自治体債券運用のイマ

月刊「地方財務」

【自治体債券運用のイマ 第5回】群馬の魅力と政策を反映させた群馬県グリーンボンドの取組/群馬県庁

NEW地方自治

2025.09.01

『地方財務』2025年9月号

【特別企画】自治体債券運用のイマ 第5回

群馬の魅力と政策を反映させた群馬県グリーンボンドの取組/群馬県庁

 群馬県は、尾瀬、赤城山などの名勝地、富岡製糸場などの歴史遺産、草津・伊香保・水上など全国区の温泉地といった観光資源を持ち、リトリート(日常を離れ心身 をリフレッシュすること)を体感できる自然豊かな地域として知られる。県では、豊かな環境資源を生かしつつ、未来志向の様々な施策を展開しており、グリーンボンドの発行では県債としては日本トップクラスの投資家数を獲得している。そこには政策と債券発行が連動した明確さ、財政課の奮闘、そしてパートナーとしての証券会社の存在がある。今回は、群馬県における債券発行の取組を中心に、県債のあり方を考えていく。

群馬県

 人口約187万8,000人(令和7年7月1日時点)。関東地方北部に位置し、県庁所在地は前橋市。福島県との県境は尾瀬国立公園があり、県北西は草津温泉などの温泉・観光地として知られる。自然風土などの地域資源を活かし、繊維・木工・食品等の多種多様な地場産業も盛ん。郷土の風物・人物を詠んだ「上毛かるた」は県民に親しまれている。マスコットは「ぐんまちゃん」。令和5年度一般会計決算は約8,257億円、令和7年度一般会計当初予算は約8,078億円。

群馬県庁の写真
高さ153m。道府県庁舎では日本一を誇る。

豊かな環境を生かした未来志向の施策

 群馬県は環境資源がもたらすポテンシャルが非常に高い地域だ。過去に発生した震度4以上の地震は78回(1919年1月〜2025年3月)、自然災害による罹災世帯数は443世帯(平成26年〜令和5年)で、共に関東地方ではもっとも少なく、災害リスクが低い地域と言える。また、日照時間は全国2位(2023年)、降雪量も平野部では比較的少ないなど気象条件にも恵まれている。こうした自然環境も評価され、工場立地件数は全国4位(2024年)、移住希望地ランキングでも全国1位(同)だ。このような人にやさしい自然がもたらす環境を生かし、多彩な施策を進めている。

 今年度の重点施策では、「こどもまんなか推進&新産業創出加速予算」を掲げ、5つの施策――①「こどもまんなか推進」、②「新たな富の創出に向けた未来への投資」、③「持続可能な成長の促進」、④「県民の幸福度向上」、⑤「財政の健全性の確保」を展開中だ。中でも⑤では、基金残高が平成10年度以降最高額、県債発行額・県債残高4年連続減少など堅実な財政運営に取り組んでいる。

 これら施策のもととなるのが、令和3年に策定された「新・群馬県総合計画」だ。2040年のビジョンとして、「県民が誰一人取り残されることなく、幸福を実感できる自立分散型の社会」を掲げた。これをもとに、多文化共生・共創推進条例の制定や、コワーキングスペースを庁内に設置するなど様々な取組を進めているが、特に、令和元年に表明した「ぐんま5つのゼロ宣言」は全国初と県が胸を張る施策だ。宣言の内容は①自然災害による死者、②温室効果ガス排出量、③災害時の停電、④プラスチックごみ、⑤食品ロスの5つ全てを2050年までに「ゼロ」にするというもの。この環境問題に向けた取組は、令和3年度「群馬県環境基本計画2021―2030」の策定、令和4年度「ぐんま5つのゼロ宣言」実現条例の制定、令和6年度「グリーンイノベーション群馬戦略2035」の策定と続いており、“環境政策県”としての取組を進化させ続けている。

群馬県総務部財政課課長・田中佑典さん。
群馬県総務部財政課課長・田中佑典さん。

集客率トップクラスのグリーンボンド発行

 このように、群馬県では、環境とイノベーションを融合させながら持続的な事業展開を進めており、そのことはグリーンボンドの発行にもつながっている。

 令和5年、群馬県は、第1回グリーンボンドを発行した。環境問題に対応していくための財源として社会的に注目を集めていたことなどを背景に、初めての発行に踏み切った。発行債は10年満期一括債、発行額は100億円、購入単位は1000万円。募集を開始すると県内の自治体や事業者を中心に県内外含め213件の投資表明が集まった。これは全国の地方債グリーンボンドにおいて過去最高の件数となった。応募額も発行額100億円に対し、1002億8000万円と10倍を超える金額に上った。

 翌令和6年度の第2回グリーンボンド発行からは、発行年限を10年満期一括債(100億円)と5年満期一括債(50億円)の2種類に増やした。ちなみに、グリーンボンドにおいて複数の年債を発行している自治体は数少ないという。幅広い選択肢も投資家を呼び込む要因となっているのかもしれない。第2回でも5年債で92件、10年債で78件と多くの投資表明が集まった。

 さらに令和7年度の第3回グリーンボンド発行においても、5年債68件、10年債59件と、地方債グリーンボンドとしてトップクラスの“集客力”をもつ発行債となっている。特に、県内の自治体・事業者の割合は高く、第1回では213件中県内からが185件であった。群馬県のグリーンボンドは、県内の投資家と強く結びついているのである。

大和証券(株)デット・キャピタルマーケット第二部公共債二課課長代理・中里遥馬さん。
大和証券(株)デット・キャピタルマーケット第二部公共債二課課長代理・中里遥馬さん。

群馬県総務部財政課県債係係長・小暮則雄さん。
群馬県総務部財政課県債係係長・小暮則雄さん。

財政課一丸の“営業活動”

 このように多くの投資家を獲得している群馬県のグリーンボンドだが、財政課による“営業”が奏功している面もあるようだ。

 財政課では、募集期の5、6月に、県内外の投資家獲得のため、担当の職員のみならず課の職員総出で“営業”を展開した。IR資料を用いながら、群馬県の魅力や環境に関する様々な施策などを、自分たちの言葉で説明して回っているという。一日何件も詰めるだけ詰めて投資家となる自治体・事業者の訪問に走り回った。職員全員で回った訪問数は2か月で約80件に上ったという。

 自らも投資家獲得に奔走した田中佑典財政課長は、「職員全員がそれぞれの役割を担い、県内外を問わず群馬県の施策や魅力を発信しながら走り回っているのが私たちの取組の特色だと思います」と言う。投資家獲得のための行脚は、投資先としての魅力を訴えるとともに、群馬県の施策を理解してもらう発信力にもなっている。

 さらには、山本一太知事自ら、庁内のスタジオを使って作成したメッセージ動画を配信し、群馬県の魅力の発信とともに全国に向けてグリーンボンドへの投資を呼びかけた。ちなみに県公式チャンネルの登録者数は6.9万人(2025年8月時点)となっており、自治体のYouTubeチャンネルとしてはトップクラスという。

 こうした取組を通した成果は、グリーンボンドインパクトレポートに掲載されている投資表明投資家の多さや、発行債の充当事業などからも読み取ることができる。

YouTube動画のキャプチャ
山本一太知事も動画でグリーンボンドへの投資を呼びかけた
https://www.youtube.com/watch?v=O8VwvzZA8fE)※2023年6月1日公開


地域とつながるグリーンボンドの活用

 群馬県のグリーンボンドインパクトレポートは、発行債の内容、投資表明投資家一覧および充当事業・資金使途が簡潔かつビジュアルにまとめられているのが特色だ。前述のように地域別に充当事業を示したり、資金使途の一覧では写真と簡潔な事業内容などが統一したレイアウトで見やすく掲載されている。令和5年度・6年度のインパクトレポートによると、発行債の充当事業として、①エネルギー効率、②生物自然資源及び土地利用に係る環境維持型管理、③陸上及び水生生物の多様性の保全、④気候変動への適応の4つを柱に施策を展開している。

 具体的には、県北西部の吾妻地域における木材の生産・流通や森林管理のための林道整備、県北部の利根沼田地域における尾瀬国立公園の観光整備としての公園内の老朽木道の更新、県西南部の西部地域における土砂災害の防止・軽減機能の保持のため既存の砂防堰堤の補修、県中央部の中部地域における豪雨被害防止のための農業用ため池の洪水吐整備、県東部の東部地域における災害時の安全性向上のための電線地中化・無電柱化工事の実施などだ。資金の使途を明確にすることによって、グリーンボンドの信頼性や主な投資家たる県内自治体の受益感覚の向上にも一役買っているのが、グリーンボンドインパクトレポートであると言えよう。

インパクトレポートの画像①

インパクトレポートの画像②
グリーンボンドにより調達した資金の事業及び環境改善効果をまとめた『インパクトレポート』(令和6年度群馬県グリーンボンドインパクトレポート」より)

訴求力強いインパクトレポート

 主幹事社となっている大和証券㈱では現在、群馬県が取り組む発行債に関わる様々な業務をサポートしている。

 発行債の引受業務や募集・売り出し業務のみならず、財政課におけるセールス活動についても、訪問先のコーディネートや、職員全員がグリーンボンドの内容や充当事業などについて説明できるようプレゼン用の資料を提供したりしている。グリーンボンドインパクトレポートにおいても、掲載内容や誌面のフォーマット化、自動計算式の埋め込みなど、職員の誰もが簡便にレポートを作成しやすい工夫も行った。地域別の充当事業を掲載することを提案したのも大和証券からであった。

 「私たちの戦略や取組について、十分に理解していただき、より訴求力の上がる工夫などの提案をいただいています。仕事の繁閑なども含めて我々の仕事を把握してサポートしていただいているのが大変ありがたい。だからいろいろなことにチャレンジさせてもらっています」と県債係の小暮則雄係長は言う。「庁内全体に新しいことに挑戦する雰囲気があることも、この仕事がやりやすい一因です」と加えた。

 財政課から全幅の信頼を受けている大和証券デット・キャピタルマーケット第二部公共債二課の中里遥馬課長代理は、「IRや投資家様への訪問に注力されており、県債も5年、10年、20年の同時起債と幅広い選択肢を提供するなど、投資家目線で取り組んでおられるのが特色だと思います。それを踏まえて、財政課さんが発信されたいことをどう具体化できるかを考え、お手伝いをさせていただいています」とのことだ。

 民間の強みも取り入れて、インパクトのある債券発行を進めているのが群馬県の取組と言えようか。

債券運用にも政策との整合性

 群馬県では、グリーンボンドやソーシャルボンドなどを対象とした債券運用にも取り組んでいる。基金の運用は基金所管の部署と会計担当課が連携して行っており、財政課では減債基金を担当している。減債基金の財源を活用して将来の償還に備えて運用しており、残高は約1050億円で運用益は公債費に充てているという。基本的には国債、地方債、政府保証債などの範囲で購入するルールとなっており、購入限度も決まっているので、その範囲での購入計画となっている。発行は積極的に、運用は手堅くという方針のようだ。

 今年も、群馬県では6月、第345回日本高速道路保有・債務返済機構のソーシャルボンドに投資表明を行った。債券運用にも環境政策との関わりが見てとれる。

 2021年、内閣府より「SDGs未来都市」に選定された群馬県。「政策と(債券発行・運用の)方針に整合性がある」(小暮係長)と言うように、債券の発行・運用が県の政策の写し鏡となって、県内外の投資家たちに訴求する群馬県の取組はこれからも続いていく。

(左から)大和証券(株)・中里遥馬さん、群馬県財政課課長・田中佑典さん、同県債係係長・小暮則雄さん。
(左から)大和証券(株)・中里遥馬さん、群馬県財政課課長・田中佑典さん、同県債係係長・小暮則雄さん。

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