クレーム対応術

関根健夫

記録を取ることの有効性と注意点|クレーム対応術10【カスハラ対応】

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2025.04.12

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出典書籍:『ガバナンス』2015年1月号

自治体職員のためのトラブルの対処法を学ぶ!カスハラ対応図書特集

今さら聞けないクレーム対応術 10
『住民との会話をメモ、録音しても構わないのでしょうか?』
/月刊ガバナンス 2015年1月号


2025年4月1日、東京都などで「カスタマーハラスメント(カスハラ)防止条例」が施行されました。
これにより、企業や自治体にも適切な対応策の整備が求められています。

本サイトでは、月刊『ガバナンス』で好評を博した連載「クレーム対応駆け込み寺」の内容を引用して掲載。
第10回目の本記事では記録を取ることの有効性と注意点を解説します。

カスハラ・クレーム対応の参考としてチェックしてください!

この記事で分かること

・メモを取ることの三つの意味
・録音、録画の有効性
・録音、録画する際の注意点
・録音、録画する際の声かけの例文

メモは万能ではない

 クレーム対応に限らず、会議や話し合いで、その場の発言をメモすることは、一般的に行われている。メモを取ることは三つの意味がある。

 第一に、記録、備忘である。話し合いの内容を忘れないようにする、また、忘れても後日確認できるようにすることが目的だ。

 第二に、整理である。話し合いながらメモを取ると、その場でのお互いの発言を確認でき、頭の中を整理することができる。

 第三に、証拠である。後でお互いが「言った」「言わない」といったトラブルを防ぐために議事録などとして残す。万が一、相手方が不当要求行為に及べば、その言動をメモし記録することで、第三者にその状況を説明、証明する材料になる。

 メモがあれば、その場の雰囲気としても、また主張の論理性にも優位を保てることがある。しかし、相手方に「そのようなことを言った覚えはない」 「そちらが、勝手に書き加えたのだろう」 「そのようなメモは認めない」などと主張されると、その内容は宙に浮く。メモがあるからといって、それだけでは万能、万全とは言えない。

録音、録画の有効性

 メモよりも有効性が高い手段は、録音、録画である。メモは、書きとる過程で発言の趣旨、解釈の違いが介入する余地がある。その点、録音、録画はそのままの状況を記録できるので証拠性としては価値が高い。クレーマーがメモの有効性を否定してくるような場合でも、録音、録画があれば主張の優位性を確保できる可能性は高い。

 しかし、必要な場面だけを記録してあると、その部分以外で「言ったはずだ」などと、言われる可能性がある。一部だけを録画すると、どの部分が必要だったかには、恣意が介入する余地がある。録音、録画したものを、恣意的に編集することも可能だ。また、録音、録画があっても「そんな状況は知らない」などと、客観的には理不尽と思われる主張をされ、白を切られることも考えられる。したがって、録音、録画も絶対的に有効とは言い難い。

 当人同士の意見の食い違いは、究極的には裁判での決着となる。しかし、当人が認めなくても、こちらには確かにそういう事実があったという証言、確信があり、その時のメモ、録音、録画があれば、世間的には認められるだろうことは想像できる。

メモ、録音、録画はしても構わない

 今回のテーマである、メモ、録音、録画は、基本的に相手の承諾を必要とはしない。こちらが必要と判断したら実行すればよい。社会一般に、防犯カメラが設置されるようになり、また民間企業では、お客さまからの電話を録音することも多い。

 ただし、注意が必要だ。録音することを例に挙げてみよう。相手の承諾を取らず、相手方に通知せずに録音し基本は粘り強さても問題はない。しかし、その事実が相手方に、後に知られることになったら、相当な感情論を覚悟しなければならないだろう。たとえ問題がなくても、勝手に録音されていたことがわかれば、誰でも心情的には怒りを覚えるものだ。したがって、録音は許可を得て、堂々とするのが現実的にはよいだろう。「本日のお話は、重要なことです。後ほど、内容に行き違いがあってはいけませんので、録音させてください」などと、言うことだ。

 場合によっては、相手方から「メモをするな」「録音はダメだ」などと言われることがあるかもしれない。それでもメモや録音をするかどうかは、こちらの判断である。それまでの経緯で、言った、言わないといった議論が何度も繰り返され、相手方が相当に悪質な場合なら、録音を強行することも止むを得ない。

記録を取る場合の注意点

 メモ、録音、録画、これらの記録は、複合してそれらを残すことが重要である。また、複数の職員で対応することも、証言という意味で有効だ。複数の職員のそれぞれのメモに同じ記録があって、真剣な表情で自分の見聞きしたことを証言すれば、現実的なイメージとしてもコミュニケーションは優位性を持つだろう。複数の職員で対応することも、相手方の承諾を必要とはしない。

 一方、記録したものを外部に提供する場合は慎重であるべきだ。また、自分がその場所にいないのに、話し合いの席に勝手に録音装置を取り付けることは盗聴行為であり、許されることではない。さらに、映像でその個人だけを狙って記録すると、肖像権の侵害になる可能性がある。

 昨今の社会を見ると、多くの人がスマートフォンを持っている。その多くの機種には、録音、録画機能があるはずだ。つまり、日常、何処へでも録音装置、録画装置を持ち歩いていることになる。したがって、役所を訪れるお客さまも、承諾なしに職員との会話を録音しているかもしれない。こういった社会が、果たしてよい社会なのか、悪いのかは別として、こちらも記録をきちんと残した方がよいことになるわけだ。また、いつ記録されても問題にならないように、発言に気をつけることも当然の注意点といえるだろう。

 

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関根健夫

関根健夫

人材教育コンサルタント

1955年生まれ。武蔵工業大学(現、東京都市大学)卒業後、民間企業を経て、88年、アイベック・ビジネス教育研究所を設立。現在、同社代表取締役。コミュニケーションをビジネスの基本能力ととらえ、クレーム対応、営業力強化などをテーマに、官公庁、自治体、企業等の研修・講演、コンサルティングで活躍中。著書に、『こんなときどうする 公務員のためのクレーム対応マニュアル』『事例でわかる公務員のためのクレーム対応マニュアル 実践編』(ぎょうせい刊)。

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