議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第25回 議選監査委員制度は「レガシー」なのか?
地方自治
2020.09.17
議会局「軍師」論のススメ
第25回 議選監査委員制度は「レガシー」なのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2018年4月号)
*写真は大津市議会局提供。
大津市議会では、議員から選任される監査委員(以下、「議選」)を必置から任意とする改正地方自治法(以下、「改正法」)が施行されることに伴い、改正法施行日までに議選枠の廃止を決定した。今号では、議選制度の是非について述べたい。
■大津市議会での経緯
大津市議会では、改正法が成立した時点で、施行までに意思決定する必要性が、最初に共通認識された。
そして議員全員の議選制度に関する知識、問題意識を共有するため、昨年8月に新川達郎・同志社大学大学院教授を招聘して、議員研修会を開催した。直後の議会運営委員会(以下、「議運」)では、議選制度の利点、欠点を整理し、論点を抽出した。次に、議選経験者及び議選以外の監査委員との意見交換を実施。その結果を受けて、各会派内で制度存廃の議論を重ね、議運での議員間討議を経て、廃止の意思決定が本年2月にされたものである。
■大津市議会における論点
制度継続の利点として挙げられたのは、議会活動によって得た情報、見識が監査の現場に還元できること、逆に監査情報を議会審議に活かせる可能性があること、議選がいてこそ監査の権威が担保できるという、いわゆる「用心棒説」等である。
欠点としては、財務会計の高度化や議選監査委員が短期で交代することに伴う専門性の問題、議員が執行機関の特別職も兼ね、議会自体も監査対象となる独立性の問題、守秘義務のため監査情報の議会への還元は事実上困難という問題などである。
最終的には、議会の監視機能強化策を構築することを前提に、議選制度廃止の合意形成がなされた。
■議選制度に関する私見
個人的見解としても、議選は廃止すべきと考えている。それは、議選制度の根源的な矛盾をあえて看過してまで得なければならない利益が、議会現場にはないと感じているからだ。
法的にも、二元代表制の下で議決機関と執行機関の身分を併せ持つことを前提とした制度が新たな提案なら、法制局は果たして認めるだろうか。そう考えると、許容される制度設計上の限界を越えていると思うのである。確かに地方自治法制定時には、政治的効果に期待して、監査を機能発揮させるための〝用心棒〟も必要とされたかもしれないが、監査の機能発揮は本来、法的効果によって担保すべきものであろう。
実務的には、守秘義務の厳守が求められる実質秘は、実際には多くはないと思われる。だが、形式秘か、実質秘かの判断を、予め具体的基準をもって委ねることは困難であり、議選個人の資質に大きく左右されるだろう。本質的部分を個人の資質に依拠する仕組みは、制度設計の完成度としては低いと言わざるを得ないのではないだろうか。
■存廃議論の必要性
もちろん、制度存廃については両論あるだろうが、まずは議会内で議論し、意思決定することが重要である。確かに何もしなくても現行制度が維持されるため、実務上の支障はない。だが、単なる現状維持志向は思考停止を招き、議選をレガシー(遺物)とするのではないだろうか。
大津市議会における今回の議論の発端は、少数会派からの提案であった。手前味噌ではあるが、全会派がそれを真摯に受け止めて議論し、議会の意思を市民に示せたことは、一人の議会局職員としても、とても誇らしく感じている。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。