月刊「ガバナンス」特集記事
月刊「ガバナンス」2021年11月号 特集:子どもと子育て家庭をどう守るか ──コロナ禍での自治体子ども政策
地方自治
2021.10.28
目次
●特集:子どもと子育て家庭をどう守るか ──コロナ禍での自治体子ども政策
全国で爆発的に感染が拡大した新型コロナの第5波は収束したが、まだ「withコロナ」は続いている。そこで懸念されるのが子どもへの影響だ。人との接触機会の減少やオンライン授業、行事や課外活動の制約などがすでに1年半以上に及んでいるだけでなく、親の減収や失業、在宅勤務など家庭環境も大きく変化しており、発達や学びだけでなく、精神面や虐待などさまざまな問題が指摘されている。さらにデルタ株では、子どもの感染が増加し、感染対策のフェーズも変わった。こうしたなかで「地域の未来」そのものである子どもや若者、そして子育て家庭をどう守っていくのか。自治体政策の視点から考えてみたい。
■コロナ禍による子ども・子育て支援への影響と課題/柏女霊峰
昨年からのコロナ禍によって「子どもの問題」、「子育てや親子間の問題」、「子ども・子育て支援施策への影響」という面でさまざまな影響が見られる。コロナ禍であぶり出されたこうした問題の背景には、子ども・子育て支援を巡る根本的な課題があり、それをコロナ禍がより浮き上がらせた形だ。
柏女霊峰 淑徳大学教授
コロナ禍によって子ども・子育てには「子どもの問題」「子育てや親子間の問題」「子ども・子育て支援施策への影響」という面からさまざまな影響が起きている。こうした問題の背景には、子ども・子育て支援を巡る根本的な課題があり、それをコロナ禍があぶり出し、より浮き上がらせた。
■国と自治体の権限・役割分担の課題考察/鈴木秀洋
コロナ禍で確実に、子どもを巡る環境が悪化している。しかし、子ども自身が支援申請手続を直接行うことができない以上、子どもの声は、子どもに繋がり、かつ、子どもを代弁する大人たちの声によってしか拾われず、多くは統計上に表れない。果たして、子ども施策を担当する責務を負っている国、都道府県、市区町村は、どの程度子どもの声を聞き、対応できているのであろうか。
■子育て家庭を孤立させないために/奥山千鶴子
新型コロナウイルス感染症の拡大は、出産前後の子育て家庭に対しても大きな影響を与えている。妊娠期は、赤ちゃんを迎え入れるという大きな家族の節目にあたり、両親ともに不安と期待が交錯する時期である。コロナ禍で一層緊急性が増した子育て家庭のニーズを的確に捉え、医療、母子保健、子育て支援に関しては官民連携・協働が必要である。
■コロナ禍での子ども虐待予防/奥山眞紀子
新型コロナウイルス感染症が拡大し始め、最初に学校が閉鎖されてから1年半が経った。最近では第5波が収束を見せてきている一方、第6波への不安も強く、将来への不安も強い。子どもという弱者にそのしわ寄せがくることは容易に想像しなければいけない。にもかかわらず、ステイホームで家庭に籠ることが多くなり、社会的コミュニケーションが減少し、関係が希薄にならざるを得ず、個々の子どもの状況が掴みにくくなっているのが現状である。コロナ禍での子ども虐待の状況及び子ども虐待のリスク因子の状況およびそれへの対策への提言について述べる。
■加速する少子化に自治体はどう向き合うか/池本美香
コロナ禍は少子化を加速している。21年1~7月の出生数は前年比5.6%減で、このままその基調が続けば80万人を下回る可能性がある。これは17年の国の推計より10年以上も早いものだ。加速化する少子化に対して、自治体でまず検討を迫られるのは、保育所整備の在り方である。今後は単に施設を統廃合するのではなく、公立と私立や、複数の法人が連携して、地域の様々な課題に対応していくことが求められる。
■ヤングケアラー・ケアラー支援を進めるために/堀越栄子
ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18 歳未満の子どもをいう。子どもが行っているケアがお手伝いの域を越えて、子どもの年齢や成長の度合いにあわない重すぎる責任や、ケアの種類や量が継続的に子どもにかかってくると、心身の健康や教育、進学や仕事など将来にマイナスの影響が出てくる。現在、ヤングケアラー・ケアラーを支援する条例制定や施策の実施、地域での助け合いによる支援が始まっているが、今回は自治体に進めてほしい取り組みについて述べたい。
■終わりの見えないコロナ禍と子どもの貧困対策/末冨 芳
新型コロナウイルス感染症流行の前から、わが国では、子育て世帯の16.9%に「食料が買えない経験」があり、ひとり親世帯では34.9%といっそう高くなる厳しい状況が存在した。コロナ禍の中でその状況がますます悪化していることが懸念される。
■子ども・若者の自殺予防を進めるために/石井綾華
NPO法人LightRing.は、若者の自殺予防を目指して「悩む人に気づき、声を掛けることができる」非専門家ユースゲートキーパーを養成してきた。コロナ禍においても若者が身近な支えを続けられるよう、ゲートキーパー支援コミュニティ「ringS」をオンラインで開催している。各々の体験を話し合うringSの場は、身近な支えで生じる無力感や自責感を緩め、バーンアウトを防ぐ役割がある。また、その経験は、自身が辛くなった時にも自分を〝ひとりぼっち.にせず、他者に助けを求める許しを得るプロセスでもある。若者の自殺予防を目指すには、当事者と関わりを持つ家族やパートナー、友人などの非専門家の支え手(ゲートキーパー)に対して、社会的孤立を防ぐ支援環境を整える制度づくりが急務だと考えている。
【キャリアサポート面】
●キャリサポ特集
心理的安全性の高い職場づくり
風通しの良い職場、悪い職場……。こんな表現は昔からよく使われます。
一方、最近では類似の概念として、心理的安全性という言葉を耳にするようになった人も少なくないでしょう。組織の中で、誰でも気兼ねなく意見や疑問、違和感などを言える状態のことを指し、心理的安全性が高いほど、組織の成果も高まるとされます。
今回は、自治体職場での心理的安全性をテーマに理論や実践を見ていきたいと思います。
■なんでも言い合える環境をつくり、チームや組織の成長を支える“心理的安全性”/青島未佳
“心理的安全性がある職場=仲良し職場”ではない。心理的安全性が高いチームとは、「上司を含むメンバーがチームの目的や目標の達成に向けて、あるときは熱い議論を交わしながら、お互いの知恵や意見を率直に出し合い、より良い結果を導ける」組織であり、どちらかと言えば「優しい組織」よりも「厳しい組織」と言える。この点は、誤解されがちであるため、特に強調したい。
■自治体職場での心理的安全性の高め方と課題/齋藤綾治
自治体を取り巻く課題の複雑さ、難しさが増していく中にあって、自治体職員には、過去から続く地域社会を支え、未来へとつなげていくことが求められている。職員の力は、職員同士だからこそ磨き合い伸ばしていけるものである。心理的安全性という言葉をキーワードに、まずは聴き合うところから、その第一歩を踏み出してはいかがだろうか。
〈取材リポート〉
◆新たな人材育成基本方針に心理的安全性の向上を明記/愛知県田原市
愛知県田原市はこの3月、2015年10月改訂の人材育成基本方針に2度目の改訂を加えた「田原市職員人材育成基本方針2021」を策定。「自ら伸びる」「組織で伸びる」「制度で伸びる」の三つの方策を提示し、このうち「組織で伸びる」方策の一つとして、「心理的安全性の向上」を盛り込んだ。公務員の労働環境が年々厳しさを増すなかでも、生産性や課題解決力を高めることがねらいだ。また、コンプライアンスやリスクマネジメントの面での効果も期待している。今年度は、課長級向けのダイバーシティ研修などを通じて、心理的安全性の高い職場づくりに取り組みつつある。
●連載
■管理職って面白い! ジョハリの窓/定野 司
■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
価値を見出して伝えること、それが「ほめる」の本質/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇
■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/上辻裕実
■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭
■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人
■未来志向で考える自治体職員のキャリアデザイン/堤 直規
■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫
■宇宙的公務員 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介
■次世代職員から見た自治の世界/吉村彼武人
■“三方よし”の職場づくり/岩下潤次
■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子
■新型コロナウイルス感染症と政策法務/澤 俊晴
■地方分権改革と自治体実務──政策法務型思考のススメ/分権型政策法務研究会
■もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク/第7回関東自主研サミット
●巻頭グラビア
自治・地域のミライ
石井宏子・千葉県君津市長
「対話する市政」で、「希望に満ちた君津の未来」の実現を
「君津への愛」「君津はもっと元気になる」と訴え、2018年に千葉県君津市長に初当選した石井宏子氏。石井市長は、「対話する市政」を基本姿勢に、「希望に満ちた君津の未来」の実現を目指す。
石井宏子・千葉県君津市長(57)。新規就農者等研修施設「カラーの里」にて。「対話する市政」が基本姿勢。「この基本姿勢は2003年に市議になった頃から全く変わっていない」と話す。
●連載
□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝 隆景家から頼家への転生(四) 座敷牢での自己改革
●取材リポート
□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
アメリカの規制撤廃は起爆剤になるのか【11年目の課題・福島県産品の輸出】
原発事故、続く模索
福島県産品への風評被害は国内ばかりではなかった。海外でも輸入を禁止する国が相次いだ。だが、アメリカが9月22日、全ての農水産品の輸入規制を撤廃し、残るは5か国・地域だけになった。今後の対米輸出で注目されるのはコメだ。「既に輸出されている清酒と相乗効果を上げれば、国内の風評被害解消にいい影響を与えるのではないか」と期待する農家もいる。
□現場発!自治体の「政策開発」
産学官で迅速に実態を把握し総合的な空き家対策を図る
──ビッグデータを活用した空き家実態調査(前橋市)
前橋市は、高齢化や核家族化、人口減少に伴って課題となっている空き家対策に力を入れている。空家利活用センターを開設して相談や助言を行うとともに、不動産関係団体と連携して空き家の市場流通を促進。法律や条例に基づき特定空家等の対策にも積極的に取り組んでいる。また、産学官協働でビッグデータとICT技術を活用した迅速な空き家実態調査モデルを構築。データに基づいた総合的な空き家対策に挑んでいる。
□議会改革リポート【変わるか!地方議会】
常任委員会がテーマを定めて調査研究、市民参画型の政策立案サイクルを構築
──静岡県掛川市議会
静岡県掛川市議会では三つの常任委員会がテーマを定めて調査研究を実施している。議会報告会で調査研究の中間報告を行い、市民の意見を聴取。その後、常任委員会協議会で執行部と議論・調整を行い、委員会として提言を作成し、最後は全議員による政策討論会を開催する。そこで合意形成が図られたものは市長に提言するという市民参画型の政策立案サイクルを構築しているのが特徴だ。
●Governance Focus
□川あっての温泉街を豪雨の時代にどう守る
──2020年7月豪雨で被災。大分県日田市、天ヶ瀬温泉/葉上太郎
昨年の「7月豪雨」では、熊本県の球磨川水害を始めとして、全国で大きな災害が相次いだ。そのうちの一つ、大分県日田市の天ヶ瀬温泉では、川沿いの温泉街が洪水に呑み込まれて旅館の半数が被災した。別府や由布院とともに「豊後三大名泉」に数えられる名湯だが、今後の河川改修では川湯の露天風呂や泉源に影響が出るという。新型コロナウイルスの影響でダブルパンチを受ける中、温泉街の運命はどうなっていくのか。
●Governance Topics
□「自治」の視点から「自治体DX」のあり方を考える/第36回自治総研セミナー
地方自治総合研究所は9月18日、第36回自治総研セミナーを開催した。今回のテーマは「自治から考える『自治体DX』--『標準化』『共通化』を中心に」。コロナ禍の中で急速に進みつつある自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)について、「自治」の視点から考えようというものだ。セミナーはオンラインで配信され、約220人が参加した。
●連載
□ザ・キーノート/清水真人
□新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
□市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照
□地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚
□“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘
□自治体の防災マネジメント/鍵屋 一
□市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
□公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
□今からはじめる!自治体マーケティング/岩永洋平
□生きづらさの中で/玉木達也
□議会局「軍師」論のススメ/清水克士
□「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
□From the Cinema その映画から世界が見える
『モーリタニアン 黒塗りの記録』/綿井健陽
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『脱炭素革命への挑戦』堅達京子]
●カラーグラビア
□技・匠/大西暢夫
ミクロン単位の繊細さと力技──漆刷毛師九世・十世/泉清吉さん(さいたま市)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ
歴史・文化も薫る、雄大で美しい自然のテーマパークへ/茨城県高萩市
□山・海・暮・人/芥川 仁
平等に漁をできる民主的ルール──静岡県賀茂郡南伊豆町大瀬
□生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
大都市近郊に今も息づく落ち葉堆肥農法
──武蔵野の落ち葉堆肥農法(埼玉県武蔵野地域)
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ/ちかもんくん(福井県鯖江市)
□クローズ・アップ
「名人」が温泉を守る──大分県別府市、共同浴場の苦境
■DATA・BANK2021 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!
[特別企画]
〈DXによって自治体改革をどう進めるか①〉
デジタル技術を活用し、新しい民主主義の手法を構築する
──茨城県取手市議会