マイナンバーカードの健康保険証利用を進めるために~目指すものと今後の取り組み~

地方自治

2024.05.29

この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2024年4月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

マイナンバーカードの健康保険証利用を進めるために~目指すものと今後の取り組み~
(特集 2024年度デジタル化の展望


厚生労働省大臣官房付(保険局併任)
大竹 雄二

(月刊「J-LIS」2024年4月号)

はじめに

 マイナンバーカードは、デジタル社会における公的基盤となるものです。対面で本人確認書類を提示する方法やコピーを送付する方法ではなく、オンラインで本人確認が可能となることで、利用者の利便性が高まり、事務の効率化にもつながります。

 このマイナンバーカードが公的基盤として定着するためには、確定申告やコンビニでの証明書取得などにおける利用に加えて、「日常生活で幅広く利用する」ものになることがポイントになります。多くの方が持ち歩き、使用している健康保険証としての利用を進めることは、こうした観点からも非常に重要です。

 同時に、マイナンバーカードは、より良い医療を実現し、我が国の医療DXを進めるための基盤にもなります。医療情報を利活用する基盤が整うことで、保健・介護分野も含め、分散している様々なデータの利活用が可能となり、より良い医療やサービスを受けられるようになります。また、医療DXにより効率化、省力化を進めることは、現役世代の人口が急減する2040年頃を見据えた社会保障を考えていく上でも、極めて重要です。

 政府においては、こうしたメリットを早期に最大限発揮するために、本年12月2日から、現行の健康保険証の発行を終了し、マイナンバーカードを基本とする仕組みに移行することとしています。移行に際しては、デジタルとアナログの併用期間を設け、すべての方が安心して確実に保険診療を受けていただける環境整備に取り組むとともに、利用促進の取り組みを積極的に図っていくこととしています。

 本稿では、健康保険証利用を進める目的や、マイナンバーカードを基本とする仕組みに向けた取り組みについて説明します※)

※)本稿の意見にわたる部分は個人の見解です。

健康保険証利用が目指すもの

 マイナンバーカードの健康保険証利用(以下「マイナ保険証利用」という。)については、健康保険証が単に電子化されるだけという印象を持たれがちです。しかしながら、それにとどまらず、医療や社会保障全体を変えていく仕組みだということが重要です。

 これまでも、医療分野のデジタル化については多くの議論がなされてきており、例えば、どの医療機関でも自分が過去受診した際の情報を共有できないかということも構想されてきました。しかしながら、様々な課題があり、実現に至っていませんでした。コロナ禍により、日本社会や医療分野のデジタル化の遅れが顕在化したと言われていますが、その背景には、本人の情報が各関係機関に分散しているなかで、関係者間で安全に情報をやりとりする仕組みがなかったことや、同姓同名同生年月日の方もいるなかで、確実に本人確認・本人特定をする手法がなかったことなどの課題がありました。

 これらの課題について、マイナ保険証利用を可能とする「オンライン資格確認」の導入により、以下のことができるようになりました。

① 医療情報を個人ごとに把握し、本人の情報を確実に提供することができる

② 患者・利用者の同意を確実にかつ電子的に得ることができる

③ 全国の医療機関・薬局が安全かつ常時接続されるようになる

 分散していた様々な情報を利活用しやすくなる基盤ができ、そのカギとなるのが、確実な本人確認を可能とするマイナンバーカードとなります。

マイナ保険証利用のメリットとその発信

 マイナ保険証利用を進めていくためには、利用者にそのメリットを実感していただくことが重要です。マイナ保険証利用をすることで、患者本人の健康・医療情報に基づくより良い医療を受けることができることや、医療費が高額になった場合に限度額を超える支払いの免除が受けられるなどのメリットがあります。

 メリットを実感しづらいというご意見もいただいていますが、例えば、初めて行く医療機関では、診断する医師からすると、過去の医療情報がわからない状態ではなく、手がかりとなる医療情報があることは極めて有益です。また、いつも同じ医療機関に通っている場合でも、複数の医療機関を受診している場合に、他の医療機関での診療状況が網羅的に把握できることは、同じ成分の重複した薬や飲み合わせの良くない薬を受け取ることがなくなるなど、診療や薬を処方する上で有益です。患者から医師に対して口頭で正確に情報を伝えることは難しいことを考えると、正確な情報である点も重要です。

 リアルタイムの情報ではないという制約もありますが、今後は、リアルタイムでの薬剤情報の連携が可能な電子処方箋が普及し、電子カルテ情報の共有も2025年度中に本格稼働する予定です。さらには、スマートフォンへの電子証明書の搭載が広がると、持ち歩くことが一般的になることに加え、診察券や公費負担医療の受給者証との一体化や、救急医療における患者の健康・医療データの活用も予定されています(図-1)。利用者の方からすると、現在複数枚持っている診察券などが1枚で済むようになると、かなり便利だと感じていただけるのではないかと思いますし、救急医療での活用が進むと、いざというときのために持っておこうとなるのではないでしょうか。令和6年能登半島地震においては、「オンライン資格確認」の仕組みを用いて、本人同意の下、避難先において本人の服薬履歴等の確認が行われるなど、デジタル化の利点が活かされています。

図-1 医療DXの基盤となるマイナ保険証

 事務効率化のメリットは、実感しづらいですが、最終的には保険料の軽減という形で還元されますし、人口減少社会においては、サービスの維持という意味でも重要です。

 このように、現時点で実感できるメリットだけではなく、今後どのようなサービスが受けられるようになるのか、どのような社会を目指しているのかということをより発信していくことも必要でしょう。保険証による受診という慣れ親しんできた行動を変えるのは簡単ではありませんが、ぜひ新たな仕組みに慣れていっていただければと思います。

 メリットだけではなく、セキュリティに不安を感じている方もいらっしゃることから、誤登録防止策が講じられていることも含め、安全性に関する発信も引き続き行っていきます。

マイナンバーカードを基本とする仕組みへの移行に向けた取り組み

 政府においては、本年12月2日から、現行の健康保険証の発行を終了し、マイナンバーカードを基本とする仕組みに移行することとしています。マイナンバーカードでしか受診できなくなるわけではなく、12月2日時点ですでに発行されている有効な健康保険証については、最大で1年間、先に有効期間が到来する場合は有効期間まで使用可能とする経過措置を設けるとともに、マイナ保険証をお持ちでない方については、別途、申請によらず「資格確認書」を発行します。有効期間は5年以内で保険者が設定し、更新も可能です。

 また、マイナ保険証の読み取りができない例外的な場合に備え、自分自身の被保険者資格等を簡単に把握できるよう、マイナ保険証をお持ちの方などに「資格情報のお知らせ」を送付します(図-2)。

図-2 マイナ保険証への円滑な移行に向けた対応

 これらに先立ち、現在健康保険証が利用されている様々な機会で対応できるよう、以下の仕組みをそれぞれ運用開始予定としています。生活保護受給者の医療扶助における医療券・調剤券としての利用も3月から開始されます。

○ 本年4月~:訪問診療やオンライン診療等において、「患者が外来窓口に来ない場合でも資格確認や情報閲覧が可能となる仕組み」(居宅同意取得型。訪問看護については6月から)

○ 本年4月~:柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師の施術所等や健診実施機関等において、「資格確認のみを行う簡素な仕組み」(資格確認限定型)

○ 本年7月~:「保険医療機関ではない」職域診療所において、資格確認等を行う仕組み(既存型)

保険証利用促進に向けた取り組み

 このような枠組みとした上で、より多くの方にマイナ保険証を利用し、メリットを実感していただけるよう、医療機関・薬局、医療保険者、経済界等のご協力をいただきながら、より一層の取り組みを進めていくこととしています。

 例えば、マイナ保険証利用のためには、マイナンバーカードの取得、保険証利用登録、マイナンバーカードの携行という段階を踏みますが、マイナンバーカード保有者の5割が携行しているとのデータもあります。携行していれば、医療機関・薬局の窓口でお声がけすることで利用につながりますので、このような対応も行っていきます。医療機関・薬局への報酬を定めている診療報酬においても、マイナ保険証利用を促す取り組みを行っていることや、利用実績が一定以上であることを評価する仕組みとなります。

 その他、医療機関・薬局においては、利用率増加に応じたインセンティブの導入や、カードリーダーの増設、診察券等との一体化等への補助を行うとともに、国所管団体が開設する公的医療機関等における利用率の目標設定等をお願いしています。また、公的医療機関に限らず、すべての医療機関において自主的な目標を設定することなどができるよう、利用実績をお知らせすることとしています。

 保険者においては、マイナ保険証の利用率について目標を設定するとともに、その実績を保険者インセンティブ制度等で評価することとしています。また、加入者に対して、メリットの周知や利用の促進を進めていただくこととしています。被用者保険においては、事業主における取り組みが重要になるため、健康経営優良法人認定制度における認定等の際の調査項目にマイナ保険証の利用促進に向けた取り組み状況を追加することや、各種イベント・会合で事業主や保険者に利用促進を呼びかけることとしています。

 このように、あらゆる機会を通じた取り組みをお願いしています。

おわりに

 マイナ保険証利用が進むことは、マイナンバーカードの利用が日常生活レベルで定着していくことにつながり、ひいては、自治体や企業における各種手続のデジタル化の定着にもつながっていきます。逆に、各種手続のデジタル化の定着がマイナ保険証利用にもつながります。そのため、各自治体においても、医療保険の保険者としての対応だけではなく、例えば、自治体立病院・診療所での積極的な活用を進めていただくことや、住民の方々との様々な接点において、後押しをお願いしたいと考えています。

 読者の皆様方も、ぜひ、マイナ保険証をご利用いただくとともに、そのメリットをそれぞれのお立場で周りの方、関係する方にお伝えいただければと思います。多くの方々に認知され、行動が少しずつ変わっていくことで、世の中の大きな変化につながればと思います。

 

Profile
大竹 雄二 おおたけ・ゆうじ
2000年厚生労働省入省。入省後、高齢者医療や介護保険、社会保障のデジタル化などを担当。その後、北海道庁において地域医療などを担当。2020年から2022年まで、保険データ企画室長としてマイナ保険証利用の施行を担当。2023年10月より現職。

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