相手を動かす話し方 第9回 調査結果をわかりやすく報告する

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2019.08.05

相手を動かす話し方
第9回 調査結果をわかりやすく報告する

(月刊『ガバナンス』2008年12月)

 最近、食品の安全性に関する問題が多発している。そこで、田中君の課では、住民の食に対する意識調査を実施した。住民にアンケート用紙を配布したところ、重要かつ身近な問題だけに数多くの回答が寄せられた。

 田中君は集計作業を行い、調査結果を上司に報告することになった。報告の席上、一通りの説明が終わったとき、上司から「その報告じゃ、よくわからん」と、きっぱり言われてしまった。

 さて、田中君は一体どのような報告をしたのか。そして、何が問題だったのだろうか。

 

情報を整理分類して報告する

 どんな仕事であっても単に思いつきで始めるのではなく、事前の調査と分析をしっかりと実施することが大切だ。

 たとえば、何か新しい政策を立案する場合でも、緻密に調査を行わなければ間違った方向に進んでしまう。その結果、取り返しのつかない失敗をしてしまうかもしれない。それに、情報を集めるだけでなく、集めた情報を多面的に分析しなければ、せっかくの調査も活きてこないことになる。

 田中君は、住民アンケートの回答を項目ごとに集計しただけで、そのまま「アンケートの集計結果です」と上司に報告したのかもしれない。あるいは、集めた情報に何の加工も施さず、生データをそのまま示したことも考えられる。それでは、上司が「それじゃ、よくわからん」と、報告書を突っ返しても不思議はないだろう。

 調査結果を上司に報告する前に、収集した情報を整理分類することだ。たとえば、性別、年齢、職業、地域、満足度、不満足度、現状の問題点、解決すべき課題などの項目で情報を分類する。

 そうすれば、「最も食品の安全性に注意を払っている年代は、30歳〜40歳の女性で…」とか、「食品検査に対する問題を感じているのは、全体の55%で…」とか、「食に対する行政の取り組みに不満をもっている職業の順位は、第1位が50歳代の主婦で、第2位が…」などと血の通った報告をすることができる。これらをグラフやチャートなどのビジュアルで示せば、より報告内容を理解してもらえる。

 定量的な情報を報告する場合は、単に数字を羅列して示すのではなく、このように調査の目的に沿った重要な項目を軸として整理分類することだ。

 情報は単に情報として存在するだけでは、何の価値ももたらさないものだ。情報は整理分類してはじめて、意味がわかるようになる。情報の意味を理解して上司へ報告することが、報告者に課せられた役目なのだ。単に調査結果を右から左へと流すだけでは、報告者の存在価値はないのである。

既知の情報と関連性をもたせた報告を

 ひょっとすると、田中君は気を利かせて住民アンケートの回答結果を整理分類した上で、上司に報告したかもしれない。それにもかかわらず、「それじゃ、よくわからん」と上司に言われたのであれば、きっと、「既知の情報と関連性をもたせて報告する」というルールに違反していた可能性がある。

「行政の取り組みに、まあまあ満足している」という回答が全体の6割だったとしよう。その結果を見た上司が、「職員一丸となって頑張っているのに、この数字は間違っているのではないか」と憮然と言った。それに対して、田中君は「調査は正しいやり方で行いましたが、そもそも行政に対する住民の満足とは…」と一所懸命説明した。しかし、上司には納得してもらえない。

 人は、自分がイメージしていた情報と異なった新しい情報や考え方を示された場合、それを理解し受け入れるのは簡単なことではない。このバリアを壊すためには、相手がもっている情報と関連づけながら、新しい情報を提示することを心がけるとよい。

 たとえば、「上空10㎞の地点では…」と言っても、人はそれを具体的にイメージすることはできないだろう。そこで、相手が知っている情報と関連づけて、「富士山の3倍の高さでは…」と伝えた方が理解されやすい。

「住民の満足をバーゲンセールの買い物にたとえますと…」と、相手が既に知っている概念、あるいは、経験した事柄をもち出すとよいだろう。そして、「1万円払って1万円の品物を手に入れるのであれば、それは満足ではなく当たり前の話で…」と、相手の考え方と同期をとるようにする。

 そして、「つまり、現在の行政サービスは、当たり前だと考えている住民が多く、満足度を高めるためには、さらに…」と伝えたい内容を説明する。そうすれば、相手にとって新しい情報や考え方は受け入れやすくなる。

情報を解釈して意見を述べる

 もし、田中君が、事実という情報を単に情報として報告しているのであれば、上司が「よくわからない」と言うのも当然だろう。

 たとえば、「食に対して高い意識をもっている住民は全体の30%です」とか、「行政の取り組みが不十分だと考えている住民が全体の45%です」とか、「安全性に不安を感じている住民が全体の83%です」などと事実のみを報告したにすぎなければ、相手はどのように思うだろうか。きっと、「それで?」と聞き返したくなる。

 そこで、事実という情報を解釈することが重要だ。そして、報告者は自らの意見をもち、それを報告する。ただ、情報は解釈すべしとばかり、情報とにらめっこしていても何も生まれてこない。

 では、どうすれば情報に解釈を加えることができるだろうか。たとえば、他の情報と比較する、情報の背景を推測する、何故かという理由を考える、どうして起こったか原因を調べる、今後どのように変化するか将来を予測するなど、多面的に思考することが必要だ。

 一例を挙げると、「住民全体の30%が食に対する高い意識をもっていますが、これは全国平均から比べると非常に低い数字で…、住民の意識を高めるためには…」とか、「安全性に不安をもっている住民が多いのは、健康意識が高まってきているという背景があり…、この時代の追い風を活かして新しい取り組みを…」とか、「行政に対する不信感が原因で、取り組みが不十分だと考えている住民が…、今後は職員の取り組み姿勢を改革し…」などと、いろいろな視点から考え自らの意見を述べることだ。

 調査結果という事実情報に対しては、それを解釈して意見を述べる。意見を述べるなら、その根拠となる調査結果の事実情報を示す。そうすれば、上司は膝を叩いて「なるほど、よし、わかった」と言うにちがいない。

 

著者プロフィール

八幡 紕芦史(やはた ひろし)

経営戦略コンサルタント
アクセス・ビジネス・コンサルティング(株)代表取締役、NPO法人国際プレゼンテーション協会理事長、一般社団法人プレゼンテーション検定協会代表理事。大学卒業とともに社会人教育の為の教育機関を設立。企業・団体における人材育成、大学での教鞭を経て現職。顧問先企業では、変革実現へ、経営者やマネジメント層に支援・指導・助言を行う。日本におけるプレゼンテーションの先駆者。著書に『パーフェクト・プレゼンテーション』『自分の考えをしっかり伝える技術』『脱しくじりプレゼン』ほか多数。

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