議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第89回 自ら決められない議会に「住民自治」が担えるのか

地方自治

2024.04.11

本記事は、月刊『ガバナンス』2023年8月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 6月にあるジャーナリストから、地方議会改革の話の流れで、憲法改正を前提とした自治体への議院内閣制導入について、見解を求められた。

 テーマが大きく、様々な論点が想定されるので、ここでは自治体議会における政党政治と地域代表制の論点から、私見を整理してみたい。

■必然となる政党政治

 現行の地方自治制度は、首長と議員がそれぞれ直接選挙で選出される二元的代表制であり、首長は議会多数派に支持されるとは限らない。

 一方、国政では国会における多数派政党が首相を指名して政策を推進する議院内閣制である。

 議会と首長が対等関係にある二元的代表制とは異なり、議院内閣制では議会多数派の政党が政策決定に大きな影響力を持つため、政党政治が前提となる。自治体に議院内閣制を導入すれば、国会と同様に自治体議会でも政党化の流れは必然と想定される。

■政党政治の利害得失

 では、政党政治化が自治体議会にも相応しいのだろうか。

 自治体議会では、その規模によって政党化比率は異なる。無所属を標榜する議員の割合は、都道府県議会では23.2%、市議会では59.4%、町村議会では87.4%と事情は大きく異なる(注)

注 総務省「地方公共団体の議会の議員及び長の所属党派別人員調等」(2022年12月31日現在)

 この結果からは、広域自治体議会よりも基礎自治体議会、大規模議会よりも小規模議会の政党化比率が低いことから、政党化と地域代表制はトレードオフの関係性にあると言えるのではないだろうか。

 政党は、共通の主義主張を持った者が集まり、政策形成を図り、実現することを目的の一つとした集団であり、政党政治化した議会のほうが、より活発な政策論争が期待できる一面もあるだろう。

 しかし、自治体議員は、地域代表制を重視した選挙制度が維持されてきた歴史的経緯も相まって、「住民自治」を具現化する重要な役割を担うことも言を俟たない。

■「住民自治」と政党の親和性

 「住民自治」の視点での政党化の弊害は、議案に対する賛否態度や政策立案内容について、時として党本部からの干渉を受けることだ。議決に至る賛否態度決定は議員にとって最も重要な仕事であり、政策立案も地域の実情を第一に反映したものであるべきであろう。

 地方分権は、地域の多様性が軽視された画一的な政策に対するアンチテーゼではなかったか。党本部が決めたことに追従するだけでは、住民から見た自治体議会の存在感が高まることはないだろう。住民の代表である自治体議員は、住民が地域のことを決める「住民自治」を推進すべき立場にあるはずだが、国の機関ではない政党からといえども、中央の指示で地方の意見を変えてしまっては自己矛盾であろう。

■求められる多様な地方自治制度

 地方政治は国政の縮図であるべきではないことを前提に比較衡量するなら、自治体議会の政党化の進展は、住民自治を減殺するデメリットの方が大きいのではないか。

 したがって、政党政治を前提とする議院内閣制と、「住民自治」を担う自治体議会との親和性については、私は否定的に解している。

 いずれにしても、地方自治制度改革は地方のことは地方で決めることを普遍的前提として、規模や地域によって多様な枠組みを構築することが必要ではないだろうか。

 

第90回 『誰のため、何のための「一般質問」なのか?』 は2024年5月9日(木)公開予定です。

 

 

Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、20233月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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