【自治体債券運用のイマ 第1回】SDGs債による基金の運用で持続可能な社会づくりへ向けた資金を確保/栃木県那須塩原市
NEW地方自治
2024.12.27
(『地方財務』2025年1月号)
【特別企画】自治体債券運用のイマ 第1回
《栃木県那須塩原市》
SDGs債による基金の運用で持続可能な社会づくりへ向けた資金を確保
那須塩原市は、基金のより効率的な運用を行うため、令和4年度から債券による運用に取り組んでいる。長引く超低金利政策の状況の中で、今後10年間で大きく取り崩しがなく長期的に運用資金が確保できる基金において債券運用を行うことで、持続可能な社会づくりへ向けて資金を確保するのがねらいだ。
債券購入に当たっては、安全性や効率性に十分に配慮して公共債を対象とし、市の環境政策とも合致するSDGs債を優先的に購入。SDGs債を購入した際には「投資表明」を行い、持続可能な社会づくりへの貢献を内外に発信している。
歳入確保に向けて基金の債券運用を検討
栃木県北部に位置し、那須連山など豊かな自然環境に恵まれている那須塩原市は、渡辺美知太郎市長が掲げる「“住んでいれば生き延びられる”持続可能なまち」づくりを推進している。その一環として環境政策に注力しており、令和6年4月にネイチャーポジティブ課、カーボンニュートラル課、サーキュラーエコノミー課で構成する環境戦略部を新設。「2050 Sustainable Vision 那須塩原〜環境戦略実行宣言〜」の推進のため、3課が連携して取り組んでいる。また、「SDGs未来都市」(内閣府)に選定されて持続可能なまちづくりを加速させている。
人口約11万6,000人(令和6年10月1日時点)。栃木県の北部に位置し、東京都から150㎞圏、宇都宮市から約50㎞。市の面積は592.74㎢。東北新幹線で東京から1時間少々という好アクセスで伝統ある古湯を堪能できる。農業でも令和4(2022)年の市町村別農業産出額(推計)によると、全国市区町村のうち生乳産出額が2位、農業算出額全体でも12位となっている。財政規模は令和5年度歳出決算額約534億円、令和6年度当初予算額約540億円。
財政規模は、令和5年度歳出決算額約534億円、令和6年度当初予算額約540億円、前年度比で約7%伸びている。市財政の健全な運営と各事業の財源確保のために必要な基金は、令和4年度に24基金、令和6年度は23基金を設置している。
「現金や有価証券の出納・保管、現金・財産の記録管理などを所管する会計課では、基金は地方自治法の趣旨に基づき、定期預金などで安全かつ効率的に運用していましたが、超低金利政策の中でほとんど利息がつかない状況が続いていました。そのような中、健全な行財政運営へ向けて歳出削減を進めてきましたが、さらなる削減が難しくなってきたことから、新たな収入確保の必要性が高まったのです」と那須塩原市会計管理者兼会計課長の五十嵐岳夫さんは当時の状況を振り返る。
平成29年度から6年間の「第2次那須塩原市行財政改革推進計画」には、税収確保による安定的な財政基盤の確立や新たな歳入確保手法の検討が明記された。
「その流れを受け、令和元年くらいから基金の債券運用によって利子収入が得られないかという話が出ました。ただ、債券運用についての知識がなく、安全な債券かどうかを判断する基準もありませんでした。そのような状況にあって、地方公共団体金融機構(JFM)や複数の証券会社に相談しながら検討しました」と五十嵐さんは話す。
安全性の高い公共債での運用を定める
相談を受けた大和証券は、47都道府県に計182拠点を有し、一部の店舗では法人課を設置してエリア内の自治体や企業からの資金運用などの相談に対応している。「各支店の法人課がお客様の窓口となり、相談内容などは東京の本社に集約しています。それらの情報を整理した上で、各支店にフィードバックし、お客様の相談内容に応じて情報を提供する流れで進めています。那須塩原市とは平成28年度くらいから関係が築かれており、その縁もあって基金の運用や債券の購入についての相談を受けました」と大和証券株式会社(デット・キャピタルマーケット第二部)の山本将史さん。
その中で、歳計現金や基金に関する現金などの管理の原則や運用方法を定める公金管理方針の策定を進めていった。
「弊社としては、利回り確保の観点から格付けの高い事業債を含め幅広い種類の債券をご紹介していますが、債券購入が初めてという話の中で、安全性を優先して公共債に絞って購入していく方針になったと認識しています」と山本さんは話す。
令和3年度に公金管理方針がまとまり、令和4年4月20日から施行した。
公金管理方針では、資金元本割れが生じないよう安全性の高い金融商品で保管・運用し、また資金の流動性と運用収益の効率性を確保・追求することも公金管理の原則として明記。基金運用の金融商品は預金のほか公共債(国債、政府保証債、地方債、地方公共団体金融機構債、財投機関債、地方公社債)とし、▽債券取得価格は額面又は額面価格未満の価格、▽保管・運用では当該商品を満期又は償還期限まで持ち切る、▽債券の運用期間は10年以内――を原則としている。
そして令和4年11月の定例記者会見において、基金のより効率的な運用を図るため、債券による運用を開始することを公表した。
SDGs債を優先的に購入
債券運用の対象基金は、今後10年間で大きく取り崩しがなく長期的に運用資金が確保できる①財政調整基金、②減債基金、③公共施設等有効活用基金、④農村環境保全基金、⑤塩原地区温泉街活性化推進基金の5基金で、令和4年度の運用金額は10億円とした。
購入する債券は、公金管理方針に明記した公共債で、安全性や効率性に十分に配慮しながら、グリーンボンド(地球温暖化など環境問題解決に資するグリーンプロジェクトに要する資金調達)、ソーシャルボンド(衛生・福祉・教育などの社会課題解決に資するソーシャルプロジェクトに要する資金調達)、サステナビリティボンド(グリーンとソーシャル双方のプロジェクトに要する資金調達)といったSDGs債を優先的に購入。SDGs債を購入した際は、「投資表明」を行い、持続可能な社会の形成に寄与し、社会的使命・役割を果たしていくことを対外的に公表することとした。
市は、総合計画で目指す姿がSDGsの17ゴールに沿ったものであることから、令和4年度策定の「第2次那須塩原市総合計画後期基本計画」の下で総合計画とSDGsのゴールを実現する一体的取り組みを進めている。
「基金での債券運用を始めるに当たり、SDGs関連の銘柄を購入することで市民の理解が得られるのではないかとの考えからスタートしました。また、持続可能な社会の形成に貢献していることを内外にアピールするため、投資表明を行っています」と五十嵐さんは話す。
SDGs債について山本さんは、「国内では、2017年に環境省によるグリーンボンドガイドライン策定をきっかけにSDGs債発行が活発化しました。企業活動において持続可能な社会の実現が共通テーマとなっている中、SDGs債はSDGsの目標達成に向けて資金の使途が特定されていますので、投資家側もその貢献に繋がることを具体的に示せるところに購入の大きな意義があると思います。最近、持続可能な海洋資源の保護などを目的にしたブルーボンドやジェンダー平等を目的にしたオレンジボンドなどの商品も登場しています」と説明する。
市は令和4年度以降、グリーンボンドとしてグリーン共同発行市場公募地方債、ソーシャルボンドとして独立行政法人国際協力機構債や独立行政法人福祉医療機構債、サステナビリティボンドとして沖縄振興開発金融公庫債や独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構債、都市再生債などを購入している。
資金運用のための状況を常に把握
債券購入開始から2年が経過しているが、問題は生じていない。公金管理方針に基づいて策定した公金管理計画に則って債券を購入し、公金管理実績を公金管理事務連絡会議に報告する流れで進めている。
「購入上のリスク管理は安全性・償還の確実性を最優先とすることで徹底。5基金90億円の運用からスタートし、現在は16基金210億円に拡大しています。購入した債券は20億円で、年間1,400万円以上の利子収入を得ています。少額の基金は単独では何もできないけれども一括運用すれば利息が入ってくるとの庁内の理解が進んでおり、基金の所管部署からは一括運用してほしいという要望も増えています」と五十嵐さんは手応えを話す。
一方、金利が上昇傾向にある中で、債券購入のタイミングの難しさが一つの課題だという。
「購入段階では最善の選択だったとしても、利率の高い有利な商品が登場した場合に備え、その債券を購入した理由を市民に説明できるようにしておかなければならないと考えています」と五十嵐さん。「議会からも、債券購入への反対はなかったものの、金利が上昇しているのでもう少し待ったほうがいいのではないかという質問はありました。ですから、金利の動きなどを常に把握しておく必要があります」。
その上で、「運用を始めるまでには相応の時間を要しました。公金管理方針を定めることが債券運用の第一歩になりますが、たたき台を地方公共団体金融機構(JFM)に相談しながら策定しました。どの発行体のどんな債券を選ぶかなどの情報は証券会社に提供してもらい、アドバイスを受けながら購入しました。運用に向けて検討したいと考えている自治体は、先進的に運用している自治体やJFM、証券会社などに相談して取り組んでいけばいいのではないでしょうか」と話す。
山本さんも、資金運用を考えている自治体に対して、「担当となる職員の皆様が、必ずしも金融や債券などの専門家というわけではないので、運用について分からないことが多いという段階からのスタートになるのではないでしょうか。ですから、運用を始めようと思っているので情報がほしいと問い合わせていただければと思います。お客様がどのような状況なのかを確認の上、必要に応じて債券や資金運用に関する勉強会など基礎的な知識や情報を提供し、運用方針策定のお手伝いや意向に沿った商品の紹介などを行っていきます。債券購入に至るまでのプロセス、購入後のアフターフォローまで丁寧にサポートさせていただきますので、まずはご相談ください」と語っている。
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