知っておきたい危機管理術/酒井 明

酒井明

認知症リスクにどのように対処するか

NEWキャリア

2020.06.23

知っておきたい危機管理術 第45回:認知症リスクにどのように対処するか

『地方財務』2019年8月号

 「物忘れが最近ひどくて」「隣のおばあちゃんが認知症になった」ということばが、小生の周りにも多く聞こえてくるようになった。関わりのあるデイケアセンターや介護施設等の現場でも、「認知症」の過酷な現実を目のあたりにすることがあった。認知症とはどのようなものなのか。予防できないのか。治療や薬で治らないものなのか。

認知症とは

 認知症は、脳の神経細胞が壊れて、記憶や認知能力が失われる病気の総称である。予防は可能であるが早期発見、早期の適切な治療が重要である。発症後、治療に効く特効薬や特別の治療法はないということである。

 私たちの脳内では数千個の脳細胞が網の目のように繋がり、活発に活動することで考えたり、記憶したりしている。たまたま一部の神経細胞が繋がらない場合は「物忘れ」で済むが、多くの神経細胞が繋がらないことが常態化すると「認知症」といわれる。神経細胞が繋がらなくなる原因としては、多くのことが挙げられている。主要なメカニズムは、脳が活動する際に出る老廃物「アミロイドβ」が脳内に溜まり、神経細胞を破壊する、また加齢等で神経細胞が新たに作られなくなり、壊れたままで繋がらなくなることである。

 「認知症」ということばが使われるようになったのは、2004年からである。それまで「痴呆」や「ボケ」などが使われていたが差別的であるという批判があり、厚生労働省の指針のもと、「認知症」ということばに置き換えられ、現在浸透してきている。

認知症と物忘れの違い

 認知症の初期症状は老化によるものと思われがちだが、老化による物忘れと認知症の違いはどこにあるのか。加齢による物忘れは、老化による記憶力の低下で病気ではない。初期段階の認知症と老化による物忘れの区別は難しい場合があるが、昨日の食事で何を食べたかを忘れるのが老化による物忘れであり、食事したこと自体を忘れるのが認知症であるといえるかもしれない。

 日本では、これまで脳血管性認知症が最も多かったが、最近では、脳の神経細胞内のβアミロイドタンパクが蓄積して起こるアルツハイマー型認知症が70%近くで最も多く、次にレビー小体という異常なたんぱく質が蓄積して起こるレビー小体型認知症、脳血管性の病気から起こる脳血管性認知症と続く。この3つを3大認知症という。脳の機能は、正常、軽度認知障害(MCI)、認知症初期、中期、後期の5段階に分けることができる。3番目の認知症初期では、記憶力が徐々に低下していき、物忘れが激しくなる。4番目の中期は記憶障害が進み、道に迷ったりして周りの人の助けが必要になる。5番目の後期になると身の回りのことが自分でできず全面介助が必要になる。

早期に気づくことが重要

 予防的観点から、2番目の軽度認知障害(MCI)が注目される。認知症の一歩手前の状況であり、認知症ではない。同じ話を何度もする、お金の計算や自分のスケジュール管理ができない、趣味に興味がなくなった等の兆候が現れたら要注意である。この段階で放置しておくと、約半数が発症するといわれる。正常に戻る可能性もあり、そのためには早期に気づくことが大事である。そのため、自宅でできる「はからめ」という簡易な判定法が安価な値段で市販されている。認知症発症の10年前頃から嗅覚が徐々に衰えてくる点に注目し、いろいろなにおいが内包された10枚のカードをこすって、においをかぎ判定するのである。本格的には、物忘れ外来やメモリークリニック等で問診、長谷川式テストや血液検査、MRI、VSRAD(脳の状態を数値や色で表すもの)等を専門家に判定してもらうことになる。

 その他予防対策として2重のタスクを同時に行うことが挙げられる。しりとりしながらの散歩、考えながら指を動かす健康麻雀、音楽を聴きながら相手のステップに合わせるダンスも脳の活性化には有効であろう。さらに、最近、嗅覚を刺激し脳を活性化するとしてアロマセラピーが注目されている。

認知症患者への接し方

 不幸にも発症してしまったら、患者を批判したり、叱ったりしてはいけない。相手のいうことを我慢して聞き、共感を示してやることが重要である。ボケているから感情やプライドもなくなるというのは大きな間違いで、患者本人は周りの人に迷惑をかけていることを感じとっているそうだ。

今後の見通し

 2025年に65歳以上の5人に1人が認知症になるといわれる。認知症の基礎知識と予防の重要性を認識することが求められているのではないか。発症後の治療に特効薬はないが、2019年3月発表の論文によるとプラズマローゲンという成分に認知症の予防効果が発見されたという報告もある。国内の論文でもプラズマローゲンにはアミロイドβの分解を促進し、蓄積を防ぐ効果が確認されている。医学の進歩により、認知症が治る病気になることを祈りたい。

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酒井明

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東京福祉大学特任教授

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