最新法律ウオッチング

月刊「地方財務」

最新法律ウオッチング―所有者不明土地利用円滑化法(2018年6月13日公布)

自治体法務

2019.09.04

最新法律ウオッチング 第95回 所有者不明土地利用円滑化法
(『月刊 地方財務』2018年9月号)

所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(概要)

 2018年の通常国会において、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法が成立した。
 近年、人口減少・高齢化の進展に伴う土地利用ニーズの低下や地方から都市等への人口移動を背景とした土地の所有意識の希薄化等により、所有者不明土地が全国的に増加し、今後、相続機会が増加する中で、所有者不明土地も増加の一途をたどることが見込まれる。そして、所有者不明土地の増加により、公共事業用地の取得等の場面で、所有者の探索に膨大な労力等を求められるという問題に直面しており、円滑な事業実施への大きな支障となっていると指摘されている。
 政府は、所有者不明土地の利用の円滑化に向けた施策を総合的に講じる必要があるとして、法案を国会に提出し、成立した。

所有者不明土地利用円滑化法(詳細)

○所有者不明土地の利用の円滑化

 所有者不明土地(相当な努力が払われたと認められる方法により探索を行ってもなおその所有者を確知することができない土地)のうち、反対する権利者がおらず、建築物(簡易な構造で小規模なものを除く)がなく、現に利用されていないものの利用の円滑化のため、次の仕組みが設けられた。
 第1は、公共事業における収用手続の合理化・円滑化のための土地収用法の特例措置であり、国や都道府県知事が事業認定した事業について、起業者の申請により、収用委員会に代わり、都道府県知事が裁定をすることとした。この裁定については、審理手続が省略されるとともに、権利取得裁決と明渡裁決が一本化されている。
 第2は、地域福利増進事業(地域住民その他の者の共同の福祉や利便の増進を図るために行われる道路、学校、公民館、図書館、社会福祉施設、医療施設、公園、被災者用住宅等の整備に関する事業)の実施のための使用権の設定の措置である。都道府県知事は、地域福利増進事業を実施する者からの申請に基づき、関係市町村長の意見も聴いて要件に該当するかを確認するとともに、公告・縦覧の手続を経て、使用権の設定についての裁定をすることとした。裁定では、10年以下の使用権の存続期間、土地所有者に対する補償金の額等を定め、裁定申請をした事業者は、使用権の始期までに、補償金を土地所有者で確知することができないもののために供託しなければならないこととした。また、使用権の存続期間は、事業者の申請に基づき、事業の実施のために必要かつ適当と認められるときは、都道府県知事の裁定により、延長することとした。

○土地所有者の探索の合理化

 土地所有者の探索の合理化を図るため、探索のために必要な公的情報について、行政機関等の利用を可能とする制度を創設した。
 また、長期間にわたり相続登記等がされていない土地について、登記官が、登記名義人となり得る者について探索した上で、その結果等を登記簿に記録すること等ができる制度を創設した。

○所有者不明土地の適切な管理

 財産管理制度に係る民法の特例として、所有者不明土地の適切な管理のために特に必要がある場合に、地方公共団体の長等が家庭裁判所に対し財産管理人の選任等を請求可能にする制度を創設した。

○施行期日
 この法律は、一部の規定を除き、公布の日(2018年6月13日)から6か月以内に施行される。

国会論議

 国会では、土地収用法の特例として都道府県知事が裁定をする理由について質問があり、政府から、新制度は、建築物が存在せず、現に利用されていない土地に限って対象とすることから、個別性の強い建築物の補償や移転料、営業補償の算定は不要となり、また、補償金額等について、明示的な反対者がいないことを公告縦覧により確認することから、意見聴取手続も不要となるため、収用委員会並みの補償算定に関する専門的知見や高度な中立性、公平性は不要であること、他方、収用委員会は7名の合議体であり、日程調整等に時間を要するなど機動的な対応が難しく、多くの事案を抱えているケースもあることを踏まえ、収用委員会の事務局が置かれ、土地の評価など簡易な補償額の算定を行う能力を十分に有する都道府県の知事が裁定をすることとしたとの説明がされた。
 また、地域福利増進事業のための使用権の存続期間を10年以下とした理由について質問があり、政府から、地域福利増進事業は一定の公益性を認められた事業であること、所有者を探索するための措置を尽くすことから不明所有者が事後的に現れる蓋然性が低いこと、現に利用されていない土地であり不明者が積極的な利用意向を持っている可能性が低いこと等から存続期間を長期とし得る一方で、借地借家法における事業用定期借地権の下限の期間が10年とされていることも踏まえたとの説明がされた。

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