
新・地方自治のミライ
オンラインギャンブルと自治体のミライ|新・地方自治のミライ 第112回
NEW地方自治
2026.05.19
出典書籍:『月刊ガバナンス』2022年7月号
「新・地方自治のミライ」は「月刊 ガバナンス」で過去に掲載された連載です。
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本記事は、月刊『ガバナンス』2022年7月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
はじめに
本欄前号(2022年6月号)で触れた山口県阿武町の給付金誤送金問題は、その後、国税徴収制度などの活用によって、相当の金額が回収できたという。当初、誤入金を受けた住民は、自身の銀行口座からオンライン決済代行業者を通じて、海外オンラインカジノで費消したと述べていた。つまり、現金が残っていないので回収困難と想定されていた。しかし、オンライン決済代行業者から町に自発的に連絡があり、銀行口座に現金が存在して、回収が進んだのである。
債権回収問題自体も極めて重要な課題であるが、オンラインギャンブルが横行している実態も、期せずして明らかになった。今回はこの問題を採り上げてみたい(注1)。
注1 なお、本論執筆に際しては、田中紀子氏、鳥畑与一・静岡大学教授、幸田雅治・神奈川大学教授より、貴重な指導を賜った。ここに謝すとともに、残る間違いは全て筆者の責任である。

自治体とギャンブル
戦後日本の自治体は、ギャンブルと密接な関係を持ってきた(注2)。賭博自体は違法なのであるが、一定の条件によって違法性を阻却できる。具体的には、①目的の公益性(収益の使途を公益性のあるものに限ることも含む)、②運営主体の性格(官又はそれに準じる団体に限るなど)、③収益の扱い(業務委託を受けた民間団体が不当に利潤を得ないようにするなど)、④射幸性の程度、⑤運営主体の廉潔性(前科者の排除等)、⑥運営主体への公的監督、⑦運営主体の財政的健全性、⑧副次的弊害(青少年への不当な影響等)の防止などが考慮事項である。こうした条件を満たした法令根拠があれば、ギャンブルは合法化される。
注2 三好円『バクチと自治体』集英社新書、2009年。
その典型が、宝くじと公営競技である。宝くじの収益金の約3分の1は発行元である都道府県・指定都市に納められ、高齢化少子化対策、防災対策、公園整備、教育・社会福祉施設の建設改修などに活用されている。いわゆる公営ギャンブルである公営競技も、収益がある場合には開催自治体などの財政に寄与する。また、統合型リゾート(IR)という民営カジノ必置観光施設開発も解禁された。このように、オンライン化以前から、自治体とギャンブル(依存症)は密接である(注3)。
注3 なお、パチンコもギャンブル依存症の大きな原因となっている。

オンライン公営競技
(公社)ギャンブル依存症問題を考える会(注4)によれば、オンラインギャンブルは、①公営競技②FX・仮想通貨・バイナリーオプション等投資や投機③オンラインカジノである。阿武町事件で注目されたのが③である。②は「ギャンブル」ではなく、投資という経済活動という理解もあろうが、変動する期待予測確率に基づき、金銭目当てに金銭を支出する点ではギャンブルといえる。また、正規の経済取引であることは、依存症の原因とならないことを意味しない。自治体に深く関係するのは、①である。
注4 (公社)ギャンブル依存症問題を考える会(以下、考える会)提供資料「急造するオンラインギャンブル」。
https://scga.jp/
新型コロナ対策は、全体として「巣籠もり」を推奨している。公営競技も第1次緊急事態宣言(2020年4月~5月)では打撃を受けたが、その後は急速に回復し、コロナ前よりも好調である。これはオンライン化による。オンライン比率は、コロナ前から着実に上昇していたが、コロナの「巣籠もり」需要の2020年において飛躍的に上昇した。地方競馬で9割、オートレースで8割、競輪で7割がインターネット経由である(注5)。そのため、考える会への依存症相談も、パチンコでは減少しているが、競艇・競輪では増大している。
注5 第9回ギャンブル等依存症対策推進関係者会議(2022年2月3日)資料1-1、2葉。
リアル型VSバーチャル型
依存症対策の責任を負う立場としてではなく、公営競技の主催者である自治体としては、購入増大が望ましい。そのために購入の手間暇やコストを減らす。現場=リアル型公営競技の場合には、現金を握りしめ、競技場に時間を掛けて向かい、1日のレースを堪能する。1場で1日にできるレースは限られる。時間と空間と手持ち現金という目に見えるコストを掛け、一定の制約となり、売上・収益に限界が生じ、それゆえに、依存症も多少は抑えられる。
それゆえ、公益競技では購入コストを下げてきた(注6)。その典型がオンライン化によるバーチャル型公営競技である。公営競技主催者である自治体は、アプリ提供事業者や民間提携銀行とともに、オンライン化を強力に進めている。例えば、オッズパーク公式サイトによれば、登録無料・提携銀行多数、購入・払い戻しネット完結、競輪・競馬・オートレース全て可能(24時間対応)、電子マネーに交換可能なポイント還元など無料機能・キャンペーン、が「選ばれる理由」という。スマホ画面で、銀行にも行かずに即時登録し、全国各地各種で断続的に行われている公営競技で購入し続けられる。いわば、自宅や自分自身が常時バーチャル場内化する。
注6 場外車馬券場、電話、インターネットでの購入などである。
オンライン公営競技であっても、銀行口座と連動する場合には、事前の預金が必要であり、それが限界を課す。しかし、後払い(チャージ)が可能であれば、先にカネを借りて、当たることを夢見て、ギャンブルに向かえる。例えば、ウィンチケット公式サイトによれば、メルペイからチャージできるという。公式サイトの説明ではわかりにくいが、ある解説サイトによれば、「『メルペイ』や『ペイディ』の後払い系カードはギャンブルに利用可能か!?」と題して、ウィンチケットとDMM競輪で使用できるとしている(注7)。
注7 即日現金調達ガイド。https://allmoney-king.net/。ちなみに、同サイトによれば、後払い系カードは、実は凄くギャンブル特にオンラインカジノ・インターネットカジノの利用に非常に適しているという。
リアル型公営競技の場合にも、ノミ屋は集客のために、特典付与(高い払戻率・ハズレ券キャッシュバックなど)やタネ銭の建替(後払い)をしてきた。上記オンライン公営競技では、こうしたノミ屋の行為と同種のことが行われている。ただ、ノミ行為が主催者から敵視されてきたのは、合法ギャンブルの売上が減少しかねないからである。無料のオンライン公営競技サイトが、正規の車馬券の購入拡大に寄与し、各種特典を付与してもなお利益を上げているならば、公営競技の主催者側からは敵視されず、むしろウィンウィン関係になる。従って、「生娘シャブ漬け戦略」(某チェーン店)ならぬ「若者オンラインギャンブル漬け戦略」(注8)に、公営競技主催の自治体は加担しかねない構造がある(注9)。
注8 朝香 湧「「生娘シャブ漬け」謝罪した吉野家 実は女性活躍、訴える機会逃す」日経ビジネス デジタル版、2022年12月15日付。考える会「5月14日~20日は「ギャンブル等依存症問題啓発週間」ギャンブル等依存症問題による中退率はおよそ3割!広がるオンラインギャンブルのリスク」2022年5月8日。同会によれば、オンラインギャンブル依存症の相談は、20~30歳代が多い、という。
注9 弁護士ドットコム、2022年6月10日17時14分配信。「100円から始めた賭金が60万円に」オンラインカジノ規制、依存症当事者や支援者が要望。
おわりに
日本はパチンコ・パチスロ大国であり、すでにギャンブル依存症が根深い。健全な技術革新や成長産業のない「新しい資本主義」では、ギャンブル的に人々から金を巻き上げるしか、株主資本主義的な経営は見込めない惨状にある。この惨状から、人々(若者など)は、地道に仕事をしても生活の見込みが立たないので、一攫千金を夢見て、ギャンブル依存症にはまり得る。自治体もこの構造のなかにある。
現在、IR(カジノ特区)が進められているが、すでに施設型カジノはアメリカでは斜陽であり、オンラインカジノに移行中である。それゆえに、施設型IRは、オンライン化の拠点に転進せざるを得ないだろう。雇用も観光も生み出さない。大阪などには、雇用・観光に寄与しない廃墟の施設とオンラインカジノ拠点だけが残ることになろう。
「新しい資本主義」では、「投資」と称するギャンブルや(注10)、スポート・ベットが目指される(注11)。例えば、経済産業省地域×スポーツクラブ産業研究会第1次提言(2021年6月)では、「「スポーツ機会保障」を支える、資金循環の創出」として、toto(サッカーくじ)の収益拡大やヨーロッパのスポーツ・ベットDXの紹介がなされている。健全なプロスポーツ産業の発展は見込めないので、ギャンブル化を進めるしかない。かつてプロ野球や大相撲の賭博が厳しく制裁された「古い資本主義」とは、隔世の感がある(注12)。「新しい資本主義」は、人々の人生を喰いながら、次第にミイラ化する。自治体もそのなかでミイラ化し、また、ミイラ化を加速しかねない状況にいる。
注10 「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」(2022年6月7日閣議決定)。
注11 読売新聞オンライン、2022年6月7日5時00分配信。【独自】スポーツ賭博の解禁案、経産省が議論へ…八百長や依存症懸念で猛反発は必至。
注12 読売新聞オンライン、2022年6月9日5時00分配信。[検証 スポーツ賭博]<2>際限ない刺激、依存招く。
著者プロフィール
東京大学大学院法学政治学研究科/法学部・公共政策大学院教授
金井 利之 かない・としゆき
1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学助教授、東京大学助教授などを経て、2006年から同教授。94年から2年間オランダ国立ライデン大学社会科学部客員研究員。
主な著書に『自治制度』(東京大学出版会、07年)、『分権改革の動態』(東京大学出版会、08年、共編著)、『実践自治体行政学』(第一法規、10年)、『原発と自治体』(岩波書店、12年)、『政策変容と制度設計』(ミネルヴァ、12年、共編著)、『地方創生の正体──なぜ地域政策は失敗するのか』(ちくま新書、15年、共著)、『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社、16年、編著)、『行政学講義』(ちくま新書、18年)、『縮減社会の合意形成』(第一法規、18年、編著)、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、19年)、『行政学概説』(放送大学教育振興会、20年)、『ホーンブック地方自治〔新版〕』(北樹出版、20年、共著)、『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、21年)、『原発事故被災自治体の再生と苦悩』(第一法規、21年、共編著)、『行政学講説』(放送大学教育振興会、24年)、『自治体と総合性』(公人の友社、24年、編著)。
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