議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第93回 なぜ法定外制度が議会では主役なのか?
地方自治
2024.08.15
本記事は、月刊『ガバナンス』2023年12月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
先日担当した全国市町村国際文化研修所での事務局職員研修で、議会改革における優先度の視点と方向性を主旨とした事前質問を受けた。今号では前述の観点から、議会改革を俯瞰してみたい。
■議会の特異性
改革における優先度については、それぞれの議会が置かれた状況にもよるため、絶対的な視点は示し難いが、普遍的な判断基準の一つには法定制度の活用度がある。
事実、自治体業務は多様であるが、まずは法定権限、制度に基づいて事務執行し、それでもニーズに対応できない場合に独自制度の創設、展開を試みることが一般的である。
ところが議会では、地方自治法(以下「自治法」)に定める権限、制度を試みようともしない一方で、法に定めのない独自制度の運用には熱心な感がある。
■法が予定する議会活動とのズレ
議会の行政監視機能においては、自治法98条で検査権や監査請求権、100条で調査権などが定められているが、活用例は極めて限られる。特に実地検査権がない議会にとっては、監査委員に実地検査を求められる監査請求権は、日常的に有用な制度だと思うが放置状態である。一方で自治法に定めがない一般質問が、議会の監視機能の中心であるかのような認識が定着している。
同様に、憲法94条に定める条例制定権の行使は検討さえせず、事実行為としての決議や首長への提言をすることが、議会の政策立案だとする自治体議会も多い。だが、何の拘束力もない決議や要望と、強制力を伴う条例では、議会提案の政策の実現性は雲泥の差だろう。
住民広聴機能においては、自治法115条の2に定める公聴会や参考人招致などが放置される一方で、議場外での非公式活動である議会報告会が、住民広聴の核心であるかのように語られてきた。だが、公式会議録に残る公聴と非公式の広聴では、機関にとってどちらを優先すべきかは明らかだろう。
■法定外制度偏重の危うさ
法定制度が敬遠されるのは、手続きの煩雑さ等の理由もあろうが、そもそも検討したこともない議会のほうが多いのではないだろうか。
地方分権の理念からは、本来、独自制度の追求は否定されるものではないが、立法趣旨に適うものであるべきだろう。執行機関の制度は法定外であっても、議会によって立法趣旨適合性が担保される。だが、議会には監視機関が存在しないこともあり、議会の法定外制度は、機関の本質から遠ざかる傾向にあるように思える。
それは、法的根拠がなく「自分たちの都合で決めたこと」や「自分たちが過去にしたこと」に過ぎない「申し合わせ」や「先例」で、議会運営を事実上決めている状況に似ている(注1)。象徴的な例は議長の法定任期を、「申し合わせ」で事実上短縮している議会が多いことだ(注2)。監視機関がなければ、脱法行為と言われかねない運用でさえ、「普通」にしてしまうのである。
注1 清水克士「議会運営の『先例』は『麻薬』なのか?」(「ガバナンス」2016年7月号)、「『申し合わせ』は『公然の秘密』なのか?」(「ガバナンス」2016年8月号)
注2 清水克士「住民認知度向上に求められるものは何か?」(「ガバナンス」2023年7月号)
だが、少なくとも立法時には必要と考えられたからこその法定制度である。それを顧みず法定外制度を偏重する議会が、機関として法令遵守していると言えるだろうか。
まずは立法趣旨に適う議会活動について、「常識」に囚われず自分で考えることが大事である。そこから目指すべき議会改革の方向性が、見えてくるのではないだろうか。
第94回 『なぜ「会議規則」が法を超越するのか?』 は2024年9月12日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。