自治体債券運用のイマ
【自治体債券運用のイマ 第3回】座談会|SDGsの理念を生かした施策や事業が見える債券の発行・運用
NEW地方自治
2025.05.01
(『地方財務』2025年5月号)
【特別企画】自治体債券運用のイマ 第3回
《座談会》相模原市×日本学生支援機構×大和証券
SDGsの理念を生かした施策や事業が見える債券の発行・運用
栃木県那須塩原市、愛知県春日井市の債券運用の事例に続き、本シリーズ第3回では、債券運用とともに発行体としても取り組んでいる神奈川県相模原市、日本有数のSDGs債発行体である独立行政法人日本学生支援機構、大和証券株式会社の各担当者に登壇いただき、SDGs債を取り扱う発行体・投資家としての意義やメリット、今後の課題や展望などについて、それぞれの立場から論じていただいた。
SDGsで持続可能な社会づくりを目指す
大井 相模原市は、交通ネットワークや立地のよさから首都圏へのアクセスが良好な地域です。本市の東部には市街地、多様な大学、JAXAなどの学術・研究機関が集積し、西部は多くの山・湖・川により豊かな自然環境を形成し、都市と自然が調和した地勢となっています。
本市の財政規模は政令指定都市の中で最小規模で、市民一人あたりの歳出決算額も最も少額ながら、20年にわたる財政健全施策により堅実な財政運営を行っています。
また、本市は、長年にわたり環境の保全及び創造に関する施策を展開してきており、『相模原市総合計画』においても、SDGsの理念を基にした取組を推進し、都市部の発展と自然の調和を目指す姿勢が評価され、令和2年7月には「SDGs未来都市」に選定されました。令和4年度からは、脱炭素の取組や「相模原市SDGs未来都市計画」の実現に向けた資金調達の一環として、「さがみはらグリーンボンド」を発行しています。
さらにSDGs達成の機運を一層高めるため、企業や団体、市民を巻き込んだ「相模原SDGs EXPO」を開催しています。1月の開催では市制70周年も記念し、約100のSDGsパートナーが出展をしたほか、JAXAと連携したVR体験、スタンプラリー等多彩なイベントを開催しました。このような取組の積み重ねが「全国市区第4回SDGs先進度調査」において前回同様の5位に繋がったのだと考えております。今後もSDGs達成のため、SDGs債の運用や調達、本市の特色である「相模原SDGs EXPO」の開催を継続実施していく予定です。
人口約72万2,000人(令和7年3月1日時点)。県北部に位置する政令指定都市。都心から約1時間の好アクセスの一方で自然にも恵まれている。市内にJAXA相模原キャンパスがあり、宇宙を身近に感じられるまちづくりを進めている。またSDGsの推進に向けた取組などが評価され、令和2年度に「SDGs未来都市」(内閣府)に選ばれた。財政規模は、令和5年度一般会計決算は約3,458億円、令和7年度一般会計当初予算は3,750億円。

松木 日本学生支援機構(以下、「JASSO」)は、奨学金貸与事業を行っていた日本育英会と留学生関連事業を行っていた4団体が整理・統合し、平成16年4月に設立されました。「次代の社会を担う豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に資すること」などを目的とし、教育の機会均等や学生の修学援助等に取り組んでいます。
事業については、「奨学金事業」が最も大きな柱となります。金銭面で進学を諦めたりすることがないようにするための支援事業です。その他「留学生支援事業」「学生生活支援事業」という三本柱で事業を行っています。
奨学金事業は返還義務のない給付奨学金と返還の必要がある貸与奨学金があり、貸与奨学金は、無利息の第一種奨学金と利息がつく第二種奨学金に分かれています。その中で、JASSOソーシャルボンドの発行で調達した資金は、利息のある第二種奨学金の在学中の貸与財源に全て充当しており、多くの学生を支えています。

阿部 JASSO様は、国の財政面などの強力なサポートの下で安定した資金調達を行い、奨学金制度等を展開されています。弊社は、同機構の債券の魅力を、投資家である自治体や金融機関などに対し、効果的に伝える役割を担っています。

市の施策がイメージできるグリーンボンド
大井 本市では、「SDGs未来都市」に選定されて以降、より一層SDGsを意識した取組を進めてきました。その一環として、未来都市づくりのためのグリーンボンドの発行とともに運用においてもSDGsへの貢献姿勢を示すことを目指し、SDGs債の運用を開始しました。投資表明を通じて本市の姿勢を内外に示せる点についても高く評価しています。
阿部 相模原市様は、地域社会の安定的な発展のため、安全性、流動性、収益性のバランスが取れた投資先を求められていますので、特に信用力が高く安定的な利回りを提供できる金融商品をご案内しています。また、相模原市様とは発行体としての関わりもあり、昨年度12月の相模原市グリーンボンドにて事務主幹事として選定いただき、ご起債のサポートをさせていただきました。
相模原市グリーンボンドは、投資家が、市の豊かな自然の保全のためと連想できるなど、市の施策がイメージしやすい点に特徴があります。それが、地元の投資家を中心に、幅広い業態から数多くの投資家が参加している点や、昨年度12月の3回目のグリーンボンドでも投資表明が多い点にも表れていると思います。健全な財政基盤により、信用力の高い発行体として注目されており、グリーンボンドなどの社会貢献型債券は投資家にとっても魅力的と言えます。
自治体がいま注目する日本学生支援債
松木 SDGsについては、当機構もSDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」の達成に向けて活動し、社会に貢献しています。意欲と能力のある学生・生徒が経済的な理由で修学を断念することがないよう、貸与基準を満たす希望者全員に対して奨学金の貸与を確実に実施しています。令和5年度には、日本の高等教育機関で学ぶ学生約363万人のうち約111万人が当機構の貸与奨学金を利用しており、その割合は30.5%、約3.3人に一人となっています。設立時に比べ約1.3倍に拡大しています。
日本学生支援債券は設立時の平成16年から直近2月まで78回発行しています。ソーシャルボンドは平成30年から発行しており、年限2年、1回の起債あたり300億円、年4回の定例発行を継続しています。
当機構では、業務継続に必要な資金として、できるだけ多くの投資家の獲得、中長期的な視点での安定調達の実現、より多くの方々に当機構の持続可能な社会の実現に向けた社会的課題への取組や貢献についてご理解いただくことを目的にソーシャルボンドを発行していますが、ESG投資に対する意識の広がりの中で自治体、学校法人、事業会社など我々の事業をご支持いただける方々からの投資表明が増えています。直近の投資表明は、第76回債に85件、第77回債88件、第78回債94件と積み上げられ、累計816件に達し、財投機関債(SDGs債)で最多です。特に、足元の金利環境も後押しし、JASSO債には投資表明ベースでこの1年間で自治体の参加が91件と急増しています。JASSO債は教育という身近な社会課題の解決を目的とした資金使途であり、奨学金事業によって次代の社会を担う人材育成に貢献できます。各自治体によるJASSO債の購入と投資表明を通じ、その地域における教育分野での社会的使命を間接的に果たすとともに、自治体の姿勢を広く周知する具体的な手段となり得ると考えています。

大井 本市では、債券運用に際して安全性と利回りの確保を考慮し、財投機関債や道路会社債といった公共セクターの債券を選好しています。また、足元での金利上昇に鑑み、短い年限の債券への投資が増加しています。2年債の運用を検討する中で、SDGs達成への貢献という観点から、JASSO債を選定しました。定例発行のため運用計画が立てやすいという利点があり、さらに「教育を受ける権利」を守る支援を目的とした債券であることから、本市の「末来へつなぐさがみはらプラン〜相模原市総合計画〜」の理念とも合致していました。こうした背景から、JASSO債は投資表明を通じて本市の姿勢を内外に示す上で、非常に有効な手段であると考えました。

阿部 JASSO債は、高い信用力と安定性、社会的意義を兼ね備えた投資商品であり、安全性を重視する投資家にとって有力な選択肢です。特に、JASSOの活動は、学生への奨学金貸与など、日本の教育制度を支える重要な役割を担っており、投資家は債券購入を通じて、教育や人材育成という社会的課題の解決に貢献できます。債券購入が市のイメージアップにつながるとの反応もいただいております。
JASSOのIR(投資家向け広報)でも自治体のご担当者から「教育は重点施策なので説明しやすい」という声を数多く拝聴しています。


今後の取組に向けて
松木 人材不足が深刻化し、若手人材の確保や離職防止が大きな課題となっている昨今、「企業等の奨学金返還支援(代理返還)制度」が課題解決の新たな一手として注目されています。各企業が従業員に対して実施している貸与奨学金の返還残額の一部または全額を支援する取組について、これまでは各企業から従業員へ支援する方法のみでしたが、令和3年4月より「企業から日本学生支援機構へ直接送金する」ことが可能となり、かなり使いやすくなったとの声を多くいただいております。令和6年12月末時点で、全国で2781社が当制度を利用しており、一般企業の他、自治体が間に入るような、当初は考えていなかったような使い方を含めて普及しつつあります。今後、当制度を利用する地域の地元企業が増えることで、当機構の奨学金を借りていた学生が、卒業後に地元への就職を選択するインセンティブに繋がり、人材定着に資するという貢献ができればと思っております。
大井 本市の債券運用のメリットとしては、主に2点挙げられます。一つ目は、預金に対する経済合理性の観点から優位性がある点。二つ目は、投資表明を通じて、SDGs達成に向けた貢献姿勢を内外に示すことができる点です。預金に比べ債券への投資は流動性が低下する可能性がありますが、本市では安全性を最重視しているため、万が一換金が必要な場合にも流動性が確保されている銘柄を選定して運用を行っています。
運用と調達の両方を担当する上での課題として、運用と調達における金利の決定プロセスが異なる点が挙げられます。それぞれに様々な方法が存在し、調達金利と運用金利が必ずしも連動しない場合もあるため、各業務において最適な手法を見極めることは容易ではありません。
目崎 投資をしたことがない人にとって債券運用は未知の世界ですが、歳入確保の観点からしっかり取り組むべき業務であり、実務担当者は債券運用に関する知識を習得することが重要だと感じています。歳入確保につながるように、今後も適切な運用方法について学び、業務に反映させたいと考えています。
大井 本市では、今後も引き続き、SDGs債を中心に購入・運用していく予定ですが、「金利がある世界」に適した運用方法についても研究していきたい。債券運用は歳入確保につながる大切な仕事です。公金で運用していることを認識し、安全性の確保を大前提とした上で、市場動向などの情報収集をしっかり行い、適切な運用計画を立てて取り組むことが望ましいと考えています。

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