相手を動かす話し方 第8回 感情的な相手に対する受け答え

NEWキャリア

2019.08.05

相手を動かす話し方
第8回 感情的な相手に対する受け答え

(月刊『ガバナンス』2008年11月号)

 田中君が窓口で仕事をしていると、一人の女性が歩み寄ってきた。そして、いきなり「なんで、こんなに待たされるんですか!」と、ものすごい剣幕で苦情を言い始めた。

 話を聞いてみると、どうも申請書類を窓口に提出した後、待合いコーナーを離れてしまい、番号が呼ばれたのを聞き漏らしたようだ。田中君がその旨を説明しても、くだんの女性は怒りが収まらないようで、ますますエスカレートするばかり。

 さて、このような場面に遭遇した場合、どのように受け答えすればいいだろうか。

 

身体全体で話を聴く

 感情的になっている相手に、「いや、そうではなく…」と反論しても効き目はない。それよりも、迅速に問題を解決することが最も重要だ。まず、相手の話をしっかり聴くこと。それも聴いていることを全身で表すこと。聴いているつもりでも、聴いていることが相手に伝わらない場合があるからだ。

 たとえば、相手と向き合っていない、目線が合っていない、書類を見ている、あるいは、気もそぞろで他のことを考えているなどという態度では、たとえ口で「はい、はい」と相づちを打っていても、「本当は話を聴いていないのでは…」と思われてしまう。そうなれば、無礼な職員だと、ますます相手の感情はエスカレートする。

 相手が話し始めたら、仕事の手を止め身体を相手に向ける。もし、パソコンを使っているのであれば、ただちにキーボードから手を離し画面から視線を外す。そして、相手の目をしっかり見る。目線を合わせながら相手の話を集中して聴く。

 つまり、耳だけで聴くのではなく、聴いていることを身体全体で示すことだ。もちろん、ニヤニヤしたり、スマイルを浮かべたりすることもしてはいけない。真剣な表情で聴くことだ。そうすれば、相手は「しっかり聴いてくれているんだ」と、少しは好意をもってくれる。

 相手の話を聴きながら、適度に相づちを打ち共感していることを示す。たとえば、「そうだったんですか」、「それは大変でしたね」、「ご迷惑をおかけしています」などと。そして、相手の話が一通り終わったところで、話の内容を繰り返して理解を確認する。「つまり、おっしゃりたいのは、…ということですね」。

 相手は、単に「はい、わかりました」と言われるだけでは、本当にわかってもらえたかどうか疑問に思う。このように、話の内容を繰り返すことにより、本当に理解したことを相手に示すことができる。相手の怒りを買う主な原因は、「わかっていない!」ということなのだ。

話の内容を3つの箱に入れる

傾聴する人

 相手の話を聴くときは漠然と聴くのではなく、頭の中に3種類の箱を作って、内容をそれぞれ分類しながら入れていく。3種類の箱とは、「事実」、「意見」、「感情」。

 たとえば、「申請書類を窓口に提出した」とか、「5番の番号札をもらった」とか、「待合いコーナーから離れた」などの話は、「事実」の箱に入れる。また、「長く待たされている」とか、「忙しいのでいつまでも待っている時間がない」とか、「窓口の職員の仕事は遅い」などの話は、「意見」の箱に入れる。さらに、「いつも待たされて頭にくる」とか、「役所はいつもこうだ」とか、「職員の態度はなってない」などの話は、「感情」の箱に入れる。

 このように3種類の箱を用意し、相手の話を分析しながら聴くことだ。そうすれば、どのように対応すればよいか自ずとわかる。

 まず、「感情」の箱の中にあるものに対応する。感情的な相手に対しては、いくら筋の通った話をしても、受け入れてもらえない。好意をもたせる必要はないが、少なくとも中立的な状態にすることが先決だ。

 たとえば、「いつもお待たせして、申し訳ございません。できるだけ迅速に対応できるよう努めますので…」とか、「もし、失礼なことがありましたら、お詫び致します」などと、感情の問題を解決する。

 相手の感情の問題が解消できれば、「事実」の箱の中を見てみよう。もし、不明点があれば質問をする。たとえば、「どれくらい前に番号札をお受け取りになりましたか?」、「何時ごろに待合いコーナーから離れられましたか?」、「いつごろ、待合いコーナーに戻られましたか?」などと。そして、「ひょっとすると、待合いコーナーにいらっしゃらないときにお呼びしたかもしれません」と事実関係を明らかにする。

 ただし、あくまでも、柔らかい表現で伝えることだ。そうでないと、せっかく解決した感情の問題が再燃するかもしれない。言うべきことは言う。しかし、相手と状況に合わせて表現を使い分ける。

 最後に、「意見」の箱の中を見てみよう。「長く待たされた」というのは相手の意見であって、たとえ事実は3分しか待っていなかったとしても、相手は「長い」と思うかもしれない。

 人の意見を否定することはできない。よほどのことがない限り、意見を翻させることは難しい。したがって意見は意見として受け入れる。たとえば、「長くお待たせしたと思います。申し訳ありませんでした」と問題解決を優先することだ。

ことさら丁寧に対応する

明るく対応する職員

 クレーマーではないが、相手をやり込めたいと感情的に言い立てる相手もいる。そんな相手は、いくら感情の問題を解消しようとしても、さらに感情的にぶつかってくる。「それじゃ、話にならん…」、「責任者を出せ…」、「出るところに出よう…」などと、いつまでも矛先を収めようとしない。

 事実関係を明らかにしても、さらに屁理屈をこねてくる。「それは筋が違う」、「そうは言っても…」、「理屈の問題じゃない…」などと言う。あるいは、意見を意見として受け入れても、さらに議論をふっかけてくる。「そもそも住民サービスとは…」、「税金の生きた使い方とは…」、「役所の使命は…」などといった具合だ。さて、このような相手に、どのように対応すればよいだろうか。

 このような相手に対して、感情的に対応しても、論理的に対応しても効き目はない。ましてや、議論で打ち負かそうとしても勝ち目はない。問題を大きくするだけだ。やり込めたいと言い立てる相手には、ことさら誠意をもって丁寧に対応することだ。「おっしゃることは十分にわかりますが…」、「さぞかし嫌な思いをされたと思いますが…」、「今後、このようなことがないように…」など。

 人間は誰しも、怒りを長く持ち続けることはできない。ふと我に返って冷静になる瞬間がある。特に誠意をもって丁寧に対応する人に対しては、自分のとっている言動がばかばかしく思えてくる。時間の経過とともに、紛争、対立、怒り、恨みなどは、自然に低減していくものだ。根気強く対応しよう。

 

著者プロフィール

八幡 紕芦史(やはた ひろし)

経営戦略コンサルタント
アクセス・ビジネス・コンサルティング(株)代表取締役、NPO法人国際プレゼンテーション協会理事長、一般社団法人プレゼンテーション検定協会代表理事。大学卒業とともに社会人教育の為の教育機関を設立。企業・団体における人材育成、大学での教鞭を経て現職。顧問先企業では、変革実現へ、経営者やマネジメント層に支援・指導・助言を行う。日本におけるプレゼンテーションの先駆者。著書に『パーフェクト・プレゼンテーション』『自分の考えをしっかり伝える技術』『脱しくじりプレゼン』ほか多数。

 

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