【例規整備】民法の一部を改正する法律〔法令概要〕
自治体法務
2020.01.28
民法の一部を改正する法律
〇民法の一部を改正する法律
公布年月日番号 平成29年6月2日法律第44号
施行年月日 令和2年4月1日(一部を除く。)
〇民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
公布年月日番号 平成29年6月2日法律第45号
施行年月日 令和2年4月1日(一部を除く。)
<はじめに>
いよいよ債権関係の改正民法(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号。以下「改正法」といいます。)及び民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号。以下「整備法」といいます。))が、令和2年4月1日から施行されます。
本稿では、改正法の中でも特に実務への影響が大きいと思われる改正項目(消滅時効・法定利率・保証債務・定型約款)について、主な改正点とその内容及び自治体実務への影響をご説明します(以下、改正法による改正後の民法を「新法」、改正前の民法を「旧法」といいます。)。
<改正法の概要>
1 消滅時効
(1)主な改正点
ア 主観的起算点から5年、客観的起算点から10年で時効完成
イ 職業別短期消滅時効や商事消滅時効を廃止
ウ 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効の特則(債務不履行、不法行為いずれの場合も、主観的起算点から5年、客観的起算点から20年で時効完成)
エ 「中断」と「停止」は、「更新」と「完成猶予」に
オ 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予制度の新設
(2)解説
旧法は、権利を行使できるときから10年を経過すると時効が完成するのを原則としつつ、特則として、職業別の短期消滅時効(1年、2年、3年)を定めており、商法では、商事消滅時効(5年)が定められていました。新法では、それらの特則が廃止されるとともに、権利を行使できることを知ったとき(主観的起算点)から5年、又は、権利を行使できるとき(客観的起算点)から10年、のいずれか早く到来した方で時効が完成するものとされました。この点、弁済期の定めがある契約上の債権については、主観的起算点と客観的起算点は一致するのが通常だと思われます。
また、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効期間について、不法行為に基づく場合には損害及び加害者を知ったときから5年になり(旧法では3年)、安全配慮義務違反などの債務不履行に基づく場合には権利を行使することができるときから20年になりました(旧法では10年)。なお、旧法は、時効の中断と停止という制度を設けていましたが、「中断」と「停止」という言葉の一般的な意味と法的効果が合致していないことから、それぞれ時効の「更新」と「完成猶予」という言葉に改められるとともに、それぞれの法的効果が整理されました。
加えて、新法では、協議を行う旨の合意による時効の完成猶予制度が新設されました。例えば、債権者・債務者間で交渉中に時効完成が近づいてきたとき、債務者が債務承認はしないが協議は継続する意思があるような場面で利用されることになると思います。
(3)経過措置
施行日前に債権が発生していた場合や、施行日後に債権が発生した場合であってもその原因である法律行為が施行日前にされていたときは、消滅時効の援用や期間については、旧法が適用されます。
例えば、施行日前に請負契約が締結されていた場合、施行日後に業務の完成に伴い報酬債権が発生したとしても、その報酬債権の時効期間は旧法が適用されます。また、債務不履行に基づく損害賠償請求権も、原因となる契約関係が施行日前に成立している場合には、旧法が適用されます。
(4)自治体実務への影響
これまで私債権の消滅時効期間は原則として10年とされていたわけですが、今後は、原則として5年となります。したがって、これまで以上に日々の債権管理において、時効を意識し、完成猶予や更新により債権が時効により消滅しないための管理を行う必要があります。
また、新法施行後、当面の間は、当該債権が旧法・新法いずれの適用を受けるのか、債権発生時や法律行為時を意識して管理する必要があり、時効管理は煩雑になると思われます。
2 法定利率
(1)主な改正点
ア 法定利率を5%から3%に引き下げ、3年ごとに見直す
イ 商事法定利率(6%)を廃止
(2)解説
旧法は、民事法定利率を5%と定めていましたが、市中金利を大きく上回る状態が続いていたことから、新法は、これを3%に引き下げるとともに、今後の市中金利の変動に対応するため、3年ごとに見直す変動制に改められました。
また、商法上、商事法定利率は6%とされていましたが、民事法定利率を上回る合理性は認められないことから、整備法で商法の該当条文が削除され、商取引における法定利率にも新法が適用されることとなりました。
法定利率が変動制になったことにより、その基準時が問題になります。この点、利息は、当該債権についてその利息が生じた最初の時点、遅延損害金は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率が用いられ、いずれも、一旦利率が定まれば、その後に法定利率が変動しても利率は変わらないこととされています。
(3)経過措置
施行日前に利息が生じた場合には、その利息を生ずべき債権(元本債権)の法定利率は旧法が適用されます。
(4)自治体実務への影響
自治体の貸付けにおいては、契約上、利息の利率を合意していることが多いため、改正の影響は少ないと思われます。ただし、遅延損害金については、利率を定めていない事例が散見され、その場合、今後は、適用される利率が基準時によって異なることを意識する必要があります。
なお、公営住宅法第32条第3項における不正入居者に対する明渡し時の利息の適用利率について、現在は「年5分の割合」と定められていますが、整備法により「法定利率」と改正されますので、公営住宅条例の規定の仕方によっては、同条例を改正する必要が生じる可能性があります。
3 保証債務
(1)主な改正点
ア 全ての個人根保証契約において極度額の定めが必要
イ 一定の場合には保証契約の締結前に公正証書(保証意思宣明公正証書による保証意思の確認が必要)
ウ 保証人に対する情報提供義務の新設(保証契約締結時・主債務の履行状況・期限の利益喪失)
エ 連帯保証人に対する請求は主たる債務者に及ばない(相対的効力)
(2)解説
主債務者の継続的な取引について負担する債務を保証する根保証に関し、旧法では、貸金等債務に限定して極度額の定めが求められていたところ、新法では、全ての債務に係る個人根保証契約について極度額の定めが必要となりました(極度額の定めがない契約は無効になります。)。
また、保証人保護の観点から、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約の場合には、当該保証契約の締結日前1か月以内に作成された公正証書(保証意思宣明公正証書)で保証意思の確認が求められるとともに、主たる債務者が、事業のために負担する債務に関する保証などを他人に委託するときは、その人に対し、自分の財産及び収支の状況等の情報を提供しなければならないとされました。
さらに、保証契約締結後の情報提供義務として、委託を受けた保証人は、債権者に対し、主たる債務の返済状況等について情報提供を求めることができ、また、委託の有無にかかわらず、主たる債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知ったときから2か月以内にその旨を通知しなければならないとされています。
その他、連帯保証人に対する履行の請求の主たる債務者への効力についてみると、旧法では、主たる債務者にも及ぶ(絶対的効力)とされていたところ、新法では、及ばない(相対的効力)とされています(ただし、当事者の合意により、絶対的効力事由に改めることは可能です。)。
(3)経過措置
施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、旧法が適用されます。
(4)自治体実務への影響
例えば公営住宅の賃貸借契約においては、保証人を求めているケースが多いと思いますが、不動産賃貸借に基づく賃借人の債務の保証は根保証に当たりますので、極度額を定める必要が生じることになります。
この極度額は、保証契約の締結の時点で確定的な金額を書面又は電磁的記録上定めておく必要があります。例えば、賃貸借契約における賃料等を主債務とする個人根保証契約において、単に「極度額は賃料の6か月分」とだけ契約書に記載されている場合には、確定的な金額の記載があるとはいえず、保証契約は無効となり得るので注意が必要です。
次に、極度額を幾らにするかが問題になります。国土交通省が行った裁判所の判決における連帯保証人の負担額に係る調査によれば、民間賃貸住宅における借主の未払い家賃等を連帯保証人の負担として確定した額は、平均で家賃の約13.2か月分だったとのことです。極度額を定めるに当たっては、この調査結果が1つの目安になろうかと思います(不動産業界では上限額は判例に基づき家賃1~2年分とするケースが有力視されている旨の報道もあります。)。
なお、国土交通省の公営住宅管理標準条例(案)が改正され(平成30年3月30日付け国土交通省住宅局住宅総合整備課長通知)、保証人に関する規定が削除されました(東京都営住宅条例では、都営住宅への入居の円滑化を図るため、連帯保証人に係る規定が削除されています。)。
また、同通知では、保証人の確保を求める場合であっても、住宅に困窮する低額所得者が公営住宅へ入居できないといった事態が生じないよう、入居を希望する者の努力にもかかわらず保証人が見つからない場合には、保証人の免除など特段の配慮を行っていくことが必要とされています。
その他、保証意思宣明公正証書や保証人に対する情報提供義務は、それぞれ、主債務の種類(事業上の債務の保証か否か)や保証人の属性(委託を受けた保証人か否か等)により適用の有無が異なりますので、制度の十分な理解が求められます。
また、連帯保証人に対する履行の請求が相対的効力になったことから、これまでは主たる債務者への請求を怠っていても、連帯保証人との関係で消滅時効を中断(更新)すれば、主たる債務者との関係でも時効が中断(更新)されていたということが、今後は認められなくなります。この点は、当事者の合意により絶対的効力事由に改めることが検討されるべきかと思います。
4 定型約款
(1)主な改正点
定型約款に関する規定を新設し、約款を用いた取引の法的安定性を図る
(2)解説
現代社会では、水道等の供給契約や鉄道等の旅客運送取引等、大量の定型的な取引における契約に際し、約款を用いた取引が行われていますが、旧法には約款に関する規定がなく、その拘束力の根拠等が不明確でした。
そこで、新法は、約款を用いた取引の法的安定性を図るべく、①ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、②その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの、を「定型取引」とし、③その定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体を「定型約款」と定めました。
そして、定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、又は、定型約款を準備した者(定型約款準備者)があらかじめその定型約款を契約内容とする旨を相手方に表示していたときは、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなされます(みなし合意)。
ただし、①相手方の権利を制限し、又は、相手方の義務を加重する条項であって、②その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなされます(みなし合意除外規定)。
なお、定型約款準備者には相手方に対する開示義務があり、定型約款の変更が認められるためには所定の要件(「契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条(※民法第548条の4)の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものである」と評価される必要があり、また、「その効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知」するなどの措置が必要になります。)を充足することが必要になります。
(3)経過措置
定型約款の規定は、当事者の一方により反対の意思表示が書面でされない限り、施行日前に締結された定型取引に係る契約についても適用されます。
(4)自治体実務への影響
自治体では、個別契約であるにもかかわらず、「約款」と題する書面を当事者間で取り交わしている事例も見られるところです。今回、定型約款が条文に明記されたことから、「定型約款」が用いられる取引については、新法に沿った運用を図る必要がある一方、定型約款の要件に該当しない「約款」については、基本的に、民法の契約に関する一般的な規定が適用されることに留意が必要です。
また、条例や規則が定型約款に当たるかが問題になります。
この点、自治体が不特定多数を相手に契約の内容に当たる事項をあらかじめ定めているものについては、定型約款に当たるという見解もあります。現時点で確定した解釈はありませんが、そのような見解がある以上は、将来的に条例や規則が定型約款に当たると判断された場合に備え、定型約款の規定に即した運用を図るべきと思われます。
例えば、条例の改正により使用料を値上げして住民に一方的に不利な契約内容に変更するような場合には、前述の変更の要件を充足させる(個別法に手続が定められている場合にはそれを履践することは当然ですが、それに加え、変更の必要性や変更後の内容の相当性等が認められるかどうかを十分に検討する必要があります(令和元年8月19日付け厚生労働省医薬・生活衛生局水道課事務連絡「民法の一部を改正する法律の施行について(情報提供)」参照)。)など、新法の定めに即した運用をする必要があると思われます。
なお、この記事情報は(株)ぎょうせいが「法令改廃情報提供サービス」で配信している内容の一部です。サービスについて詳しい情報は下記リンク先をご覧ください。
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