自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[16]地域・自治体の防災マネジメントを改めて考える(下)

NEW地方自治

2020.06.24

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[16]地域・自治体の防災マネジメントを改めて考える(下)

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2017年7月号) 

高知市下知地区の取組み

 前号に続き、高知市下知地区の事前復興計画を中核とした地区防災計画の進捗について報告する。

(3)地区防災計画の検討経過
〈16年度〉

○第5回検討会(下知をどう再建するか考える)
・16年7月開催、参加者33人
・下知地区の地図を広げて、事前復興のコンセプトを実現するためにどこに何を配置するかをワークショップで検討

○第6回検討会(大地震後に下知をどう復興するか)
・16年9月開催、参加者45人
・参加者の幅を広げて(住民、福祉、学校、企業、団体、避難ビル等関係者)、子ども、障がい者・健康・福祉、生活・産業について、ワークショップで検討

○ブロック会
・16年10月~17年2月に開催(計8回)、参加者合計110人
・より多くの住民の意見を募るため、下知地区を8ブロックに分割して、それぞれの地区で検討を実施

○第7回検討会(16年度事前復興計画の柱決め)
・17年2月開催、参加者43人
・これまでの検討結果を五つに分類し、それぞれ事前復興計画の柱となる内容をワークショップで検討

○第8回検討会(16年度版事前復興計画案の承認)
・17年3月開催、参加者32人
・16年度版事前復興計画案を提案し、内容の承認
・「あいさつをするまち下知から」を実現する具体策をワークショップで検討

(4)基本コンセプト
 最終的に基本コンセプトは次のようになった。

 「伸び伸び遊ぶ子どもたちを中心に、地域のつながりで、楽しく安心して暮らせる、災害に『も』強いまち下知」

(5)分野ごとに目指すべき姿
 復興の各分野ごとに目指すべき姿は次のようになった。

①子どもについての復興の方針
・ワークショップでは大人たちは子どもの幸せを願っていた
・幸せは、良い人間関係で作られる
・良い人間関係は学習の場だけでなく遊びの場で作られる
 そこで「子どもが伸び伸びと元気に遊べるまち」とした。

②高齢者・障がい者についての復興の方針
・話し合いでは子どもたちは高齢者の幸せを願っていた
・高齢者や障がい者には、安心感と生きがいが特に大切ではないか
 そこで「お年寄りや障がいがある人が安心と生きがいをもって暮らせるまち」とした。

③働く世代についての復興の方針
・自らと家族の生活を支えるには、仕事で収入を得ることが大切だ
・産業が早く復興し働く場があれば、人もまちも元気になる
 そこで「産業が活発で働きやすいまち」とした。

④災害に強いまちについての復興の方針
・すべての世代が力を合わせ、良い地域社会と人間関係を創り上げる
・それは災害があろうがなかろうが、揺るぎなく続く
 そこで「魅力があり、災害に強いまち」とした。

⑤コミュニティについての復興の方針
・ご近所力の強いところは、人々が健康で幸せに暮らせる
・ご近所力は、日常活動と、人と人とのコミュニケーションで強化される
 そこで「地域活動が盛んで、名前で呼びあえるまち」とした。

(6)質量豊富な防災訓練
 昭和南海地震70年下知地区総合防災訓練(16年12月)には、約1200人が参加した。単位防災会もそれぞれ夜間・早朝避難訓練、避難所運営訓練、安否確認訓練、津波避難ビルへの避難訓練、炊き出し訓練、消火訓練、マンション上層階からのはしご車救出訓練、小学校との連携防災、起震車体験など熱心に行っている。

地区防災マネジメント向上の要因

 下知地区の取組みは、地区防災計画作成の過程で、住民参画の場を創設し、地区内でさらに8ブロックに参画の場を拡充した。また、毎回行ったワークショップで合意形成のあり方に習熟しつつある。年を追うごとに訓練の質量が多くなるのは、検証、改善を進めるプロセスが徐々に定着している表れだ。地区防災計画への取組み2年目ですでに地区防災マネジメントの形ができつつある。

 その要因を考察すると次のような特徴が挙げられる。

(1)組織及びコアメンバー
 下知地区減災連絡会は、地区内の自主防災組織などの連合組織であり、熱意あるコアメンバーが数人いて発足当初の11団体から16団体へと拡充した。その上で、行政や学校、研究者などとも連携し、外部の力と知恵を導入している。しっかりした組織づくりとコアメンバーの確保は、地区防災計画の成否、熟度、実効性を高めるうえで、重要ポイントであった。

(2)課題意識の共有
 高知市はこれまで南海トラフ地震対策として、各種のハザードマップを整備し、過去の災害履歴を残している。地区防災計画への取組みは、改めてこれを住民間で理解、共有する機会となった。また、復興計画を中核とすることで未来志向の提案が多く生まれた。

(3)住民ワークショップ
 住民に広く声かけをしてワークショップを行った。自主防災会だけでなく、他分野で活躍している人に声をかけるなど、キーとなる人材の発掘に努めている。特に、学校の教員はワークショップのような作業に慣れていて、しかも人の話を上手にまとめたり、聞き出すことが得意であることが判明した。議論を自由闊達に行うことで、住民間のコミュニケーションが良くなり、信頼関係が築かれていくと実感した。

(4)事務局
 ワークショップでは、会場確保、関係者への連絡、記録取り、成果のまとめ、次回の方向付けなどをする事務局が活躍した。住民の中に事務局機能を果たす人が複数いるほか、行政職員、コンサルタントが協力して、スムーズな会議運営、成果の抽出、共有化を行っている。

 今後、下知地区に地区防災マネジメントが定着したと言えるには、多くの住民が本気で活動に参加し、訓練と計画の見直し、拡充や改善を継続できるかにかかっている。

おわりに

 わが国は大地動乱、気象攪乱の時代に入っている。大災害は、すべての地域にとって現実のリスクだ。しかし、それぞれの地域には、これまでの積み重ねの上に、防災へのハード・ソフト、住民意識があり、直ちに最先端の地区防災計画を取り入れてもすぐに形骸化するのではないか。多少時間はかかっても住民の対話、計画作成、訓練、評価・改良を継続的に重ねる地区防災マネジメントを確立し、少しずつでも前進することが重要だ。

 災害はたしかに災いではあるが、地域を抜本的に変えられる貴重な機会でもある。災害後の復興を見据えた地区防災マネジメントは住民に、人とつながり、郷土を愛し、災害を克服する気概を与えるはずである。

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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