自治体債券運用のイマ

月刊「地方財務」

【自治体債券運用のイマ 第7回】県民の幸福とまちの未来を創るグリーン/ブルーボンドの発行|岩手県庁

NEW地方自治

2025.12.26

『地方財務』2025年1月号

【特別企画】自治体債券運用のイマ 第7回

県民の幸福とまちの未来を創る グリーン/ブルーボンドの発行|岩手県庁

 ふるさとをつくる財源を――。東日本大震災からの復興が進む岩手県では、県民一人一人の幸福を実現する社会づくりを目指し様々な事業を展開している。山海の豊かな自然をもち、自動車や半導体などの製造業が盛んな岩手県だが、気候変動による災害や水産業への影響は喫緊の対応課題だ。こうした課題解決と未来志向の事業展開のため、同県では自治体で初めてグリーン/ブルーボンドを発行し、得られた資金により県内各地の環境整備や産業振興のための事業に取り組んでいる。今回は、岩手県が取り組むグリーン/ブルーボンドによる債券発行の実際と県民の幸福度を高める施策について聞いた。

岩手県

 人口約115万3,900人(令和7年1月1日時点)。東北地方北部に位置し、県庁所在地は盛岡市。面積は全国2位で、三陸地域の美しいリアス式海岸や、岩手山・栗駒山をはじめとした秀麗な山々などの自然景観が魅力だ。新鮮な海産物や山の恵みにも恵まれ、郷土料理や地酒も豊富。南部鉄器などの伝統工芸や「盛岡さんさ踊り」といった祭り文化も色濃く残る。令和6年度一般会計決算は約8,252億円、令和7年度一般会計当初予算は約7,329億円。

岩手県庁の写真
1965年竣工。地上12階、屋上棟3階。

自治体初のグリーン/ブルーボンド発行

 岩手県は、2023年から岩手県グリーン/ブルーボンドの発行を開始した。グリーン/ブルーボンドとは、地球温暖化対策などの「グリーンプロジェクト」と海洋資源や生態系の保護などの「ブループロジェクト」に使途を特化した債券で、自治体としては初めての発行だ。2023年12月27日には、(一社)環境金融研究機構が主催する第9回サステナブルファイナンス大賞において「地域金融賞」を受賞、2024年2月19日には、環境省が主催する第5回ESGファイナンス・アワード・ジャパンの金融部門(資金調達者部門)においても全国の自治体で2例目となる環境大臣賞(銀賞)を受賞した。

 このことは、マスコミ報道、他の自治体からの視察、国際シンポジウムへの招聘、議会での評価など大きな注目を集めた。2025年も、7月25日に5年満期(一括償還方式)、利率1.149%で50億円を発行している。

多くの県内投資家を獲得

 岩手県がグリーン/ブルーボンドを発行する経緯には、震災復興のほか、近年顕著となっている気候変動やそれに伴う災害等の増加がある。もともと大雨被害の少なかった同県だが、近年では豪雨による河川の氾濫、台風上陸など改修が間に合わないほど度重なる風水害のほか、海水温度上昇によるサケ、サンマ、スルメイカなどの漁獲量激減の一方で、イワシ、ブリなどの新たな漁獲に対応した水産加工施設の整備など、気候変動に起因する課題が様々に立ち現れてきているのだ。こうした課題の解決も県がグリーン/ブルーボンドを発行する一因となっている。2023年7月、初めてのグリーン/ブルーボンドが発行されると、100件超の投資表明があり、そのうち県内投資家が9割と、県内のSDGsの機運醸成に資する起債となった。翌年以降も、市町村を中心に県内投資家から多くの投資を集め、現在までに県内33の市町村のうち28市町村が本債券の投資家となっている。

 「グリーン/ブルーボンドは県内各地の建設事業などの財源になるもの。『ふるさとをつくる』ための債券であることを強く訴えています」というのは、財政課の田山健太郎調査担当課長。債券の募集に関しては、市町村や団体向けに説明会を開いたり、各団体に訪問したり等のダイレクトセールスにより募集活動を展開。また、“海の日”があり、ブルーがイメージされる7月に発行しているのもイメージ戦略として成功しているようだ。このように、切実な環境対策などから始まった岩手県のグリーン/ブルーボンドの発行は、その使途の明確さや確かさとともに、対面営業も奏功し、年々調達力を高めている。

岩手県財政課調査担当課長・田山健太郎さん。
岩手県財政課調査担当課長・田山健太郎さん。

ふるさとに還元する充当事業

 前述したとおり、調達した資金は、「グリーンプロジェクト」と「ブループロジェクト」に特化して活用されている。例えば、2024年度では、「グリーンプロジェクト」は、再生可能エネルギーに関する事業で太陽光発電関連設備の導入に、エネルギー効率に関する事業で信号機のLED化などに充当。「ブループロジェクト」は、生物自然資源などに係る環境維持型管理に関する事業で藻場整備や高度衛生管理に対応した漁港施設の整備などに、気候変動への対応などの事業で防波堤や護岸等の整備などに充当するといった具合だ(表参照)。

 大和証券㈱デット・キャピタルマーケット第二部で公共債を担当する畑知弘課長代理は、「岩手県は地元を大切にされており、結果として県内投資家からの支持にも繋っていると考えています。また、グリーン/ブルーボンドを全国に先駆けて発行したことや、関係人口の拡大等が狙いの『わんこ債』(県発行の個人向け地方債)発行など、先進的な取組をされている点が特色です」と評価する。グリーン/ブルーボンドの発行と事業展開は、県内投資家に金利が還元され、獲得資金が県事業の財源となって県内に再投資され、さらに事業完成後の便益が地元に還元されるという好循環をつくっているのだ。

表 令和6年度 資金の充当事業 表 令和6年度資金の充当事業
「岩手県グリーン/ブルーボンド(令和6年度発行)インパクトレポートブック(確報版)」より作成

震災復興と県民の幸福実現を目指す

 こうした取組の背景には、東日本大震災からの復旧・復興とともに、2019年に策定した「いわて県民計画」がある。同計画は、震災の経験に基づいて「幸福を実感できる地域社会の実現」を目指し、2028年度までの10か年計画として策定されたもの。「誰一人取り残さない」というSDGsの考えにも通じた「県民一人一人の幸福」にこだわったプランという。このプランに基づき編成した令和7年度当初予算においては、水産業の再生など復興の推進とともに、次の4つの重点事項を設定している。①「自然減・社会減対策」では子育て支援として第二子以降の保育料無償化や関係人口づくりなど、②「GXの推進」ではカーボンニュートラルの取組として県有施設のLED照明の導入やEV車の導入など、③「DXの推進」では、庁内のDXを推進しつつ県内市町村や事業者への支援としてDX化に対しての補助など、そして④「安全・安心な地域づくり」では災害への備えや新たな感染症にも耐えられる仕組みづくりや、最近では熊被害の防止などに取り組んでいる。

 こうした、県民の幸福づくりを大きな基本理念として環境問題など今日的な課題解決を目指していく中に、グリーン/ブルーボンドの存在がある。

大和証券(株)公共法人部担当部長・大江義晴さん。
大和証券(株)公共法人部担当部長・大江義晴さん。

新たに債券運用にも着手

 岩手県では、歳入確保のため2022年に資金運用方針を改め、債券運用に着手した。それまでは運用額がほぼゼロであったが、2027年までに300億円の運用を目指す計画を策定。各年度の運用をシミュレーションし、ラダーを組みながら歳入“増産”計画を練り上げ、これまで各年の目標を達成、令和6年度末で約200億円が運用されている。有力な購入先は、東日本高速道路㈱などが発行する高速道路債だ。

 「資金運用方針では、安全性、流動性、収益性を重視し、特に安全性には注意しています」と田山担当課長はいう。高速道路債は、多くの団体が購入していることや、公共債の中ではスプレッド(ベース金利に上乗せされる金利)が高くリスクが少ないこと、発行額が多く購入しやすいことなどから、優先的に購入しているという。また県では、SDGsの理念と県民計画の考え方が相通じるものがあると考え、SDGs債を積極的に購入。高速道路会社発行のSDGs債についても最優先で購入を検討しており、「SDGs債の購入は持続可能な社会をつくる取組を岩手県から広げていきたいという思いも込められています」(田山担当課長)という。

 岩手県の債券運用について大和証券公共法人部の大江義晴担当部長に聞くと、「持続可能な財政基盤を構築していく中で、資金運用によって安定的な収益を上げていくことは重要。安全性を前提に、多角的な観点から検討を重ねて銘柄選定を行っている点は、他の自治体にも参考になると思います」との答えが返ってきた。

大和証券(株)デット・キャピタルマーケット第二部公共債二課長代理・畑知弘さん。
大和証券(株)デット・キャピタルマーケット第二部公共債二課長代理・畑知弘さん。

債券の発行・運用を支える証券会社のサポート

 債券発行を担当する財政課では、証券会社との連携が不可欠という。「金利や市場の動向を見極めながら、発行のタイミングや発行額などを決めていくのですが、専門的な領域でもあり、証券会社からのサポートは欠かせません」というのは田山担当課長。「人事異動もある中で間違いなく業務を進めていくために、随時、様々な情報や判断材料を提供いただいています」とのこと。

 大和証券の畑課長代理は、「最終判断は発行体になるので、我々は発行に関してのメリット・デメリットの両方をご提示し、県側の事情も踏まえてアドバイスをしていきます。そのため、最適な判断材料をご提供できるよう心がけています」という。

 こうしたサポートを受けながら債券発行に取り組んでいる財政課には、裁量も大きい。専門性が高いだけに、担当者が発案し課内で承認されると、そのまま決定することも多いという。岩手県債の発行額は年1000億円を超えるとのことだが、その調達計画を担っているのが財政課の菅原将樹主任だ。「発行のタイミングや規模を決める際は、金利の動きなどについて、証券会社からの助言を参考にしながら、慎重に検討しています。金利が高い時期に県債を発行してしまうと、利払い費の増につながってしまうので、常にプレッシャーはあります」という。一方で、「多額の調達を任せていただけるのは大変貴重な経験であり、ここでしかできない仕事なので、やりがいも感じています」とのことだ。最後に、田山担当課長に今後の債券発行や運用についての展望を聞いた。

 「自治体である以上、調達も運用も確実性や安全性が第一。調達なら金利の低減、運用なら収益性の向上が求められます。私たちは常にアンテナを高くして、市場のみならず社会情勢や他の自治体の動向に気を配っていくことが大事。その上で、ためらうことなく新しい挑戦をしていきたい」と話す。「この仕事は専門性が高く、担当者が考えたことが実現できるというやりがいのある部署。各地の同じ部署の方々と共に頑張っていきたいですね」と今後の抱負と本誌読者へのエールを語ってくれた。

 震災、気候変動などを乗り越え、前向きな施策とそれを支える財政戦略で「ふるさと」を拓く岩手県。今後のグリーン/ブルーボンドによる調達と事業展開に注目だ。

(左から)大和証券(株)・畑知弘さん、岩手県財政課主任・菅原将樹さん、同調査担当課長・田山健太郎さん、大和証券(株)・大江義晴さん。
(左から)大和証券(株)・畑知弘さん、岩手県財政課主任・菅原将樹さん、同調査担当課長・田山健太郎さん、大和証券(株)・大江義晴さん。

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大和証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第108号

<問い合わせ先>
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