時事問題の税法学

林仲宣

時事問題の税法学 第13回 免税店

地方税・財政

2019.07.05

時事問題の税法学 第13回

免税店
『月刊 税』2016年11月号

大型チェーン店の進出

 週末、墓参りのために立ち寄る、菩提寺そばの花屋の店主と一緒に、向かいのビジネスホテルから出発する大勢の中国人観光団を見送ることがある。いつの頃からか特に観光地でもないこの街にも、中国人の旅行者が目につくようになった。子供の頃から通う理髪店の店主もその多さに驚く。中継地として都合がいいのかもしれない。

 ただ、市役所から目と鼻の先といってもいいこの界隈では、夕方に大型観光バスが到着すると、多くの飲食店が早仕舞いするという。ホテルに飲食施設がないため観光客はそぞろ歩きを始めることになるが、近所のコンビニは、この地域で一番の売上げを誇るらしい。隣接する家電店の主人は「深夜まで騒がしい」とぼやくが、小中高の後輩である立場としては、この愚痴を謹んで拝聴することになる。

 そういえばコンビニそばのラーメン店には、「一人一品注文して欲しい」とか「食べ物を持ち込まないで欲しい」と判読できる張り紙がしてあった。この付近は旧東海道に面しているため、老舗とされる飲食店が並んでいる。反日思想が横行するかの国の人たちを啓蒙するためには、日本の実情を語る訪日客の存在は大きいことを思うといささか気になるが、店側も困惑しているのだろう。

 この街もドーナツ化で郊外には大型店やチェーン店が乱立する。スーパーや映画館などの複合施設にある市内随一の高層ホテルも中国人観光客の恩恵を受けているようだ。それを当て込んで、ホテルの隣に大手ドラッグストア・チェーンが大型店を進出させ、免税店を設置した。それを見習ってホテルもロビーに売店を設けたら、複合施設内のスーパーから抗議がきた、と街に噂が流れた。商魂たくましい話である。

爆買い景気に課税

 都内はもちろん名古屋などでも、免税店、免税コーナーという看板などが目立ち始めてから久しい。国内の免税店といえば、例えば成田空港などで海外に出国する際に利用されてきた免税店を思いつく。これは関税、酒税、たばこ税、消費税などが免税となる関税法に規定される保税免税店である。

 一方、街角に進出している免税店は、輸出物品販売場(消費税法8条)として消費税が免除になる外国人観光客のための店舗である。当然、その対象は爆買いの中国人観光客であることはいうまでもない。

 この爆買い騒動も落ち着いたといわれていたが、新聞の一面に、「爆買い」無資格ガイド横行、「免税店から多額の報酬」「ガイド免税店連れ回し」の活字が踊った(読売新聞2016年9月20日)。国税当局が税務調査により入手したマージンの支払先のリストには、ガイド数十人の名前や報酬額が記載されており、マージン分商品2割高の記事が掲載された。税務調査といえばその結果はと思ったら、同時に新聞各紙が、急増する訪日外国人客需要で業績を伸ばした免税店運営会社が、東京国税局の税務調査を受け、平成26年12月期までの3年間に約1億円の所得隠しを指摘されたと報じた。法人税の追徴課税は重加算税を含め約4千万円と見られ、同社はすでに修正申告している。同社は決算期末に残った商品を棚卸資産に一部、計上していなかったなどとされる。

 報道によれば、この会社は外国人のツアー客らに健康食品や家電製品など免税品を販売。東京、大阪、札幌など全国に約10店舗を展開し、「爆買い」の影響により、平成25年12月期に約50億円だった売上げを、平成27年12月期には約480億円と10倍近くに伸ばしたという。

 現在、国内には約3万5千店の免税店があるとされるが、爆買い景気が落ち着いたところで、国税当局の出番が来たかもしれない。マージンを受け取っている無資格ガイドや仲介斡旋した旅行会社にも課税のメスがふるわれるに違いない。無資格ガイドのなかには、不法就労の外国人もいるらしい。国税当局の腕の見せ所であるが、課税の公平の見地からも当然といえよう。

 観光庁には、中国人訪日経験者から、免税店に対する苦情も届いているという。多様な対策が求められている。

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税理士

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