郷町)
□クローズ・アップ
自力復旧の田んぼが黄金色に実る──台風19号災害から1年。宮城県丸森町大張「沢尻の棚田」
■DATA・BANK2020
自治体の最新動向をコンパクトに紹介!