
寺本英仁の地域の“逸材”を探して
寺本英仁の地域の“逸材”を探して 第15回|集落一丸で守り、つなぐ伝統のほし柿 【畑ほし柿生産組合(松江市)】
NEW地方自治
2026.05.22
この記事は3分くらいで読めます。
出典書籍:月刊『ガバナンス』2026年6月号 【WEB限定連載】
◆奇跡の甘味と食感をもつほし柿
松江市の「畑ほし柿生産組合」から、ほし柿のブランド化について仕事の依頼をもらった。その中でもひときわ元気で明るい女性後継者である、森廣加奈子さんを今回は紹介しよう。
左手前、赤い帽子をかぶっているのが森廣加奈子さんだ。
彼女の生まれた松江市は、島根県の県庁所在地だが、「畑ほし柿生産組合」は松江市の中でも、東出雲町畑地区の山あいに広がる小さな集落に位置し、代々受け継がれてきたほし柿づくりを、17戸の生産者が組合を形成して守ってきている。その歴史は、なんと450年にもわたって受け継がれているのだから、驚きを隠せない。
森廣さんはその農家のうちの一軒で、12代目になるそうだ。これまでは別の仕事をされていたが、2022年に家業であるほし柿づくりに本格的に参加するようになったという。
依頼を受けてまず、試食用にとほし柿をいただいたのだが、その時点ではバタバタしていて食べることができなかった。仕事が一段落し、ホテルに帰ったところでちょうど小腹も空いていたので、いただいたほし柿のことを思い出し、食べてみた。口にしたその瞬間、コクと旨味が凝縮した奥深い上品な甘味に感動した。その衝撃は、今でも忘れることはできない。
試食用のほかにもう一つ、松江市内でイタリアンレストランを経営しているシェフに、デザート開発を依頼するため余分に貰っていたのだが、ついつい魔が差してしまい、あの忘れられない甘味に誘惑されて、シェフにわたす分も食べてしまった。
翌日はさすがに、森廣さんに「シェフにわたす分まで食べてしまった」とはなかなか切り出すことができなかった。東京の有名店では一個あたり約800円で売られていると聞き、「僕は昨晩、ほんの数分で“1600円分のほし柿”を口にしてしまったのか」と思うと、心の中で罪悪感が広がった。そしてついに、あまりのおいしさにシェフにわたす分も食べてしまったことを、正直に告白した。
「嫌な顔をされるかも……」と不安に思っていたが、僕の予想を裏切り、とても嬉しそうだったのが印象深い。僕が余分に食べたことよりも、おいしさのあまり、預かった分まで食べてしまったことが嬉しかったのかなと思った。
贈答用の黒箱入りほし柿には、いっそう洗練された高級感がある。
この借りは、必ず仕事で返さないといけないと思い、僕はますます、畑地区のほし柿のさらなるブランド化に燃えている。確かに今まで、これほど高価な柿と出会ったことはなかったが、彼女たち生産者は、良質な西条柿をつくるために除草剤は一切使わず、農薬や化学肥料の使用を大幅に減らして安全安心なほし柿づくりを心掛けている。収穫された柿から一つずつ手作業で皮を剝ぎ、専用の紐につるし、江戸時代から使われている『柿小屋』と呼ばれる専用の小屋で、寒風と自然の力でゆっくり時間をかけてほし柿へと仕上げていくのだ。決して大量生産できない手仕事による積み重ねから、奇跡の甘味と食感が生まれてくるのだと想像できた。
『柿小屋』でじっくりと天日干しされる柿が美しい。
◆伝統をつなぐために
11月には、各家庭につるされたほし柿をみることができる。この風景は圧巻で、土地が経てきた長い年月や文化、生産者の想いまですべてが詰まったほし柿なのだと考えると、決して800円は高くないし、未来にも残さなければならない「A級グルメ」だと僕は思っている。きっと森廣さんたちもそう思っているに違いない。
今、東京都千代田区にある「ちよだグルメショップ+A」で試験的に販売をしているが、そのこだわりは千代田区の消費者にも伝わり、さっそく高評価をもらっている。まさに、幸先の良いスタート切ることができた。
森廣さんは、この地区の中では若手の層にあたり、「この伝統をつないでいかなければ」という責任も背負っているのだろうと僕は感じた。僕の話も真剣に聞いて、アドバイスしたことは積極的に実践をしてくれる。そんな彼女のためにも、この伝統の食材を一緒に守っていきたいと思った。
そして、必ずシェフにほし柿をわたして、松江を代表するイタリアンのデザートにすることが、僕の目標である。

町内の小学校たちに、ほし柿づくりについて話す森廣さん。こうして伝統がつながれていく。
●「畑ほし柿生産組合」
住所:松江市東出雲町上意東畑816
TEL:0852-52-5824
公式HP:
公式Instagram:
著者プロフィール
寺本英仁(てらもと・えいじ)
㈱Local Governance代表取締役
1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。海と食を旅する地方創生プロデューサーとして活動中。
★この記事は、月刊「ガバナンス」のWeb限定連載です。本誌はこちらからチェック!

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