自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[29]西日本豪雨災害
地方自治
2020.09.16
自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[29]西日本豪雨災害
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
(月刊『ガバナンス』2018年8月号)
2018年7月2日から8日の台風及び梅雨前線に伴い、西日本の多くの地域で洪水や土砂・土石流により甚大な被害がもたらされた。全国で217人が死亡し、14人の安否が不明だ(NHK調べ。19日午後6時50分現在)。
お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆さま、関係される皆さまに、心からのお見舞いを申し上げます。今は、不安でしょうがないと思いますが、必ず生活再建できます。どうか、心を寄せ合って困難な時期を乗り越えられますよう、お祈り申し上げます。
7月9日時点で、全国で8府県58市35町4村が災害救助法の適用を受けるという東日本大震災以来の広域災害となった。記録的な豪雨により地盤が緩んでおり、今後も土砂災害などが懸念されている。1985年には長野市で雨が止んでから5日後に土砂災害が発生し26人が亡くなるという事例もある。被害が拡大しないことをただ祈るばかりである。
避難生活の注意点
今後、被災された方々には真夏の避難生活が待ち受けている。避難所にせよ、在宅にせよ、特に重要な注意点として次のようなものがある。
・日常生活になるべく近い生活をする
特に自力で生活できていた高齢者が避難所で横になることが多く、トイレを我慢したり、床に食べ物をおいて食べるなど姿勢が悪くなると熱中症や誤嚥性肺炎にかかりやすくなる。日常生活と同様の睡眠、食事、トイレ、活動を心がけることが重要で、周りの方々の声掛けが必要だ。
・具合が悪くなったら早めに診療を受ける
夏場は特に体調が一気に悪化しやすい。一晩我慢しているうちに重篤な状況になることもあるので、本人も周りの方々も早め、早めに診療を受けることが大切だ。
・安全な水を利用する
今は断水の地域も多いが徐々に水道が復旧する。しかし、水道復旧直後は水が汚れている場合があるので、しばらく流して、水がきれいになってから利用する。井戸水は水質検査が終わるまで飲まない。浄化槽の場合は、トイレや風呂を使う前に点検をする。
浸水被害からの生活再建の手引き
水害、土砂・土石流災害に関しては、災害にあわないような注意事項が国や自治体のホームページ、ハザードマップに載っているが、いざ災害にあったときの生活再建についてはほとんど記載されていない。また、家の泥出し、乾燥の注意点もほとんど書かれていない。
昨年8月号でも紹介したが、日常生活を取り戻そうと思われたときに、被災された方が参考になるチラシ「水害にあったときに~浸水被害からの生活再建の手引き~」がある。
作成者は「震災がつなぐ全国ネットワーク」(*)で、過去の水害被災地への支援経験をもとに、この手引きを作成し、私も監修者として協力している。第1版は日本財団の助成を受けて2017年3月に発行された。
チラシの概要
このチラシは水害にあった際にすることの一般的な手順をまとめたものだ。落ち着いて、できるところから始めることを推奨する。
①被害状況を写真に撮る
・被害の様子がわかる写真を撮る
・家の外をなるべく4方向から、浸水した深さがわかるように撮る
・室内の被害状況もわかるように撮る
写真は市町村から罹災証明書を取得するときに役立ち、また、保険金の請求にも必要だ。家や室内を片付ける前に、現状を記録することを強く推奨したい。
②施工会社・大家・保険会社に連絡
・家の施工会社や大家に、家が浸水したこと、浸水のおおよその深さを伝える
・火災保険や共済に加入しているときは、担当者にも連絡する
③罹災証明書の発行を受ける
・市役所・町村役場に浸水したことを申し出る
・被害認定の調査を受ける
市町村に自宅が浸水したことを申し出ると、職員などによる被害調査が行われ、住家の被害程度を証明する罹災証明書が発行される。罹災証明書は後で公的な支援を受ける際に必要になる。なお、大規模災害になると申し出がなくとも全戸調査が行われるが、発行までには数週間から1か月以上かかることもある。
被害を判定する1回目の調査の多くは、外から見て行われ、2回目以降は家屋の傾き具合や建物の損傷などから判断される。判定に疑問がある場合には、再調査を申し込むことができる。被害認定の目安(木造の戸建住宅)は次のとおりだ。
・全壊は、1階の天井まで浸水
・大規模半壊は、浸水の深さのもっとも浅い部分が、床上1m
④ぬれてしまった家具や家電をかたづける
・かたづけはゆっくり
上下水道、電気やガスが復旧していないと、思うようにかたづけができない。疲れもたまっているので、慌てずに行うことを推奨する。
・作業のあとには手指を消毒
水害後は砂やほこりが舞っている。マスク、ゴム手袋を身につけ、こまめにうがい、消毒をする。
・ゴミ捨てのルールはふだんと異なる
ゴミ捨てのルールは市町村のチラシや災害FMなどで伝えられる。使える袋の種類や捨てる場所など、正しい情報を得よう。
・ボランティアにお願いする
ボランティアセンター、市町村、社会福祉協議会に相談するとよい。すでに、片づけを支援するため、多くの支援者が被災地に駆け付けている。
⑤床下の掃除・泥の除去・乾燥
これは非常に重要な項目である。ぬれた家をそのまま放っておくと、後からカビや悪臭が発生し、生活に支障がでる場合がある。まずは床下の状態を確認する。自分でできない場合は、施工業者やボランティアに作業をお願いしよう。
(1)泥の除去と床下の消毒をする
・床下の泥をかき出して洗い、消毒する
・消毒剤は注意書きをよく読んで使う
【よく使われる消毒剤】
・消石灰(しょうせっかい)
湿った床下の土にまく。素手でさわらない。
・逆性石けん(ベンザルコニウム塩化物)
「オスバンS」が代表的な商品名。水でうすめて家財や床材、手指の消毒に使う。原液を素手でさわらない。
(2)カビを防ぎ、とにかく乾燥
・床、壁、天井などに消毒用エタノール(80%溶液)をスプレーし、ぞうきんでふき取る
・家具などに使う際は、色落ちしないか目立たないところで確認する
・換気をよくし、火気を使わない
・壁も水を吸っているので、中を確認する
・しっかり乾燥させるには最低1か月ほどかかる
この手引き「水害にあったときに」には、必要な手続きや作業をよりくわしく説明した「冊子版」もある。
なお、2018年7月8日にホームページでは追記が入っている(※)。
*http://blog.canpan.info/shintsuna/
※冊子版の配布について
(2018年7月8日追記)
「被災地からの問い合わせ」
現在お困りで冊子を希望の方は、事務局までメールにてお申込みください。なお、冊子は水害被害にあった地域に支援者が迅速に持ち込み、直接配布することを想定しており、一般地域を含めた全戸配布などは想定していません。被災された自治体等で多数希望される場合も、事務局までお問い合わせください。
震つな事務局
E-mail:info@rsy-nagoya.comまで
※件名に「震つなへの問い合わせ」と記載をお願いします。
「被災地外からの問い合わせ」
・2018年7月に発生した西日本での大規模水害の発生に伴い、現在増刷中です。当面の間、配布は被災された方に限定します。
・被災地外での冊子の利用ご希望については、水害対応が終息次第、有償(1冊200円(税別))にて頒布予定です。準備ができ次第ご案内しますので、事務局への直接の問い合わせはお控えください。ご理解とご協力をお願いいたします。
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。