議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第95回 議長選挙が「談合」でいいのか?
地方自治
2024.10.10
本記事は、月刊『ガバナンス』2024年2月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
先日、立候補制を採る自治体議会の副議長選挙で、立候補していない議員が当選し、選出過程の不透明さを指摘する報道があった(注1)。正副議長選挙(以下「議長選挙」)は、公職選挙法(以下「公選法」)が一部準用される選挙であるにもかかわらず、多くの議会で選出過程が不透明な実態がある。「市民に開かれた議会」を実現するためにも、議長選挙における立候補制の必要性について考えてみたい(注2)。
注1 京都新聞(2023年12月17日)
注2 公選法上の立候補制は公職の候補者以外への投票は認められないことから、議長選挙における立候補制の実質は、正確には「所信表明制度」とでも表現すべきものであるが、本稿ではあえて一般化された表現としている。
■議長選挙立候補制の法的考察
議長選挙における公選法の一部準用を定める地方自治法(以下「自治法」)118条では、立候補制を定める公選法86条の4は準用対象外とされている。このことから議長選挙への立候補制の導入はできないとする学説もある。そのため独自に立候補制を模索する議会では、所信表明を公式の議会活動ではない非公式の行為に位置付けて実施するなどの対応を余儀なくされてきた。
筆者は、公選法の準用除外条項のため、立候補者以外への投票を無効にするようなことはできないが、事実上の立候補制を導入すること自体は適法と従前から解しており、大津市議会でも2016年から立候補制を導入している。公選法は「その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保」することを目的規定に掲げており、一部であっても同法を準用する議長選挙の過程は、議員を選んだ市民の視点からも不透明であってはならないはずである。
議員選挙が、立候補し公約等を公表したうえでの選挙活動、投票と、そのプロセスを公開情報として市民は知ることができるのに対し、議長選挙では宣言後すぐに投票となり、特定議員に票が集中するのは、市民からは水面下での「談合」の結果にしか見えないからだ。
2018年4月には、櫻井周・衆議院議員による議長選挙の立候補制の適法性に関する質問主意書に対して、『「立候補する意思のある者にその旨を議会において表明させること」が否定されるものではないと解される』との政府見解が示された。もとより政府見解が法解釈を確定するものではないが、議長選挙における立候補制導入の議論にあたって、やらないで済ませるための後ろ向きの理屈を却下するには一助となるだろう。
■何のための所信表明か?
立候補制を導入するにあたっての重要な論点としては、所信表明を議会日程のどの時点で行うのか、公式日程か否かということがある。所信表明を選挙と同一日程で行う議会では、選挙の宣言後は議場を閉鎖し、発言が制限されることから、多くの場合、本会議を休憩して所信表明を行っている。それは標準会議規則の規定を前提としたものであり、規則を改正すれば何の問題もないはずだが、そもそも所信表明直後の選挙が妥当だろうか。
正副議長に適任な候補者を選ぶとの観点からは、所信表明は選挙日よりも前に行い、所信表明を聞いて会派で議論するなど、投票行動を決定するための熟議の時間を確保することが、制度趣旨を活かすためには必要ではないだろうか。
現実には公式会議録に残らない非公式日程で、外部には非公開、ネット中継も録画配信もせずに、所信表明を行う議会も多い。だが、誰のため、何のために行うのか?という改革の本質を考えれば、方向性は自ずと定まるのではないだろうか。
第96回 「議員選出監査委員制度」は廃止すべきではないか? は2024年11月14日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。