
新・地方自治のミライ
外国人自治体参政権のミライ|新・地方自治のミライ 第107回
NEW地方自治
2026.01.13
出典書籍:『月刊ガバナンス』2022年2月号
「新・地方自治のミライ」は「月刊 ガバナンス」で過去に掲載された連載です。
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本記事は、月刊『ガバナンス』2022年2月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
はじめに
いわゆる外国人自治体選挙権は、実現していない。もっとも、外国人住民が政治的な意見表明をすることは可能である。例えば、外国人が顧問や審議会などのメンバーになることはある。また、いわゆる諮問型住民投票制度では、外国人に投票権を設定する自治体もある。
昨今、東京都武蔵野市長が提案した市民投票条例案において、外国人投票権の設定の仕方が大きな論点となり、2021年12月21日に市議会で否決された事案があった(注1)。今回は、外国人自治体参政権の問題を考えてみよう。
注1 産経新聞デジタル版、2021年12月21日21時21分配信。

自治体の民主主義
自治体の民主主義では、住民が自治体の意思決定の正統性の源泉となる。住民が自ら意思決定をすることが、正統性を確保するだろう。住民総会による直接民主主義である。しかし、現実の制度では代表民主主義が採られる。住民が選挙で代表を選出し、その代表の決定をもって、自治体の正統性ある意思決定とする。
もっとも、住民の意向から乖離して、代表が意思決定をする可能性もある。そのため、住民が現実的に代表を統制できなければ、代表が住民の名を騙って意思決定したままの状態が放置され、代表が住民から正統性を簒奪することになる。
民主的統制の具体的手段の典型が、首長や議員の直接選挙である。これ以外にも、解職請求・投票や直接請求がある。もっとも、これらの制度には重要な乖離が内在している。なぜならば、選挙権等を持っている人間(有権者)は、実は、住民基本台帳制度によって定義される住民とは、一致していないからである。その典型は、未成年者である。また、外国人住民もそうである。さらには、連続して3か月以上の期間が経過していない住民もある(注2)。つまり、未成年住民、外国人住民、新参住民は、制度的に代表を統制する手段を持たない。
注2 このほかに、一定の犯罪を犯すことで一定期間の選挙権等(公民権)が停止される。
行政職員・政治家・有権者の責任
「住民の名のもと」に意思決定をする為政者を、民主的に統制する制度的または実際的な手段を、住民の全ては必ずしも持たない。
この問題が、首長・議員と有権者の間で発生し、また、有権者と全住民の間で発生する。有権者は首長・議員を選挙で完全に民主的統制をすることは実際的にはできない。それゆえに、住民による政治家への統制には限界がある。つまり、統制が及ばない範囲でも自らを律すべく、首長・議員の政治責任が発生する。但し、政治責任は、しばしば精神論で留まる可能性もあるので、解職投票やその他の統制手段が必要になる。
同じように、有権者は、有権者ではない住民も含めて、全住民の意向を反映する政治責任がある。これも精神論である。しかも、有権者ではない住民は、有権者を民主的に統制する手段を制度的に持たない。

有権者と住民の乖離の是正方法
有権者と住民が乖離することを正面から是認することは、民主主義の観点からは、かなり難しい。なぜならば、ひとたび乖離を是認すれば、有権者の範囲を際限なく制限できてしまうからである。最終的には、一党独裁制でも、首長専制(一強体制)でも、「民主主義」的であると僭称できる(香港・中国化)。
そこまで少数化しなくても、制限選挙制とか、男子普通選挙制とか、有権者と住民が乖離することは、歴史的には珍しいことではない。「全ての住民のために」意思決定していると自称しようと、正統性について疑いが生じる。つまり、経済力がある者に偏った意思決定ではないか、男性に偏った意思決定ではないか、という疑いである。
従って、有権者と住民が大きく乖離することは、民主主義のもとでは正統性を持つことは難しい。それゆえに、結局、乖離があるとしても、できるだけ乖離をなくす、という運動を続けざるを得ない。
経済力による制限選挙制や、女性参政権を認めない制度が、撤廃されてきたことは歴史の示すとおりである(注3)。有権者を年齢によって限定する仕組も、その限定を緩和する方向でしか解決ができない。
注3 人種・民族による参政権(公民権)についても同様である。アメリカの公民権運動などである。
もっとも、有権者年齢を何歳まで引き下げられるかという問題は依然として存在する。0歳まで引き下げることは現実的ではないと考えられるので、乖離の問題は消えない。子どもの参政権は、難しい問題である(注4)。かといって、子どもに選挙権等を与えないことを、正面から正当化するのは難しい。何らかの理由を付けて選挙権等を制限できるのであれば、大人についてもいくらでも排除することが可能なのである。
注4 子どもの権利条約の4原則のうちの1つが「意思表明・参加」である。
外国人住民に関しても、結局のところ、排除を正当化することは困難である。従って、できるだけ乖離をなくす運動を続けざるを得ない。もちろん、外国人有権者の範囲を拡大するとしても、その範囲の線引きが難しいし、ある線引きをすれば、それに伴う乖離の不当性は残り続ける。
住民参加による補完
有権者は住民の範囲と一致するべきであり、また、乖離を縮小するように運動すべきである。しかし、当面(または原理的に永遠に)乖離が残る場合には、その乖離を補償する別途の補完方策が必要になる。それだけではなく、そもそも制度的に有権者であるとしても、代表に対する充分な民主的統制ができるとは限らない。なぜならば、個々人は有権者全体のなかでは、ほとんど無視しうる一票の重みしか持たないからである。従って、選挙権等だけに期待することはできない。
そのために開発されてきたのが、様々な形での住民参加の仕組である。団体を通じた陳情・圧力も重要である。住民参加の会議体では、団体代表の委員が構成員となることが普通である。しかし、利益集団を形成することが困難な住民にとって、個人で参加できるような仕組が重要である。近年では、公募住民が住民参加の会議体に含まれることも増えた。苦情、首長への手紙、パブリックコメント、住民監査請求、ネット・SNS投稿など、個人でできる参加も重要となっている。こうした個人参加においては、有権者である必要は全くない。但し、住民参加による補完が、選挙の必要性を減じるわけではない。
いわゆる諮問型住民投票も、一見すると選挙類似の秘密投票の方式を採っているが、実態は、単なる匿名意見表明である。それは、サンプル調査に基づく世論(住民意向)調査ではなく、投票形態を採用した全数(悉皆)匿名調査の住民意向調査である。諮問型住民投票に外国人住民を含めるのは、こうした住民意向調査の一つの方策の延長である。

おわりに
そもそも住民の範囲とは何かという線引きも、簡単な問題ではない。そして、そのことは逆行する乖離の解消方法も可能とする。住民の定義を、有権者の範囲にまで縮小してしまえば、住民と有権者の乖離を「解消」できてしまう。「子どもは住民ではない」と定義してしまえばよい。「女性は住民ではない」と強弁すれば、女性選挙権を否定しても、有権者と住民の範囲は乖離しない、という反理想郷(ディストピア)が生まれる。
同様に、住民とは日本人に限るという逆行の発想がある。そして、これは戦後日本で一貫して底流に存在する傾向である。「外国人は住民ではない」という黙認である。
この発想は、第1に、いくらでも住民の範囲を狭めることも可能にする。ミイラを排除しているつもりが、自らがミイラとして排除される危険を導く。また、第2に、住民たる存在は、あくまで日本人の一部に過ぎないことを強く打ち出すことになり、自治体の意思決定は日本人全体の意思決定に服従する危険を招く。外国人を排除しているつもりが、自らが外部の多数日本人に疎外され、周辺化されてしまう。それゆえに、地域で住んで生活するすべての人間を住民として、外国人も含めて有権者を拡大し、または、選挙権等を補う方策を探る、という永遠の課題を続けるしかない。
著者プロフィール
東京大学大学院法学政治学研究科/法学部・公共政策大学院教授
金井 利之 かない・としゆき
1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学助教授、東京大学助教授などを経て、2006年から同教授。94年から2年間オランダ国立ライデン大学社会科学部客員研究員。
主な著書に『自治制度』(東京大学出版会、07年)、『分権改革の動態』(東京大学出版会、08年、共編著)、『実践自治体行政学』(第一法規、10年)、『原発と自治体』(岩波書店、12年)、『政策変容と制度設計』(ミネルヴァ、12年、共編著)、『地方創生の正体──なぜ地域政策は失敗するのか』(ちくま新書、15年、共著)、『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社、16年、編著)、『行政学講義』(ちくま新書、18年)、『縮減社会の合意形成』(第一法規、18年、編著)、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、19年)、『行政学概説』(放送大学教育振興会、20年)、『ホーンブック地方自治〔新版〕』(北樹出版、20年、共著)、『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、21年)、『原発事故被災自治体の再生と苦悩』(第一法規、21年、共編著)、『行政学講説』(放送大学教育振興会、24年)、『自治体と総合性』(公人の友社、24年、編著)。
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