自治体債券運用のイマ

月刊「地方財務」

【自治体債券運用のイマ 第2回】証券会社のサポートを受けながら知識・情報ゼロからの債券運用に乗り出す/愛知県春日井市

NEW地方自治

2025.02.28

『地方財務』2025年3月号

【特別企画】自治体債券運用のイマ 第2回

《愛知県春日井市》
証券会社のサポートを受けながら知識・情報ゼロからの債券運用に乗り出す

 愛知県春日井市は、持続可能な財政運営に向けて、歳出の縮減とともに、積極的な歳入の確保に取り組んでいる。その方策の一つとして、基金に属する現金を確実かつ効率的に運用するため、金融機関への預貯金に加えて債券での運用を開始した。予算の編成や執行管理などを所管する財政課が主導し、公金の出納・保管を所管する会計課とともに運用を進めている。

基金管理の説明責任を果たすために

 名古屋市の北東に隣接する春日井市は、住環境に恵まれ、交通利便性が高いことから住宅都市として発展。人口は昭和の高度経済成長期から平成を通じて増加し続け、平成31年に約31万2000人に達した。だが、令和になると減少に転じ、現在30万6000人を切っている。人口減少というこれまで経験のない新たな局面を迎えた市では、持続的な財政運営を図るために歳入確保・歳出縮減策を着実に積み上げていくことが課題となっている。

 市の財政規模は、令和5年度一般会計決算は約1171億円、令和6年度一般会計当初予算は約1228億円に上っている。市では長期間にわたり、市域の約7割を占める市街化区域の土地区画整理事業を進めるなど、都市基盤整備のための積極的な投資を行ってきた。その結 果、財政調整基金は25年前に数千万円まで落ち込んだが、行政改革の推進などによって回復。15年前に約25億円、10年前に50億円となり、令和4年度には目安とされる標準財政規模の10%を超える約100億円まで積み上げられていた。

愛知県春日井市

 人口約30万6,000人(令和7年1月1日時点)。愛知県西部に位置し、地域によっては名古屋市の中心部まで30分前後という好アクセスもあり、住宅都市として発展した。平安時代の書道家小野道風の出身地とされ、「書のまち春日井」を掲げ書道文化の振興に力を入れている。また、特産物である実生のサボテン(春日井サボテン)は全国シェアの8割を占 める。財政規模は、令和5年度一般会計決算は約1,171億円、令和6年度一般会計当初予算は約1,228億円。

平成2年度完成の本庁舎。地上12階。
平成2年度完成の本庁舎。地上12階。

 鈴木公博さんは令和5年4月に課長補佐として財政課へ異動したが、同課には過去2回所属し、5年ぶりの復帰であった。着任間もない鈴木さんに対し、証券会社から債券運用の打診があった。「十分な資金があるのになぜ運用しないのか、他自治体は行っていると言われました。運用している自治体があることは知っていましたが、改めて調べると県内で7割近くの市が行っていました。また、決算統計を確認したところ、基金保有額に対する当市の利子収入が他市と比べて極端に低いことが分かりました」と鈴木さんは振り返る。

 令和4年度決算時、財政調整基金等の市の基金は、総額で約150億円に上ったが、歳計現金の不足に備えた保持が優先され、その運用益(利子収入)は約80万円(利回り0.005%)と、運用とは程遠い状態であった。

「市民から大切な税金を預かっているのに、これでは何もやっていないのと同じ。より一層の財政健全化が求められる中で、市民への説明責任を果たせないと感じました」と鈴木さん。また、「ただ、当時は債券運用の知識が組織にも個人的にもほぼなかったので、まずは専門家(証券会社)と先人(運用自治体)から知識と情報を得るところから始めました」と話す。


財政課と会計課で懸案事項の解消策を検討

春日井市の債券購入一覧


 運用の検討は令和5年6月頃から始め、証券会社からの情報やセミナーへの参加、他自治体への問い合わせなどで債券運用に関する知識の習得と情報収集を進めた。

 情報提供を行った証券会社のひとつ、大和証券株式会社公共法人部第二課課長代理の上野玲海さんは、「平成30年より、名古屋支店の担当から債券等の案内を始めました。支店だけでなく、本部の債券部門や引受部門と連携して、セミナー開催・他自治体の運用動向等の情報提供を行ない、大和証券全体で様々な角度からサポートしています」と話すとともに、「セミナーの前段階として債券初心者向けの資料を作成しており、まずはそれをご覧いただくようにしています。その後はさらに詳しい資料を提供し、相談や要望に応じながら債券運用のフォローに努めています」とその内容を説明する。

 財政課では債券運用の利点や他市の取組状況などの情報を整理して企画書を作成。同時に、他市で債券運用の所管となることが多い会計課へ債券運用を持ちかけた。それに対し、会計課からは運用によるメリットには共感が示された一方、①基金の活用方針が不明なこと、②資金繰りが厳しく長期運用が難しいこと、③指定金融機関の預金額が減ることなどが懸案事項として示された。そこで、財政課と会計課で懸案事項の解消策を検討し、運用ルールや事務分担を整理した。その間、令和5年秋に国債金利が上昇して10年ぶりの水準となった追い風を受けて、10月から債券運用の検討を本格化させた。

春日井市企画経営部財政課 課長補佐・鈴木公博さん。
春日井市企画経営部財政課 課長補佐・鈴木公博さん。


 懸念事項の整理では、①基金を所管する部局へのヒアリングを通じて基金活用の方向性や運用に対する意向を確認し、運用する基金の選別、運用の期間や金額等のルール作りを進め、②の資金繰りでは、運用額を制限してリスクを回避し、現先取引(債券を一定期間後に買い戻すことを前提にした売買取引)の活用も視野に入れることとし、③の預金額減少に対しては、指定金融機関と面談して債券運用への理解を得た。

また、債券運用の役割分担では、財政課が債券選定など運用の企画を行い、会計課で購入などの事務を行う体制とした。それらを踏まえ、令和6年3月に石黒直樹市長にプレゼンテーションを行い、意思決定を得た上で、3月議会の市政方針に対する代表質問の答弁において市長が市の収入を増やす取り組みとして債券運用に言及した。

「市長は様々な方法で歳入を確保することは大事だと明言する一方、リスク管理をしっかり行い、市民にきちんと説明できる形にするように、我々に指示をいたしました。議会からは歳入確保に取り組むことは必要との反応で、特段の反対はありませんでした」と鈴木さん。

公共債を中心に市政との関連性を重視

 令和6年度は市の組織が改編され、財政課は、廃止となった財政部から企画経営部に移管。これに伴い、公有財産の管理が財政課の新たな業務として加わり、債券運用の主管課として明確に位置づけられたなか、4月に運用基準を制定した。

 運用基準では、①安全性の確保(元本の安全性確保を最優先)、②流動性の確保(歳計現金の資金需要への対応を考慮)、③収益性の確保(安全性と流動性を前提に効率的運用)を基本方針として規定。安全性の観点から公共債を中心に、原則満期保有とし、余裕資金で運用して、収益を求めるためのリスクを負わないことなどを明示した。「運用基準は、柔軟な債券選びが可能となるよう、A4判1枚の簡素なものにした」と鈴木さん。

 まずはできるところから運用を始め、財政課所管の財政調整基金や公共施設等整備基金を対象に、購入する債券は国債・地方債だけでなく、県内他市を参考に政府関係機関債などを含め、市の特性・方針に即して社会・環境に貢献するソーシャルボンドやグリーンボンドなども検討した。その結果、令和6年8月から債券購入を開始。債券の発行主旨が、「このまちの未来を創る子どもたちが将来への夢や希望を抱くことができるまち」であり続けることを掲げる市の意向に合致するものとして、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)発行のソーシャルボンド5億円、また都市インフラへの積極的な投資を通じてまちづくり、住まいづくりを進めてきた市の姿勢に同調するものとして、独立行政法人都市再生機構(UR)発行のサステナビリティボンド1億円、名古屋高速道路公社発行のソーシャルボンド2億円、地方公共団体金融機構(JFM)発行のグリーンボンド2億円を、それぞれ購入した。これらの債券購入は、市民への説明責任と市政のPRにもつながるとして、それぞれに投資表明を行っている。

「当市が人口30万都市に発展した、その象徴が、日本住宅公団(URの前身)が開発した高蔵寺ニュータウンです。URとはその後も連携協定を結んでまちづくりを進めています。そのUR発行の債券をどこに頼めば購入しやすいかを検討する中、大和証券からの情報提供を踏まえ、庁内での調整を経て同社から購入することにしました」との鈴木さんの話を受けて上野さんは、「弊社は、早い段階から、春日井市様と事業親和性の高いUR債を提案させていただいたことで、購入につながったものと考えております」と振り返る。

大和証券(株)公共法人部第二課課長代理・上野玲海さん。
大和証券(株)公共法人部第二課課長代理・上野玲海さん。

債券運用はクリエイティブな仕事

 これまでの取り組みを振り返って鈴木さんは、「債券の発行体は多数あり、目的や年限など膨大な情報量になるため、購入する債券の選択には難しい判断が求められます。そこはプロである証券会社に相談すれば、情報と方向性を示してもらえます。それを踏まえ、債券運用の目的や手段の整理など、自分たちにできることの積み上げが大事だと感じました」とした上で、「運用初年度の購入額はそれほど大きくありませんが、当初思っていたより利子による収益を上げられました。それ以上に、証券会社とのやり取りで債券や金融の知識が得られ、また発行体のIR活動を通じて債券運用の意義と有効性が学べるなど、様々な情報 を吸収できたことが成果だったと思っています」と手応えを話す。

 一方で課題は、債券運用を良い形で継続していくことだという。「取り組みを始めた職員が異動したら縮小したり終わったりすることは、絶対に避けなければなりません。継続のためのルールをしっかりつくり、道筋をつけることが大事です。この1〜2年の取り組みで債券運用の考え方は整理でき、債券の選択や購入もスムーズに行えたので、今年度の結果を踏まえて、当初掲げた計画どおり進められるように来年度に繋げていきたいと思っています」と鈴木さんは話す。

 数年間で異動することが多い自治体に対して上野さんは、「内部での情報共有が大事ですが、先方の前任者が異動しても情報が途切れないよう、質の高い情報の提供に努めています。また、初心者向けの個別勉強会をはじめ、運用規定の作成や運用対象の選択や拡大など様々な段階でサポートしています」と語るとともに、「新聞やニュース等を見た際、金融政策などの経済面の報道があった場合などに、これまで以上に関心を持ってもらえればと思います」と助言する。

「債券運用はクリエイティブな仕事」と話す鈴木さんは、「予算や公金の管理が中心の 財政・会計部門において、市民に利益を還元できる債券運用は職員のやりがいに繋がると思います」と副次的な効用を強調している。

春日井市財政課資金担当主査・犬飼栄夫さん(左)、同課長補佐・鈴木公博さん(中)、大和証券(株)・上野玲海さん
春日井市財政課資金担当主査・犬飼栄夫さん(左)、同課長補佐・鈴木公博さん(中)、大和証券(株)・上野玲海さん

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