地方公共団体による不利益処分に対する行政不服審査請求 弁護士 幸田 宏/森修一郎

自治体法務

2022.03.23

 複雑な法制度の中で適切にビジネスを進めるためには、司法の場での事後的な救済を待っていては遅く、自らが行おうとするビジネスについてあらかじめ規制当局と折衝し、時には時代にそぐわなくなった規制の変更を求めてルールメイキングそのものに関与していく必要があります。こうしたニーズは、技術革新、価値観の多様化により社会変化が加速度的に進む現代においてはとりわけ大きいものといえ、今後ますます増加していくものと思われます。このたび、(株)ぎょうせいは、日本組織内弁護士協会第4部会(国、地方公共団体等)の会員で、国、地方公共団体、独立行政法人などのパブリックセクターに現に所属する、または所属した経験のある弁護士、および同協会パブリックアフェアーズ研究会等に所属し民間企業においてガバメント・リレーションズを担当する弁護士の有志の執筆にかかる『企業法務のための規制対応&ルールメイキング―ビジネスを前に進める交渉手法と実例―』を発売しました。本書には、地方自治体にも大いに参考となるものと思われますので、特に関係する事例の解説を抜粋して紹介します。

 

地方公共団体による不利益処分に対する行政不服審査請求
弁護士 幸田 宏/森修一郎

 

〈Case3-⑫〉
 事業者が電力会社と電力需給契約を締結し、X市内の土地において、再生可能エネルギー発電設備の新設工事(本件工事)のために樹木の伐採を開始しました。その後、X市は、再生可能エネルギー発電設備の設置を規制する条例を制定し、当該条例に基づき、本件工事の停止命令および発電設備の除去命令処分を行いました。事業者は、どのような対応を行うことが考えられますか。

 

【考えられる対応】

 行政不服審査法に基づく審査請求を活用し、処分の違法性、不当性を主張し、処分の取消しを求めることが考えられる。

 行政不服審査請求について、平成26年改正の行政不服審査法(以下、「行審法」という)により手続が一新され、審理員制度等の導入により公正性の向上が図られ、また、標準審理期間制度等により審理の迅速化が図られた。改正前の制度と比較し、判断の公正性の向上が期待でき、また、裁判手続と比較して迅速な権利救済が期待できる。

 このため、事業者が行政による不利益処分を争う際、審査請求を行うことは有効な手段の1つとなる。

1  自治体における審査請求

1.1 はじめに
 行審法に基づく審査請求は、行政庁の違法または不当な処分その他公権力の行使にあたる行為(以下、「処分」という。なお、一定の不作為の場合を含む)について、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができる制度である。①国民の権利利益の救済と②行政の適正な運営を確保することを目的とする(行審法1条2項)。

 審査請求は、裁決という形で審査庁による判断が行われる。

 審理手続においては、処分に関与しない職員が審理員として指名され審理を行う。また、弁護士や学識経験者等からなる第三者機関(附属機関)が諮問する仕組みが設けられ判断の客観性が確保される制度を設けていることに特徴がある。また、標準審理期間が定められている自治体もあり、審理の迅速化も図られている。

 現状での審査請求における認容率は必ずしも高くはない。また、審査請求の対象も個人に対する処分に関するものが多いと推測される(注1)

 しかし、企業や団体の事業については、自治体の認可などの処分によって影響を受けるものも多くあり、これらの事業に影響を与える不利益な処分がなされた場合、審査請求を検討する意義がある(認可申請にあたり、行政手続法の知識を理解しておくことが有用であることについて、第1節4を参照)。

1.2 処 分
 審査請求の対象となる「処分」について、判例は「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」としている(最判昭和39年10月29日最高裁判所民事判例集18巻8号1809頁)。

 ある行為が「処分」かどうかについての行政庁の判断は、その教示で把握することができる。一定の場合には、行政庁が「処分」としていない不作為の場合についても、審査請求を提起することも可能である。

1.3 審査請求の手続の概略
 行審法の定める審査請求の手続は、概要、以下のとおりである。

 審査請求人は、所定の事項を記載した審査請求書を審査庁に提出する(行審法19条)。

 通常、処分庁から弁明書が提出され、審査請求人は、さらに反論書を提出することができる(行審法30条)。このほか、審査請求人は、証拠書類または証拠物を提出することができ(同法32条)、また、鑑定・検証、口頭意見陳述の実施等の手続も用意されている。

 審理員は、必要な審理を終えたと認めたときは、審理手続を終結し、審理員意見書を審査庁に提出する。審査庁は、処分の全部を取り消す等の場合以外、第三者機関(行政不服審査会等)に諮問し、答申を受け、裁決をする(行審法44条)。

 平成26年改正後の行審法における審理員の審理は、上記のように、裁判手続における対審構造類似の手続となっており、裁判手続に精通している弁護士等には、利用しやすいものとなっている。

 さらに、審査庁により、手続の標準審理期間が公表されている場合があり、この期間を6か月としている自治体がある(横浜市、宝塚市、那覇市等)。ほかに、静岡市は9か月、川崎市は3か月から1年としており、自治体によりさまざまであるが、裁判手続と比較して簡易迅速な権利救済が期待できる。

2  活用のポイント

2.1 内 容
 審理手続においては、裁判所による司法審査ではないことから、法令そのものの合憲性については審査されない。しかし、審理手続では、処分の違法性のみならず、当該処分が不当であるかどうかについても審理が行われ、違法とまではいえないものの不当な処分についても迅速な是正が期待できる。

 処分の内容が違法な場合は、処分の根拠となる法令の要件に該当しない場合と、処分庁に裁量権の逸脱または濫用がある場合とがある。法令の要件に該当しないとの主張は、具体的には、処分庁による事実認定が誤っているとの主張と、法令の解釈が誤っているとの主張とが考えられる。解釈の基準が設けられている場合には、基準による法令の解釈が誤っていること、または当該処分について解釈基準が適用される場合にはあたらないことを主張することが考えられる。

 また、処分庁に裁量が認められる場合には、処分の違法だけでなく不当も主張できる。そこで、裁量権の逸脱または濫用を主張するだけでなく、不適切な裁量あるいは基準の不適切な適用による処分(不当な処分)であることを主張することができる。

2.2 手 続
 前述のように、審理は、裁判と類似した対審構造的な手続が用意されている。このため、審査請求人は、基本的には、通常の裁判と同様の観点から主張・立証を検討することになる。もっとも、裁判手続と異なる点もあるため注意が必要である。

 まず、前述のように、行政不服審査は簡易迅速に行われることが想定されており、行審法上の主張書面については、審査請求書、弁明書、反論書に関する規定があるのみである。

 このため、裁判手続のように複数回の主張書面のやりとりは前提とされていないと解され、審査請求人としては、手続の早期終結を念頭におき、できるだけ早めの段階(審査請求時)に主張等を充実させることが望ましい。なお、審理員の判断により、追加の書面提出が求められることがある。

 次に、処分庁の提出した弁明書については、審査請求人へ送付しなければならないと規定されている(行審法29条5項)。これに対して、処分庁等が審理員に提出した証拠書類等については、このような規定はない。このため、実際の運用は自治体により異なるが、処分庁が審理員に提出した証拠書類等が審査請求人に送付されない場合が考えられる。

 このような場合、審査請求人は、証拠書類等の閲覧等に関する規定(行審法38条、78条)を活用する必要がある。

 なお、情報公開請求の開示決定等の処分については、条例で、審査請求を受けた実施機関が、情報公開審査会へ諮問し答申を受け、裁決を行うなどの規定がなされており、行審法と異なる手続が行われる場合もあるので、その点は注意が必要である。

2.3 執行停止の申立て
 不服のある処分について審査請求を行ったとしても、処分の効力、処分の執行または手続の続行は妨げられない(行審法25条1項)。

 このため、処分の内容が、従前の事業等の継続に影響を与える場合であれば、執行停止の申立てを行うか否か検討する必要が生じる場合がある(行審法25条2項・3項)。

2.4 付 言
 行政不服審査の手続においては、行政不服審査会等の第三者機関が関与することとなる。行政不服審査会等の答申において、付言として、当該処分がなされる過程における問題点等について言及されることがある。具体的には、処分の取消理由にはならない場合であっても、処分の理由の提示の改善を求めたり、条例の改正の必要性に言及する等、行政運営の改善を求める付言がなされる場合がある。このような手続に付随してなされる第三者機関の付言により、行政運営について改善が図られる可能性がある点は、特徴といえる。

3  実践例

3.1 類似事例
 〈Case3-⑫〉に類似した実例として、審査請求人が、本件土地において、ソーラーパネルの構築を行っていたところ、市長による再生可能エネルギー発電設備の新設工事の停止命令処分および発電設備の除却命令処分がなされた場合について、当該処分を取り消した裁決例がある(つくば市長による令和3年3月5日付け裁決)。この事案では、審査請求人は、電力会社と電力需給契約を締結後、処分の根拠となる本条例の施行より前に、本件土地の樹木の伐採を開始した。そして、本条例の施行日後に、審査請求人が本件土地でソーラーパネルの構築(新設工事)を行ったところ、工事の停止命令および発電設備の除去命令処分なされた。裁決は、審査請求人の本件事業に本条例は適用されないというべきであり、本件処分は条例の根拠を欠く等として、処分を違法として取り消した。

3.2 医療法人の例
 審査請求の実例では、医療法人が、「医師又は歯科医師でない者」を理事長とするため、医療法46条の6第1項ただし書による認可申請を行ったところ、県知事による不認可処分が行われた場合について、県知事の不認可決定を取り消した裁決例がある(福岡県知事による平成31年3月13日付け裁決)。この事案の裁決は、処分庁が事前に公表された審査基準から読み取ることができない基準に基づく判断をしたとして、処分を違法とした。

3.3 学校法人の例
 審査請求ではないが、学校法人が、当時の学校教育法83条2項、4条による私立各種学校(代々木ゼミナール小倉校)の認可申請をしたところ、不認可処分がされた事案に関する裁判例が、処分庁が考慮すべきでない事項を考慮したことが違法とされた事案として参考になる(福岡地判平成元年3月22日判例時報1310号33頁)。

 判決は、設置認可を受けるための要件としては、学校教育に類する教育を行うもの(専修学校の教育を行うものを除く)で、原則として各種学校規程に定められた基準を満たすものであることをもって足りるというべきであり、同規程に定める要件を満たすか否かの判断につき、各種学校に学ぶ生徒の教育を受ける権利を実質的に保証するとの観点から知事に一定の裁量権のあることは当然であるが、それ以外の事情を考慮することは許されないものというべきであるとした。

 判決は、予備校の「適正配置」等の本件処分の理由は、各種学校規程に根拠を有せず、本件処分は、考慮すべきでない事項を考慮してなされたものとして、違法とした。

3.4 消費者保護関連法に関する処分
 特定商取引法や景品表示法等の消費者保護関連法に関する処分について審査請求がなされる場合がある。自治体の事例ではなく消費者庁の裁決であるが、課徴金納付命令を裁決により取り消した事案(消総総第710 号平成30年12月21日)があるので紹介する。

 審査請求人は、平成28年4月1日から同月20日までの間、カタログおよび自社ウェブサイトに掲載したウェブページにおいて、6つの型式の軽自動車の燃料消費率等について表示を行ったところ、処分庁(消費者庁)は、本件表示について、優良誤認表示にあたる等として、審査請求人に対し、317万円の課徴金納付命令を行った。

 ところが、裁決では、審査請求人は平成28年4月1日から同月20日までの間を通じて本件表示が景品表示法8条1項1号に該当することを知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと認められる等として、課徴金納付命令を取り消した。

3.5 その他
 このほかにも、事業者の事業活動に関連するものとして、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、介護保険法、旅館業法、消防法、食品衛生法等、多様な行政法規に基づく処分に対して、審査請求がなされている。今後、事業者が行う事業に対して、不利益な処分がなされた場合、簡易迅速な救済を求め、審査請求制度の活用が期待される。

 具体的な裁決・答申については、「行政不服審査裁決・答申検索データベース」(注2)で裁決や答申の年月日や法律名によって検索ができる。

(注1) 令和元年度に地方公共団体で処理が完結した9766件の裁決についての内訳は、認容463件(4.7%)、棄却7002件(71.7%)、却下2261件(23.2%)となっており、必ずしも、認容率は高くない(総務省「令和元年度行政不服審査法施行状況調査」)。もっとも、認容の審理員意見書が処分庁に送付された段階などで、処分庁が再検討を行い、職権で処分を取り消すこともあり得る。その場合、審査請求の取下げや却下によって終了する。また、同調査によれば、審査請求の傾向について、生活保護法関係が37.2%、情報公開・個人情報保護関係が26.3%、高齢者の医療の確保に関する法律に関するものが7.9%、その他が28.6%となっている。このことから、現状、審査請求は、個人に対する処分に関するものが多いと推測される。

(注2) 総務省ホームページ「行政不服審査裁決・答申検索データベース」〈http://fufukudb.search.soumu.go.jp/koukai/Main〉。

本稿は、日本組織内弁護士協会(JILA)/監修、里雅仁・木村健太郎・江﨑裕久・江黒早耶香・矢田悠/編著『企業法務のための規制対応&ルールメイキング―ビジネスを前に進める交渉手法と実例―』の一部を抜粋したものです。

 

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