議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第31回 続「議会事務局のシゴト」とは何か?
地方自治
2020.10.29
議会局「軍師」論のススメ
第31回 続「議会事務局のシゴト」とは何か? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2018年10月号)
前号で「議会事務局のシゴト」は、主体的な議会の政策立案の補佐であると述べた。しかし、議会からの政策立案に関する、事務局職員からのボトムアップについては、一部に批判もあるようだ。今号では、政策立案に関する補佐の射程について論じたい。
■中立のメルクマールは何か
批判の一つには、公務員の政治的中立性の観点からの、主に議院法制局職員(以下「国会職員」)との比較論がある。それは、「白紙の状態での国会職員から議員への政策提案などあり得ない」との価値観を前提に論じられるが、その前提が真理足り得るのだろうか。
そもそも、合議制機関の職員という共通点はあるが、議院内閣制と二元代表制という異なる制度下における、似て非なるものを同一視した比較論が適切だろうか。まずは国会職員の中立意識の妥当性を、同じ国家公務員である行政機関職員の中立意識との比較で検証すべきであろう。
現状は省庁職員と比べて、国会職員はより厳格な中立姿勢となるのであろうが、その違いを正当化する法的根拠はない。国会職員の中立意識を是とするなら、同じく政治家に仕える省庁職員(大臣秘書官など)の動きは明らかに出過ぎとなろう。幹部の重要な仕事が、事務方の考えをオーソライズするための、政治家の説得であることは公然の事実だからだ。
逆にそれを是とするなら、国会職員の意識は、過剰に萎縮しているともいえるのではないだろうか。
同様に自治体の執行機関職員においても、ある程度首長の意向を忖度して予算や計画の案を調製することは必然であり、それと比して議会事務局職員のボトムアップが、出過ぎなどとはいえないであろう。
■国会が地方議会の規範なのか
給与水準のように、地方公務員の中立意識は国会公務員に準ずるべきとの法的根拠がないにもかかわらず、国会職員に準拠すべきとする理由は何か。確かに各種の議会本において、国会における例を根拠として結論に導く解説が散見されるが、そこに法的正統性などない。
議会の世界では、分権改革による国と地方の関係の劇的転換がなかったがゆえに、執行機関よりも中央集権的感覚が強く残っているのかもしれない。だが、分権を推進すべき地方議会にこそ、中央の呪縛からの早期脱却が必要であり、法的根拠なき国会準拠の考えには、毅然とした態度が望まれるであろう。
■誰のための議論なのか
議論の視点に関しては、内部視点かつ守りの消極姿勢に偏重しているところに違和感がある。学会における立法論ならともかく、現場における解釈論としては、住民視点での建設的論点が抜け落ちている。
それは、住民福祉の向上に資する考え方は、どれなのかということである。職員も「チーム議会」の一員として、議会の政策立案に主体的に参画することが、消極的態度よりも、はるかに住民利益に適うと現場では感じる。解釈が分かれるなら、公務員としての最終的な判断基準は、そこに求めるべきであろう。
議会事務局職員が、議会、議員に対して評論家のような姿勢で接していては、議会はいつまでも変わらない。分権改革が実現した今、国の価値基準に囚われず、住民利益を最大化する視点で既存の枠を打ち破り、常に攻めの姿勢で「シゴト」を捉えることが、議会事務局職員に求められるものではないだろうか。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。