防災対策なのに楽しい!奥深い!安心を獲得する『災害から命を守る「逃げ地図」づくり』
地方自治
2021.03.02
大雨と地震、火災では逃げ方がまったく異なります――小社刊『災害から命を守る「逃げ地図」づくり』(逃げ地図づくりプロジェクトチーム/編著)。お年寄りから子どもまで気軽に楽しめる防災対策「逃げ地図」の実施方法や活用事例などが分かる注目の防災対策の書です。ここでは本書の内容の一部を抜粋してお届けいたします。(編集部)
災害は他人ごとではない!
私たちが暮らす日本列島は、別名「災害列島」とも呼ばれます。地球を覆っているプレートとプレートの間に位置しているため、地震が多いことは周知のとおりです。また、台風の通り道に位置し、前線の活発化に伴い大雨をもたらす地理にあります。加えて近年、地球は巨大地震の活動期にあり、世界各地でM 8 以上の地震が続発しています。また、地球温暖化に伴う気候変動により台風が大型化し、記録的な豪雨が多発するなど、異常気象が続いています。
「自分だけは大丈夫」という思いこみ
こうしたことから、日本列島の各地で地震や大雨による災害が毎年頻発しています。特に西日本豪雨が発生した 2 0 1 8 年は、その年の世相を表す漢字に「災」が選ばれたほど各地で災害が多発しました。その西日本豪雨では、気象庁が数十年に一度の重大な災害が予想される「大雨特別警報」を発表した後に記者会見をするなど警戒を繰り返し呼びかけましたが、避難しなかった人々が多数いました。「自分だけは大丈夫」と思い込んでしまう心理的傾向の正常性バイアスが働いたとされています。テレビを通して見る災害や被災地の映像は、ブラウン管の向こう側の他人ごとと受け止められていたきらいがあります。
避難経路を色塗りして逃げる方向を理解
西日本豪雨で被害にあった市町村は、住民にハザードマップを配っていました。洪水の範囲も土砂災害の現場も、ハザードマップで予測した区域とほぼ重なっていました。ハザードマップは、過去のデータと現在の科学的知見を合わせて作成されているため、対象地域の災害危険度を示す精度は高いといえます。しかし、それが住民に伝わっていませんでした。
本書で紹介する逃げ地図(正式名称:避難地形時間地図)は、そのハザードマップを下敷きにして作成する避難用の地図です。ハザードマップを一歩進めて、安全な場所に避難する時間を盛り込み、いつ、どこに逃げると良いか、より早い安全なルートが一目でわかるようになっています。避難経路が色塗りされることで直感的に危険な場所と逃げる方向を理解することができます。避難する一人一人の視点に立って、自分たちで作成する点がハザードマップとの大きな違いです。
逃げ地図はどのようにつくる?
逃げ地図は、白地図と色鉛筆と革ひもがあれば、どこでも作成可能です。私たちプロジェクトチームのメンバーが直接関与しなくても開催された事例も含めると、全国 18 都道府県 36 市区町村 45 地区、全国 15 小中高校(2019年9月現在)で逃げ地図づくりのワークショップ(体験型講座)が開催されています。
逃げ地図づくりに使う色鉛筆は 12 色セットで十分足ります。革ひもは、後期高齢者が傾斜路を 3 分間歩いた場合の平均距離を示した物差しです。これまでに蓄積された科学的な知見を総合し、歩行速度を分速43メートル、 3分間で129メートルを避難距離としています。私たちが逃げロールと呼ぶこの革ひもを使って、緊急避難場所などの避難目標地点から 3 分ごとに、緑・黄緑・黄・橙・赤・紫・茶・黒の順に色分けし、避難目標地点に最も早く到着できる方向に矢印(→)を入れます。それを見て、避難上の留意点や課題など気がついたことを付箋に書いて地図上に示します。
分速43メートルは高齢者が基準
小・中学生が逃げ地図を作成すると必ず、「私だったら、もっと早く到着できる!」という声を聞きます。そのとおりです。逃げ地図は、足の悪い高齢者を基準にした避難地図です。ただし、地図づくりが目的ではありません。逃げ地図づくりを通したリスク・コミュニケーションの促進、特に世代間や地域間のコミュニケーションを促進するためにつくるものですから、こうした発言は狙いどおりです。
逃げ地図は、コンピューター上でも作成可能ですが、この手法の良さは、みんなで色を塗り合い、矢印(→)を入れるというアナログの良さにあります。色を塗りながら、気がついたことをつぶやき、それを付箋に書き留めて情報を共有するというプロセスが重要ですので、地域に暮らす多様な老若男女が集まり、グループワークで作成するワークショップの開催をお勧めしています。