知っておきたい危機管理術/木村 栄宏

木村栄宏

クレーム対応とネット社会の怖さ

キャリア

2019.03.18

知っておきたい危機管理術 第28回 クレーム対応が苦しい

『地方財務』2016年10月号

クレームへの不安を持つ女性

普段の生活や仕事上で、何らかのクレームを受けたり、あるいはクレームをつけたりしたことが、必ずあるのではないでしょうか。

教育関係者なら「モンスター・ペアレンツ」と呼ばれる人々に悩まされたり、自分に対してだけサービスが悪いと言われたり等々、商品やサービス等に全く問題がないにもかかわらず、不当な要求をしてくる人は「クレーマー」と呼ばれ、企業等ではその対応に苦慮することが多々生じています。

「クレーマー」という言葉が世間に周知されるようになった契機は、1999年の「東芝クレーマー事件」です。購入したビデオテープレコーダーの不具合に対する対応がたらいまわしにされたあげくに、渉外担当者が暴言を吐いたとして、その経緯や電話対応がweb上で(音声)公開され、商品不買運動にまで発展したものでした。企業が顧客からのクレーム対応にどう対処するか、という危機管理事例として教訓になる一方、誰でもネットを通じて直接社会に発信できる(1億総クレーマー時代)というネット社会の怖さを告げるものでした。

クレームは本来、社会に極めて有用であり、通常の行為です。英語のclaimの訳は、主張や要求、申し立てです。しかし、日本では、苦情や不当要求、いいがかりやいちゃもんをつける行為をさす、という受け止め方が一般的です。以下では、クレーム対応について考えます。

クレーム初期対応のポイント

誠意をもってお詫びする女性

顧客(行政にとっての市民という面も含めます)の声は、当事者が気がつかなかったリスクを顕在化させ、物事や商品・サービス、施策等の改善に結びつく、業務プロセスに問題があればその改善を行う、弱者に対する配慮がなかったことに気づく、組織に潜む構造的な問題が判明し、大きな危機に陥ることを未然に防げるなど、大きなメリットをもたらすものです。一方で、単なる「要望」と「不当要求」は別物です。主観的な感情やわがまま、過度な要望から不当要求になっているのにもかかわらず「お客様は神様」と個別対応しているうちに、大きな損害を受けてしまうこともありえます。

クレームを受ける場合の大事なポイントは、①連絡いただいたことへの感謝、②相手を不快等に招いた場合にはそれに対する謝罪(当方の落ち度が不明なのに謝ると後々不利な交渉になるのですべきでない、という考え方もありますが、日本ではまず頭を下げる文化があります。それを知らなくて対応を誤ったスイスのエレベーター企業の事件を想起される方も多いでしょう)を行った上で、顧客の話を真摯に傾聴し、③事実関係の確認に徹する、④対応内容を記録し共有することです。

顧客は、「事実」と「不満」と怒りやプライドを傷つけられた等の様々な「感情」と「要求」を混ぜて話すことが多いため、冷静に交通整理をする(事実と感情を区分けする)技術が必要です。その後は、因果関係と実際の責任の有無や補償対応の是非など、具体的な組織としての判断のフェーズに入っていきます。

解決に導く「アサーティブ」スキル

クレームへの不安が解消され笑顔になる女性

興奮している相手に対して有効なコミュニケーションスキルに、アサーション(assertion)があります。これは、相手の立場もきちんと尊重しながらも、自分の意見・感情・主張も大切にして、その場にふさわしい言い方で相手に対して自分の意見・感情・主張を伝える技術です。

一般に、「主張」には次の3つの類型があります。
1. 攻撃的な主張‥相手に配慮せず、自分の立場や感情をそのままあらわにして主張すること
2. 非主張的な主張‥自分の意思や感情を後回しにして、他者の主張を第一としてしまうこと
3. アサーティブ‥他者にも配慮しながらも自分の意向を主張すること

③のアサーティブな方法が、自分も他者も傷つかず、関係性も良好に維持できるため、コミュニケーション上、有益です。人に依頼する際に、上から目線で「やってください」と言うか、「大変申し訳ないけど、○○の理由で自分ではお手上げなので、あなたに是非手伝っていただきたいのだけど」と言うかで、依頼される方の受け取り方は相当違ってきます。後者の方がスムーズに会話が進み、たとえ断られても双方にしこりは残りません。言いたいことがあるのに、人間関係への影響を恐れてしっかり主張せず、ストレスがたまっていくことも避けることができる考え方です。

主張だけでなく、相手の言うことをしっかり傾聴(Hearでなくlisten)する「アサーティブ」スキルは、クレーム対応にも、もちろん役立ちます。是非こうしたスキルを活用していきませんか。

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木村栄宏

千葉科学大学危機管理学部教授

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