寺本英仁の地域の“逸材”を探して

寺本英仁

寺本英仁の地域の“逸材”を探して 第17回|栽培から販売まで。一貫した思いが日本の紅茶文化を育てる【紅茶農園・紅茶専門店「アーリーモーニング」(岡山県新見市)】

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2026.08.01

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出典書籍:月刊『ガバナンス』2026年8月号  【WEB限定連載】

◆夢の世界に飛び込む

「日本は紅茶をつくる国にはなれない」

 そんな言葉を投げかけられても、自分の思いを貫き、日本で紅茶文化を育て続ける宮本英治さんを紹介しよう。

 岡山県新見市で紅茶研究家として活動している宮本さんは、1999年に新見市に移住し紅茶専門店を開業。2005年には紅茶農園を開園し、現在では、自家栽培から製茶、商品開発、販売までを一貫して手掛ける、国産紅茶専門店「アーリーモーニング」の代表を務めている。

宮本英治さんの写真
「アーリーモーニング」代表の宮本英治さん。

紅茶畑の写真
高台に位置するお店の眼前には、青々とした紅茶畑が広がる。


 実は、取材前から他人とは思えない親近感を抱いていた。漢字は違えど名前の呼び名が同じで、苗字まで似ているのだ。さらに、新見市に移住する前は僕と同じく、岡山県内の自治体で役場職員をしていたという。宮本さんの場合は幼稚園の教員を目指して役場に入庁したというから、僕とはスタンスが少し違うが、会う前から興味を抱いていた。

 当時、男性が幼稚園教諭になることは非常に難しく、「夢が叶わないなら、次の夢を追いかけよう」と役場を退職し新見市に移住。そうして、人生をかけて「紅茶」の世界に飛び込んだそうだ。

 移住当時は、「紅茶」という世界観に地域の理解が追いつかず、宮本さん自身も相当苦労したという。しかし、宮本さんは諦めることなく、紅茶づくりに没頭した。「紅茶が好き」という理由でその世界に入り、研究家として活躍する人は多くいると思うが、自ら栽培、製茶、商品化までする人はなかなかいないと僕は思う。このこだわりは本当にすごい。

紅茶畑の写真

「アーリーモーニング」で提供される紅茶の写真
栽培から提供まで、すべてを手掛けている。


 8年かけて育てた茶樹から紅茶づくりに着手し、紅茶の主要生産国であるインドやスリランカの製茶機械も導入した。これまで蓄積してきた経験や知識をもとに、茶葉の手触りや香り、発酵時間を何度も繰り返し、試行錯誤を積み重ねながら、自分だけの味を追い求めたそうだ。

 あるとき自身の紅茶を、英国・ロンドンをメインに高級紅茶や食品を取り扱う「東インド会社」に送った。返ってきたのは「日本は紅茶の消費国であり、生産国になることは難しい」という厳しいコメントで、落胆した。

 普通なら心が折れても不思議ではない。しかし宮本さんは、その評価を正面から受け止め、本場の紅茶を徹底的に学び直した

 そして再び届けた紅茶には、「本場の紅茶を理解している」「とてもユニークだ」という高評価が返ってきたそうだ。その勢いで、2016年にはロンドンへの出品が実現し、目利きの紅茶バイヤーたちから「ダージリンよりダージリンらしい」と称賛された。日本の紅茶づくりが世界に認められる大きな一歩となった。

◆信念を貫き、道を行く

 新しい挑戦をするとき、人は、「果たして本当に、自分の進む道は合っているのだろうか」と不安になるものである。そうした中で、宮本さんはまさにファーストペンギン(開拓者)と呼べるだろう。人生は一度限りしかない。何が成功か、基準はそれぞれ個人にあり、均一化するものではない。

 近年、公務員研修をする中で出会う若手職員には、自分の行く先が見えず立ち止まっている人も多い。宮本さんも、世界に認められるまでの道のりでは、先が見なくなったこともきっとあっただろう。しかし、「紅茶が好き」という気持ちと、「少しでもおいしい紅茶を飲んでもらいたい」という信念があったからこそ、今の宮本さんが存在するのだと思う。

 公務員の仕事もそうだ。結果が出るまで時間がかかる仕事は少なくない。住民には見えないところで地道な努力を積み重ね、その先にようやく成果が生まれる。今回聞いたお話を、若手職員の皆さんにもぜひ伝えていきたいと思う。

 誰かと比べる必要はない。自分の信じた道を、一歩ずつ歩み続ければいい。時間がかかっても、その経験は必ず自分だけの力になる。宮本さんはそんなことを、言葉ではなく、生き方そのもので教えてくれた。

 この秋には、「EIJI MIYAMOTO」の紅茶を、ちよだグルメショップ+Aで味わうことができる。ぜひ多くの方に、宮本さんの心こもった紅茶を飲んで、忙しい毎日の中でほんの少し立ち止まり、心安らぐひとときをつくっていただきたい。

 宮本さんの育てた紅茶が、多くの人の日常を少しだけ豊かにしてくれることを願いながら、今回の取材を終えた。

「EIJI MIYAMOTO」の紅茶の写真
四季に育まれた自社農園で、一つひとつ大切に育てられた自慢の紅茶だ。

●紅茶農園・紅茶専門店「アーリーモーニング」
住所:岡山県新見市大佐小阪部2239−8
TEL:0867-98-3939
営業時間:10時~17時(土・日・祝日は18時まで営業)
HP:
「アーリーモーニング」HPへのQRコード

ネットショップ:
「アーリーモーニング」ネットショップへのQRコード

寺本英仁氏の写真

著者プロフィール 寺本英仁(てらもと・えいじ)
㈱Local Governance代表取締役

1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。海と食を旅する地方創生プロデューサーとして活動中。

★この記事は、月刊「ガバナンス」のWeb限定連載です。本誌はこちらからチェック!

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寺本英仁

㈱Local Governance代表取締役/ちよだ地方連携ネットワーク地方連携特命官。1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。

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