議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第100回 「能動提案型事務局」に求められるものは何か?
NEW地方自治
2025.02.27
本記事は、月刊『ガバナンス』2024年7月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
この連載も、今号で100回目となった。数字の切りが良いだけのことではあるが、ここまで続けられたのも読者をはじめ関係者の皆さんのおかげであり、「ありがとう」の言葉で感謝を伝えたい。
■求められる議会局職員像とは?
5月下旬に、「『議会からの政策サイクル』に伴走する議会(事務)局職員像の確立を──議会(事務)局職員の『補佐の射程』」と題する、「政策サイクル推進地方議会フォーラム・議会(事務)局分科会」(日本生産性本部主宰)で策定した提言(注1)の報告を主旨としたパネルディスカッションで登壇した。
注1 全文は、(公財)日本生産性本部地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html 参照。
提言内容は多岐にわたるが、ポイントはサブタイトルにもなっている局職員の「補佐の射程」である。それは、公選職を支える立場として、局職員による自律的提案がどこまで許されるのかという、各々の立場から勝手な解釈をされてきた命題でもある(注2)。
注2 詳細は、清水克士「議会(事務)局職員の『補佐の射程』」(自治日報2023年9月11日号)を参照。
私自身の実体験として、執行機関では、産業政策課在籍時代に当時の副市長の応援もあって「企業立地促進条例」の制定をボトムアップで実現できたが、その後、議会事務局へ出向した際には、「議会基本条例」の制定をボトムアップで実現しようと局内で提案したところ、上司からは出過ぎた行為だ、と批判されたことを話した。
執行部職員も議会局職員も、等しく地方公務員法の適用を受ける立場にあり、「補佐の射程」が両者で異なることを正当化する法的根拠はない。それにもかかわらず、執行部職員と比べて局職員は、公選職に対する政策提案は抑制的であるべきとの認識が、全国的に常識化している。事実、提言で指摘する「管理抑制型事務局」(反対する事務局)や「受動補佐型事務局」(指示を待つ事務局)が大半である。だが、政策立案可能な議会を実現するには「能動提案型事務局」(行動する事務局)が必然となり、執行部と同様のボトムアップが常識とならなければ、実質的意味での議会の補佐組織とはとても言えないだろう。
もうひとつの重要な提言ポイントとして話したことは、局職員人事に関することである。それは議会の政策サイクルを支えるためには、有能な局職員の確保が必然となるからだ。ところが、全国の議長と接してきた経験からは、一般的に議会の代表者としての意識は強くとも、局職員の任命権者としての意識は、多くの場合希薄である(注3)。
注3 詳細は、清水克士「議長は『任命権者』ではなかったのか?」(ガバナンス2023年10月号)を参照。
むしろ局職員人事には口を出さないことが、議長としての美徳との意識さえ垣間見える。だが、それでは法で定められた任命権者としての職責の放棄であろう。二元的代表制の建前を唱えてみても、任命権者として守る覚悟がなければ、局職員が議会側の立場で行動することなど望めない。そのため提言では、抜本的対策として、局職員の独自採用の必要性についても触れている。
■母の最期の教え
私事であるが、今回のセミナーの直前に母が他界した。医師からはいつ寿命が尽きても不思議でないと宣告され、登壇日程と臨終が重なることも覚悟したが、まるで「人様に迷惑はかけさせない」と言うかのようなタイミングで母は逝った。
母の最期の言葉は「ありがとう、ありがとう…」であった。死期を悟って、最期に人に感謝する大切さを教えたかったのではないだろうか。終生、「ありがとう」の気持ちを忘れないよう肝に銘じたい。
第101回 ひと昔前の議会事務局と何が変わったのか? は2025年3月13日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。