知っておきたい危機管理術/酒井 明

酒井明

部下はいかなる場合に不正を犯すか―「不正のトライアングル理論」から考察する

キャリア

2019.04.11

知っておきたい危機管理術 第21回 部下はいかなる場合に不正を犯すか

『地方財務』2015年8月号

 組織として、個人が起こしうる不正をリスクとして認識し、影響度を評価し、積極的かつ有効な対策を打つことは、大変重要である。特に上司は、部下の不正に対して連帯責任を負わされる場合があり、どのような場合に部下が不正を犯すリスクが高まるかを把握しておかねばならない。

不正行為が発生する3つの条件

 不正行為の原因を分析するための理論の一つに、米国の組織犯罪研究者のドナルド・R・クレシャーが提唱した「不正のトライアングル理論」がある。これは、不正は「動機」「機会」「正当化」の3つの条件がそろってはじめて発生するというもので、逆に一つでも条件が欠けていれば、不正は防ぐことができる。

 「動機」とは、孤立や自己の経済情勢の悪化、自己の能力に応じた地位が保証されていないと感じることなどにより、不正行為へと追い込んでいく事情のことである。

 「機会」とは、不正が見つからず実行できる環境のことであり、組織から見ると、不正を生むことを可能としてしまう、内部統制システムに欠陥があるということができる。

 「正当化」とは、不正を実行しても言い訳が許される、自分の不正行為を自分自身が納得している、不正を行う際に「良心の呵責」を感じないなどである。借りただけで後から補塡するから、この程度なら他に迷惑がかからないから、といった言い訳ができることである。客観的に不正を犯すことを正当化する理由はないが、不正行為者は主観的に不正を犯すには自分を正当化する理由が必要となる。

第一の条件「動機」

 不正行為の第一条件としての「動機」には、借金が増加、急な出資がかさむ、ギャンブルやハイリスクな投資に熱中する、配偶者との離婚、家族の大病等の家族問題を抱えている、仕事の処遇に納得しておらず、上司や組織への不満を抱いている等があげられる。

 ブランド品、高級車、高級レストランで頻繁に飲食をするなど、分不相応な生活が見られたら要チェックである。

 対策として、上司は、部下とコミュニケーションを頻繁にとり、部下が何を考え、何に悩んでいるかの感度を磨いておくことが大事である。場合によっては、私的な相談に乗ることも必要であろう。

第二の条件「機会」

 不正行為の第二の条件としての「機会」を与えてしまう組織上の特徴として、上司は、自分の部下が不正を犯すはずがないと過度の信頼を置いて担当者を放任し監視が甘くなる(内部統制の脆弱性)、業務の承認に関する適切な手順が定められていない、権限規定が不明瞭である、利益相反に関する申告が義務付けられていない、文書や記録の保存やチェックが不十分であるといったことがあげられる。また、不正を犯せる「機会」を作りやすい環境として、業務の専門性が高く担当者以外の職員が内容をわからない、業務に関する権限が特定の職員に集中している、相互チェック機能を含む内部統制の未整備、勤務懈怠管理がずさんで業務上のミスやルール違反が放置されやすいなどがある。

 これへの対策として、勤務体制の適正化と見直し、給料や人事の公正なチェック、人材養成プログラムを含む内部統制の強化、内部告発制度の導入、ダブルチェック体制の導入、防犯カメラの導入等が有効であろう。

第三の条件「正当化」

 不正行為の第三としての「正当化」しやすい状況として、上司やトップに倫理やコンプライアンス(法令遵守)を軽視する言動がある、業務担当者自身にルールを軽視するような言動がある、自分の処遇に対する不満や上司・会社批判が目立つ、責任逃れ他者への責任転嫁の言動が目立つ等があげられる。

 対策として、不正行為はいかなる理由にせよ正当化はできない。この点を上司は十分認識し、部下の日ごろの言動に注意し、部下に職業上の倫理を含め教育し、言い訳を許さない環境をつくることが求められる。

不正の兆候を見逃さない

 上司は、部下とのコミュニケーションにより、観察感度を上げることが重要である。不正を犯す兆候が出てくれば気付くはず。

 自分の資力を超えた分不相応な生活をしている、多額の個人的負債を負っている、給料が自分の責任に見合っていないと不満を言う、過度のギャンブル癖がある、家族・同僚からの過度のプレシャーを受けている、自分の仕事の内容を他人に見られるのを嫌がる、隠ぺい工作のため早期出勤、残業、休日出勤が目立つ、不正発覚を恐れるため昇進や転勤を拒む、同僚との交流を避けるようになるなど。

 これらを見逃さないことが大切だ。

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酒井明

酒井明

東京福祉大学特任教授

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