寺本英仁の地域の“逸材”を探して

寺本英仁

寺本英仁の地域の“逸材”を探して 第16回|豊富な知識と技術に裏打ちされた 放牧酪農を営む 【高原牧場(北海道天塩町)】

NEW地方自治

2026.07.01

≪ 前の記事 連載一覧へ
時計のアイコン

この記事は3分くらいで読めます。

本のアイコン

出典書籍:月刊『ガバナンス』2026年7月号  【WEB限定連載】

◆天塩川の河口のまち

 今回紹介するのは、北海道天塩町にある高原牧場の高原弘雄さんだ。

天塩町で放牧酪農を営む高原弘雄さん。
天塩町で放牧酪農を営む高原弘雄さん。

 まずは、天塩町の紹介からしていこう。天塩町は北海道北西部の留萌管内最北部、天塩川下流左岸に囲まれるように位置し、人口はすでに3000人を切っている。気候的には寒暖の差が大きく、気温の年較差・日較差が大きい顕著な大陸気候。降雪量が多く、冬季には−20℃を観測されることも珍しくない、寒さが非常に厳しい地域である。

 歴史的には、明治時代に東北や北陸地方から多くの開拓民が入植した地域で、産業としてはシジミ漁やサケ漁を中心とした漁業と酪農が盛んな地域である。

 僕が天塩町とご縁をいただいたのは、3年前に東京都千代田区のアンテナショップ「ちよだグルメショップ+A」開催したマンスリーイベントに申込みいただいたことがきっかけだ。それ以来、+Aでは毎年、天塩町フェアを1か月間開催している(今年は6月に天塩町フェアが開催された)。

 天塩町のシジミの大きさには、宍道湖シジミで有名な島根県出身の僕でさえビックリした。味が濃く、身が締まっていてものすごくおいしい。+Aの常連客も毎年、天塩町のシジミを楽しみに待っていてくれる。

◆実は希少な北海道の放牧酪農

 さて、高原さんの紹介に戻ろう。意外なことに北海道でも、放牧を行っている酪農家は全体の7%しかいないそうだ。北海道には、広大な草原で豊かな牧草を食べ放題に食べている放牧酪農のイメージがあったが、それは僕の妄想にすぎず、現実的には希少なのである。

 高原さんは、実家の牛舎が台風で全壊したことをきっかけに跡を継ぎ、放牧酪農に取り組むようになったそうだ。放牧時には草量計を使って、1頭あたり何㎏の草を食べたか測定する。話を聞く中で、本当にそんなことができるのかと疑問に思ったが、数値化すると追加で与える飼料の量が計算でき、効率的なのだそうだ。

 質の良い牧草を育てるために、牧区の土地改良や灌水、草丈管理にも気を配っていると聞き、なんとなくオートメーション化した自動車づくりを想像した。高原さんから話を掘り下げて聞くうち、やはり自動車業界で仕事をしていたことがわかり、なるほどと納得した。

器具を持つ高原さんの写真
高原さんが持っているのは、「ライジングプレートメーター」と呼ばれる器具。牧草の量や生長量などを測定算出することができる。

 高原牧場の放牧方法は高く評価され、第70回日本酪農研究会では最優秀賞にあたる『黒澤賞』を受賞している。日本酪農の発展に大きく貢献した黒澤酉蔵の名を冠した、酪農経営の実践発表に対する最高位の賞である。また高原さんは、「ニュージーランド・北海道酪農協力プロジェクト」といった場にも参加し、実践や学びの共有を行っている。

 高原牧場の牛乳は、雪印幌延工場で主にバターとして加工されている。高原牧場は、放牧では難しいという経営の健全化を実現できている点が、最大の魅力だと僕は感じた。

 放牧の利点は、ストレスフリーで牛が健康になることだ。日光を浴びることでビタミン剤もいらず、生乳に含まれる共役リノール酸も増えて、飲む人の体にも良い影響を与えてくれる。しかし、牧草の管理や牛の体調管理がしっかりできないと、収益を上げることはできない。難しい技術や豊富な知識・経験が成せる業だ。

牛の写真①

牛の写真②
広大な土地でのびのびと育てられた牛たち。

 話を聞いて、高原さんの日々の探究心が成功に結びついていることを強く感じた。彼のような若手の酪農家が成功したことで、それに憧れ、天塩町で酪農をめざす若者が近い将来現れる予感がする。経営が安定しない畜産業、特に放牧酪農業界で、高原さんは貴重な存在であり、天塩町の財産だと僕は思う。

 日本の若者にとって、高原さんのノウハウが希望になり、受け継がれていくことを期待している。

高原さんの写真
放牧酪農業界に、新たな風が吹いている。

●「高原牧場」
住所:北海道天塩郡天塩町サラキシ305番地3
TEL:01632-2-2312
https://agriport.jp/dairy-livestock/ap-27076/

寺本英仁氏の写真

著者プロフィール 寺本英仁(てらもと・えいじ)
㈱Local Governance代表取締役

1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。海と食を旅する地方創生プロデューサーとして活動中。

★この記事は、月刊「ガバナンス」のWeb限定連載です。本誌はこちらからチェック!

月刊ガバナンス 2026年7月号

月刊 ガバナンス 2026年7月号
特集1:ルーティンワークをアップデートしよう。
特集2:始めてみませんか?グラフィックレコーディング
編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:1,320 円(税込み)
詳細はこちら ≫

 

≪ 前の記事 連載一覧へ

アンケート

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

寺本英仁

寺本英仁

㈱Local Governance代表取締役/ちよだ地方連携ネットワーク地方連携特命官。1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。

閉じる