議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第64回 2030年の地方議会に求められるものは何か?

地方自治

2022.03.24

本記事は、月刊『ガバナンス』2021年7月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 筆者は、5月末のマニフェスト大賞2021キックオフ研修会「改革から変革へ〜地域から日本を変える」で、「変革へ向けた議会のあり方」と題するセッションで発表した。

 議題は「2030年の議会はどうなっているか?それに向けて何をなすべきか?」というものであった。

 だが、コロナ禍で激変する社会を目の当たりにして、そんな先のことなど、誰も正確に見通せないであろう。したがって、ここでは私的な理想論に過ぎないが、当日話せなかったことも補足して論じたい。

■未来の議会の実質的要件

 2030年の地方議会の姿は決してひとつではないだろう。法定義務のある最低限のことだけをこなす「形式的要件に終始する議会」と、住民自治の根幹としての任務を果たそうとする「実質的要件を備えた議会」に二極分化するのではないか。

 ここでの実質的要件の意味は、住民参加をどれだけ推し進められるかである。そして住民参加は、議会報告会や意見交換会等の議会外での非公式議会活動を意味しない。

 その理由のひとつは、首長が住民と直結することを議会軽視と批判する「議会迂回説」(注1)が通用する時代ではないからだ。現実問題として、住民要望を直接実現可能な執行権を持つ独任制機関の首長が、議会と同様の住民参加を実践すれば、執行権のない合議制機関である議会は、住民要望の実現可能性やスピード感においてとても敵わないだろう。

注1 西尾勝「過疎と過密の政治行政」日本政治学会編『55年体制の形成と崩壊─続現代日本の政治過程』(年報政治学、1977年)。

 二元的代表制は「機関競争主義」(注2)とも呼ばれ、役割の異なる機関が住民意思の実現を競い合うものであり、他方に対して明確なアドバンテージを見いだせない行動を、同様の手法で続ける意義は希薄である。

注2 江藤俊昭『自治体議会学』(ぎょうせい、2012年)。

 議会は立法機関、議事機関など、機能面から様々に表されるが、最も本質的な面からは議決機関である。議決機関の最も重要な機能は、議案を審議し議決することだが、それは本来、議案に対する住民意見の反映を前提としたプログラムを経て、意思決定されるべきものであろう。

 つまり議会に最も求められる住民参加は、議案審議のプロセスにこそ求めるべきであり、それこそが執行機関には行い得ない、議会ならではの住民参加の実現といえるのではないだろうか。

■本会議の抜本的改革の必要性

 議会への住民参加の法定手法としては公聴会があるが、手続きに日数を要し、議会日程との親和性に乏しいため、事実上活用されていない。そのため、大津市議会では代替案として独自に「市政課題広聴会」制度を創設したが、そこまでこだわる理由は、公式な議案審議プロセスにおいて聴取した住民意見を公式会議録に残し、議案審議に活かすことが、議事機関としての重要な役割であると考えるからである。

 それは現行の標準的な議会運営を前提としたうえでの「改革」でしかないが、抜本的には「本会議」という名称でありながら、実質的な議論など行われず、「会議」の体を成していない本会議のあり方を、ゼロベースで見直す「変革」が求められよう。

 「住民参加」を、自治体の意思形成過程に実質的に関わる「住民参画」に昇華させることは、議会にしかできない。米国の基礎自治体議会ではごく一般的なようだが、住民と議論する機会を議会日程に組み込み、本会議を文字どおりの「会議」の場とすることが、2030年に期待される地方議会の姿ではないだろうか。

 

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

第65回 自治法改正をどのように実現すべきか? は2022年4月14日(木)公開予定です。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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