感染症リスクと労務対応

弁護士法人淀屋橋・山上合同

【労務】感染症リスクと労務対応 第24回 咳エチケットの徹底・順守!使用者の安全配慮義務の範囲はどこまで?

キャリア

2020.05.26

新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)

咳エチケットの徹底・順守!使用者の安全配慮義務の範囲はどこまで?

(弁護士 高 芝元)

【Q24】

 従業員が、会社に対して咳エチケットの徹底・順守を求めてくる場合、安全配慮義務の履行として、どこまで義務づけることができるのでしょうか(マスクがない場合の対応等)。

【A】

 咳エチケットの徹底・順守の義務づけが可能であるとはいいきれませんが、一定の配慮はすべきと考えられます。 

使用者の安全配慮義務

 労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定め、使用者の安全配慮義務を規定しています。
 また、安全配慮義務は、従業員の生命、身体等の安全を確保するよう配慮する手段債務であり、その具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる具体的状況等によって異なると考えられています(最判昭和59・4・10民集38巻6号557頁)。
 そのため、使用者は、従業員に対し、ウイルス等感染症の感染拡大期においては、その生命、身体等の安全を確保するため、当該状況に即した安全配慮義務を負います。

必要な配慮

 では、ウイルス等感染症の感染拡大期に、いかなる対応が安全配慮義務の履行、つまり「必要な配慮」(労契5条)といえるでしょうか。
 先述のように、安全配慮義務の具体的内容は、画一的に定められているわけではなく、問題となる具体的状況等によって異なり、ウイルス等感染症の拡大という状況に即して考えなければなりません。また、人との接触がどの程度(頻度や状況)想定されるのか、その場合接触する者は不特定多数なのか、接触場所の換気状況はどうか等、具体的事情によって重要度の強弱があります。例として、以下のような対策が考えられます。

 ① 社内文書等により、マスクの着用やせっけんでの手洗いなど予防策を周知すること
 ② マスクの用意、座席間のパーティションの設置などの感染予防手段を講じること
 ③ テレワークの推奨やローテーション勤務、短時間勤務等の措置を講ずること
 ④ 業務遂行場所の換気を徹底し、人の密度を減らすこと
 ⑤ 不要不急の会合などの中止、延期、WEB会議等での実施等をすること
 ⑥ 感染が疑わしい症状のある従業員を休ませること
 ⑦ 実際に感染者が出た場合の連絡体制を整備すること
 ⑧ 日々の連絡によって従業員の状態を把握すること(たとえば、毎朝従業員に検温結果を電子メールで送るよう指示することなど)

義務づけの可否

 以上のように、考えられる「必要な配慮」の内容はさまざまであり、たとえば、従業員から咳エチケットの徹底・順守を求められたとしても、マスクやアルコール消毒液などが品薄状態であれば、購入できない場合もあり、そのすべてを義務づけることができるわけではありません。
 とはいえ、企業としては、従業員を雇用して集団で業務に従事させている以上、感染のリスクを避けるために、当然に何らかの一定の配慮をすべきでしょう。この際、業務命令として強制できることと、要請にとどまらざるを得ないことがありますので注意してください。たとえば、手洗いや換気を業務命令として徹底したり、社内会議等は業務として中止、延期、あるいはWEB会議での開催を義務づけたりすることは可能です。また、状況によってはマスクの着用を義務づけることも可能と解されますが、その場合は会社の責任と費用負担によってマスクを準備、配布すべきでしょう。

安全配慮義務違反を問われる場合

 もっとも、使用者は以上のような安全配慮義務を負うものの、医療現場等特殊な状況であれば別段、一般的には従業員が、業務上の理由でウイルス等感染症に罹患したか否か、つまり因果関係の立証は困難であると想定されるため、一定の配慮義務違反があることを理由として、直ちに同義務違反に基づく損害賠償義務を負うとの結果にはならないと考えられます(Q21参照)。しかし、何らの配慮もせずに漫然と出勤させるだけの状況だと、義務違反による精神的苦痛(慰謝料)の請求がなされる可能性は否定できません。
 以上のとおり、可能性は低くとも法的責任を問われるリスクやレピュテーションリスクを避けるため、また事業を持続させる必要なども重要ですが、何より従業員の感染を避けるために「必要な配慮」を社内で行うことは、企業が従業員および社会から当然に求められる役割といえるでしょう。

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弁護士法人淀屋橋・山上合同は、あらゆる分野の法律問題について、迅速・良質・親切な法的サービスを提供している法律事務所。2020年3月現在64名の弁護士が所属。連載を担当したメンバーは、主に企業側に立って、雇用や労働紛争に係る相談対応、法的助言から裁判手続、労働委員会における各種手続の代理人活動等を行っている。

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