議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第92回 ペーパーレス化が議会改革なのか?

地方自治

2024.07.18

本記事は、月刊『ガバナンス』2023年11月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 先日、依頼された議会改革研修の受講者事前アンケートの集計結果を見て、若干の違和感を覚えた。今号では、違和感の原因である議会ICT(情報通信技術)化の課題認識と、議会改革の意義のズレについて考えてみたい。

■ICT化=タブレットなのか?

 議会ICT化の現状を問われて、その多くが議員にタブレットを配備したことや、導入の見通しについて述べていた。もちろん、タブレット導入も議員の保有情報量を増やし、より緻密な議会審議に資するため、決して否定されるものではない。

 だが、議会改革手法としての優先順位は決して高くはない。それは、単に議員にタブレットを配備しても、市民にとっては直接的なメリットに乏しいからだ。

 ICT化の範疇で市民利益の最大化を考えるなら、議決機関の本質的権能である採決を電子化することが最優先ではないだろうか。通常の起立採決では、議案に対する賛否の多寡を測るに過ぎず、議員個人の賛否態度は公式記録として残せないからだ。有権者にとっては次の投票行動を決める最も重要な情報であるにもかかわらず、議会が公式記録として残せないのは、有権者ファーストとは言い難いだろう。

 また、市民にわかりやすい一般質問を実現するとの観点からは、口述以外に写真やグラフ等を投影して質問できるよう、議場設備を整備するとともに、質問者による操作端末としてタブレットを活用するなどの筋書なら、市民もICT化のメリットを実感できるのではないか。

 議会改革は議員ではなく、市民のためのものとの原点を再確認し、市民が改革の成果を実感しうるものを優先することが必要だろう。

■ペーパーレスが目的でいいのか

 一方、タブレット導入にあたり、多くの議会がペーパーレス化を目標に掲げているが、果たしてそれは正鵠を射たものだろうか。もちろんペーパーレスも意義あることだろうが、議事機関の本質とは無縁であり、議会が最優先にすべき改革の目標とまでは思えないのである。

 タブレットを議員に配備し議会に導入する本質的意義は、議会審議の深化に資する情報量の豊富化と、情報アクセスの迅速化だろう。情報が電子化されることにより、結果としてペーパーレス化が進展するが、それは反射的利益に過ぎない。

 議事機関として重要な予算や決算審査を例にとれば、資料への書き込みのし易さから、審査対象年度の説明資料は紙のほうが使い易いと感じる議員の方が多いのではないか。一方で比較対照する過去資料は、電子データのほうが複数年度分を容易に携帯できるなど、紙資料よりもメリットが大きいだろう。

 あくまで議事機関の本質に適う情報提供手法を比較衡量すべきであり、ペーパーレスを前提に考えるのは本末転倒ではないだろうか。

■目指すべきは議会DX

 広義のICT化とは、情報通信技術を活用して情報共有する状態を指すが、DX(デジタルトランスフォーメーション)はデジタル技術を活用した事業の変革を指す。議会に求められるのは、タブレット等のIT機器や情報技術の導入自体を目的とすることではなく、それらをどのように活用して、より市民にわかりやすい議会活動の実現に資するかを見極めることであろう。議会改革で必要とされるのは、ICT化ではなくDXなのではないだろうか。

第93回 『なぜ法定外制度が議会では主役なのか?』 は2024年8月15日(木)公開予定です。

 

 

Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、20233月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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